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第305話 side景
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マンションのエレベーターの中で、詩音から貰った花束とライターを眺めていた。
すごく嬉しかった。
僕の事を考えて選んでくれたのかと思うと、胸がじんわりと温かくなる感じだ。
でも、これからもっと嬉しい事が待っている。
やっと、やっと会えるんだ。
修介と、甘いひと時を過ごせるんだ。
こんなに心が弾んでいるだなんて子供みたいだけど、気持ちが抑えられなかった。
エレベーターから降りて、小走りで自分の部屋へ向かい、カードキーをかざしてドアを開ける。
「修介、ただいま!」
中を覗くと、修介はいなかった。
電気もついておらず真っ暗で、朝出て来た状態とまるで変わらない。
「修介?」
もしかして、驚かそうとして隠れているのか?
そう思ってもう一度名前を呼んでみる。
でも靴も置いてないし、中からは何も反応は無く、耳鳴りがしそうなくらいシンと静まり返っている。
僕はポケットからスマホを取り出した。
特に修介からの連絡は無い。
何かあったのかな。あぁでも、買い物でもしに出かけているのかもしれない。
そのまま修介の番号に電話を掛けてみた。
耳にスマホを当てていると、七回ほどコール音が鳴ってから電話に出てくれた。
『もしもし……』
なんだか様子が変だった。
心なしか元気がないような気がする。
「あ、今、どこにいるの? 遅くなっちゃってごめんね。マンションに着いたんだけど」
僕はあえて明るい調子で話しかけたけど、修介はしばらく何も言わなかった。
ここで、嫌な予感がした。
まさか今日、彼と会えないんじゃないだろうか。
『景、ごめん。今日おれ、そっち行けなくなった……』
「え?」
嫌な予感は見事に的中した。
行けなくなったって……やっぱりここには来てなかったのか。
「どうしたの? 具合でも悪いの?」
『あ、いや、ちょっと事情があって……今度、ちゃんと話すから……あの、ホンマごめん』
「事情って、何?」
『ううん、別に! ちょっと、いろいろと。あ、景、誕生日おめでとう! 一緒に過ごせなくて、ホンマにごめん』
「……」
修介はそれ以上何も言ってこなかった。
僕もそのまま何も言えずにしばらく沈黙が続く。
”別に”
修介がこう口にする時といえば、僕に本当の事を言えない時とか、嘘を吐いている時とかだ。
重村くんとの事で隠し事はないかと問いただした時も、僕の事を好きなのか問いただした時も、修介は『別に』と言った。
……怪しい。
修介、何かあったのか?
最近様子が変だ。
僕と会うの、楽しみにしてくれてたんじゃないの?
──僕はずっとずっと、この日を楽しみに仕事をしてきたよ。
今日会いたいって修介の方から言ってくれて、本当に嬉しかったんだ。
修介の声が聞けなくて、話が出来なくて、ちょっと寂しかったんだよ。
今からでも、来れないの?──
全部、心の中で呟いた後、僕は花の爽やかな香りを吸い込んで笑顔を作った。
「ありがとう。いいよ、もともと僕がゆっくり時間取れないのが悪いんだし。今度一日オフの時にまたおいでよ。たぶん、ちょっと先になっちゃうけどさ」
『あ、うん! そん時は、絶対行く! ホンマごめんな?』
「もういいよ、謝らなくて。じゃあ、またね」
電話を切ってから、リビングへ続く廊下を眺めた。
パタパタと駆け寄ってきて、無邪気におかえりーって言ってくれる修介を勝手に想像していた。
僕は自嘲気味にクスリと笑う。
馬鹿だなぁ。期待しすぎなきゃいいのに。
でもきっと、修介もいろいろあるんだよね。
もしかしたら、とても大事な用事があって、やむを得ずなのかもしれない。
今度、ちゃんと話すって言ってくれたんだ。それを信じて待っていよう。
気持ちを切り替えてスマホをポケットに仕舞おうとしたら、詩音からプレゼントされたライターが指先に当たった。
ふと思い立って、もう一度スマホを取り出し、詩音の番号に電話を掛けてみた。
すごく嬉しかった。
僕の事を考えて選んでくれたのかと思うと、胸がじんわりと温かくなる感じだ。
でも、これからもっと嬉しい事が待っている。
やっと、やっと会えるんだ。
修介と、甘いひと時を過ごせるんだ。
こんなに心が弾んでいるだなんて子供みたいだけど、気持ちが抑えられなかった。
エレベーターから降りて、小走りで自分の部屋へ向かい、カードキーをかざしてドアを開ける。
「修介、ただいま!」
中を覗くと、修介はいなかった。
電気もついておらず真っ暗で、朝出て来た状態とまるで変わらない。
「修介?」
もしかして、驚かそうとして隠れているのか?
