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第302話
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(死……死ぬ……)
見なくても誰からかなんて分かり切った俺は、莉奈に一言言って部屋から出た。
息を大きく吸い込んで、電話に出る。
「もしもし」
どうしよう。どうしよう。
そればっかり頭にあって、肝心の言い訳の言葉は全く浮かんでこない。
景は俺の心境とは裏腹に、明るく声を発した。
『あ、今、どこにいるの? 遅くなっちゃってごめんね。マンションに着いたんだけど』
そうだよね。もう着いたよね。
って、遅くないよ! むしろ着くの早くない? 予定よりも大分!
あぁ、もうこれは完全にアウトだ。
俺は激しくうなだれてから、目を閉じた。
「景、ごめん。今日おれ、そっち行けなくなった……」
『え?』
そうだよね。え、だよね。
だって、せっかくの景の誕生日なのに。
俺が会いたいって言い出したのに。
『どうしたの? 具合でも悪いの?』
景は俺を責めることもなく、心配だというような口調で優しく語りかけた。
景はいつも優しい。
自分より俺の心配をしてくれて。
そんな景に、俺は罪悪感に駆られてしまう。
そうか。具合が悪いって言えば、何にも怪しまれずに済む。
嘘を吐こうか。具合悪くて、寝込んでいるんだって。
だめだ。
そんな嘘、今は隠し通せても後々バレるに決まってる。
それに景の事だから、心配だから今からお見舞いに行くだなんて言いかねないし。
莉奈やゆきちゃんの事は電話じゃなくて直接ちゃんと話したい。
とにかく、ここは謝っておくしかない。
「あ……いや、ちょっと事情があって……今度、ちゃんと話すから……あの、ホンマごめん」
『事情って、何?』
「ううん、別に! ちょっと、いろいろと。あ、景、誕生日おめでとう! 一緒に過ごせなくて、ホンマにごめん」
ごめん、景。
俺が悪いんだ。
今日、馬鹿なことばっかりやらかすから。
きっと怒っただろう。
ちょっとだけ涙がじんわりと滲んで、不安でいっぱいになってギュッと目を瞑った。
景からいろんな文句を言われるのだろうと心構えをしていたけど、返ってきたのは穏やかで優しい声だった。
『ありがとう。いいよ、もともと僕がゆっくり時間取れないのが悪いんだし。今度一日オフの時にまたおいでよ。たぶん、ちょっと先になっちゃうけどさ』
えぇ!
天使! 景、こんな俺を責める事なく、納得してくれたの?
途端に喉のつっかえが取れたように、気分が晴れやかになった。
「あ、うん! そん時は、絶対行く! ホンマごめんな?」
『もういいよ、謝らなくて。じゃあ、またね』
うん、ごめんっ、と何度も謝りながら電話を切った。
とりあえず、怒ってはないみたい……だよね?
「はぁ~、良かった……」
口に出してから、ハッとして、プレゼントを購入した店に電話を掛けた。
引き取りは今日じゃなくても、近いうちだったらいつでもいいらしい。
明後日時間がありそうだから取りに行くことにした。
ドアを開けて部屋に入ると、莉奈はスマホと睨めっこをしていた。
「あ、北村さん。彼氏、やっぱり私の家に来てるみたいです」
「あぁ、やっぱそうなんか。俺の事、何か言うてる?」
「もし今度会ったら、ぶん殴るって」
ゆきちゃんとはもう二度と会わないでおこう。
俺はそう固く胸に誓った。
見なくても誰からかなんて分かり切った俺は、莉奈に一言言って部屋から出た。
息を大きく吸い込んで、電話に出る。
「もしもし」
どうしよう。どうしよう。
そればっかり頭にあって、肝心の言い訳の言葉は全く浮かんでこない。
景は俺の心境とは裏腹に、明るく声を発した。
『あ、今、どこにいるの? 遅くなっちゃってごめんね。マンションに着いたんだけど』
そうだよね。もう着いたよね。
って、遅くないよ! むしろ着くの早くない? 予定よりも大分!
あぁ、もうこれは完全にアウトだ。
俺は激しくうなだれてから、目を閉じた。
「景、ごめん。今日おれ、そっち行けなくなった……」
『え?』
そうだよね。え、だよね。
だって、せっかくの景の誕生日なのに。
俺が会いたいって言い出したのに。
『どうしたの? 具合でも悪いの?』
景は俺を責めることもなく、心配だというような口調で優しく語りかけた。
景はいつも優しい。
自分より俺の心配をしてくれて。
そんな景に、俺は罪悪感に駆られてしまう。
そうか。具合が悪いって言えば、何にも怪しまれずに済む。
嘘を吐こうか。具合悪くて、寝込んでいるんだって。
だめだ。
そんな嘘、今は隠し通せても後々バレるに決まってる。
それに景の事だから、心配だから今からお見舞いに行くだなんて言いかねないし。
莉奈やゆきちゃんの事は電話じゃなくて直接ちゃんと話したい。
とにかく、ここは謝っておくしかない。
「あ……いや、ちょっと事情があって……今度、ちゃんと話すから……あの、ホンマごめん」
『事情って、何?』
「ううん、別に! ちょっと、いろいろと。あ、景、誕生日おめでとう! 一緒に過ごせなくて、ホンマにごめん」
ごめん、景。
俺が悪いんだ。
今日、馬鹿なことばっかりやらかすから。
きっと怒っただろう。
ちょっとだけ涙がじんわりと滲んで、不安でいっぱいになってギュッと目を瞑った。
景からいろんな文句を言われるのだろうと心構えをしていたけど、返ってきたのは穏やかで優しい声だった。
『ありがとう。いいよ、もともと僕がゆっくり時間取れないのが悪いんだし。今度一日オフの時にまたおいでよ。たぶん、ちょっと先になっちゃうけどさ』
えぇ!
天使! 景、こんな俺を責める事なく、納得してくれたの?
途端に喉のつっかえが取れたように、気分が晴れやかになった。
「あ、うん! そん時は、絶対行く! ホンマごめんな?」
『もういいよ、謝らなくて。じゃあ、またね』
うん、ごめんっ、と何度も謝りながら電話を切った。
とりあえず、怒ってはないみたい……だよね?
「はぁ~、良かった……」
口に出してから、ハッとして、プレゼントを購入した店に電話を掛けた。
引き取りは今日じゃなくても、近いうちだったらいつでもいいらしい。
明後日時間がありそうだから取りに行くことにした。
ドアを開けて部屋に入ると、莉奈はスマホと睨めっこをしていた。
「あ、北村さん。彼氏、やっぱり私の家に来てるみたいです」
「あぁ、やっぱそうなんか。俺の事、何か言うてる?」
「もし今度会ったら、ぶん殴るって」
ゆきちゃんとはもう二度と会わないでおこう。
俺はそう固く胸に誓った。
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