そう思ってもう一度名前を呼んでみる。
でも靴も置いてないし、中からは何も反応は無く、耳鳴りがしそうなくらいシンと静まり返っている。
僕はポケットからスマホを取り出した。
特に修介からの連絡は無い。
何かあったのかな。あぁでも、買い物でもしに出かけているのかもしれない。
そのまま修介の番号に電話を掛けてみた。
耳にスマホを当てていると、七回ほどコール音が鳴ってから電話に出てくれた。
『もしもし……』
なんだか様子が変だった。
心なしか元気がないような気がする。
「あ、今、どこにいるの? 遅くなっちゃってごめんね。マンションに着いたんだけど」
僕はあえて明るい調子で話しかけたけど、修介はしばらく何も言わなかった。
ここで、嫌な予感がした。
まさか今日、彼と会えないんじゃないだろうか。
『景、ごめん。今日おれ、そっち行けなくなった……』
「え?」
嫌な予感は見事に的中した。
行けなくなったって……やっぱりここには来てなかったのか。
「どうしたの? 具合でも悪いの?」
『あ、いや、ちょっと事情があって……今度、ちゃんと話すから……あの、ホンマごめん』
「事情って、何?」
『ううん、別に! ちょっと、いろいろと。あ、景、誕生日おめでとう! 一緒に過ごせなくて、ホンマにごめん』
「……」
修介はそれ以上何も言ってこなかった。
僕もそのまま何も言えずにしばらく沈黙が続く。
”別に”
修介がこう口にする時といえば、僕に本当の事を言えない時とか、嘘を吐いている時とかだ。
重村くんとの事で隠し事はないかと問いただした時も、僕の事を好きなのか問いただした時も、修介は『別に』と言った。
……怪しい。
修介、何かあったのか?
最近様子が変だ。
僕と会うの、楽しみにしてくれてたんじゃないの?
──僕はずっとずっと、この日を楽しみに仕事をしてきたよ。
今日会いたいって修介の方から言ってくれて、本当に嬉しかったんだ。
修介の声が聞けなくて、話が出来なくて、ちょっと寂しかったんだよ。
今からでも、来れないの?──
全部、心の中で呟いた後、僕は花の爽やかな香りを吸い込んで笑顔を作った。
「ありがとう。いいよ、もともと僕がゆっくり時間取れないのが悪いんだし。今度一日オフの時にまたおいでよ。たぶん、ちょっと先になっちゃうけどさ」
『あ、うん! そん時は、絶対行く! ホンマごめんな?』
「もういいよ、謝らなくて。じゃあ、またね」
電話を切ってから、リビングへ続く廊下を眺めた。
パタパタと駆け寄ってきて、無邪気におかえりーって言ってくれる修介を勝手に想像していた。
僕は自嘲気味にクスリと笑う。
馬鹿だなぁ。期待しすぎなきゃいいのに。
でもきっと、修介もいろいろあるんだよね。
もしかしたら、とても大事な用事があって、やむを得ずなのかもしれない。
今度、ちゃんと話すって言ってくれたんだ。それを信じて待っていよう。
気持ちを切り替えてスマホをポケットに仕舞おうとしたら、詩音からプレゼントされたライターが指先に当たった。
ふと思い立って、もう一度スマホを取り出し、詩音の番号に電話を掛けてみた。
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