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第276話
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途端に店内がシンと静まり返った。
きっと店員さんにさっきから変な客だと思われているに違いない。
いや、実際莉奈は変だ。
彼氏にそんな怪我をさせられたっていうのに、それはまるで自分が悪いかのように言っている。
きっといくら俺が別れろって言っても莉奈は別れる気は無いんだろう。
「ご、ごめん。悪く言うつもりはなかったんやけどな、彼氏の事。でも、嫌だなって思うんやったら、ちゃんと言ったほうがええんやないの? その、ゆきちゃんに」
「言ってはいるんですよ。そうしたらゆきちゃんはちゃんと謝ってくれるんです。最近うまくいかない事が多くて、ストレスが溜まってるんだって言って。ごめんねって言いながら昨日も包帯まいてくれました」
莉奈は彼氏のゆきちゃん(幸弘というらしい)について話し始めた。
誕生日だってサプライズでテーマパークに連れて行ってくれたし、風邪を引いて寝込んでいたら埼玉から莉奈の家に突然やってきて看病してくれたり。
カッとなる事を抜かせば、話を聞く限りはいい彼氏だなということは俺もなんとなく分かった。
なんてアドバイスをすればいいのか分からずに、俺はとうとうアイスコーヒーを飲み干してしまった。
別れろなんて他人事だから簡単に言えるけれど、当の本人にその気が無かったらいくら言っても無駄な気がする。
とりあえず、今俺が思っている事を莉奈に伝える事にした。
「じゃあ、莉奈が彼氏と喧嘩になって落ち込んだりしたら俺に言うてくれる? 電話でもバイト先でも、話聞いたるで?」
「え?」
「心配やねん。今回はそのくらいの怪我で済んだからええけど、もっと酷い怪我させられたらどないするん? もし辛いとか思ったらちゃんと言うんやで?」
「え、いいんですか? 話、聞いてくれるんですか?」
「話聞くだけやったらタダやしね。あんまり自分責めんほうがええよ? 自分だってストレス溜まってまうやろ?」
「北村さんって、やっぱり優しくてカッコいいですね~!」
莉奈の突然のお褒めの言葉に、なんだかとても照れてしまう。
「バイトで初めて話した時も思ったんです。なんだか優しそうだなぁって。性格って顔に出ますよね。北村さんはすごく穏やかな顔してますもん。彼女さん、きっとそんな優しいところに惚れちゃったんですね! 本当はゆきちゃんが北村さんみたいな人だったらいいなって思いますよ」
莉奈はふふ、と笑ってまたストローに口を付けた。
俺はやっぱり羞恥でいっぱいになってしまう。
自惚れた。それってまるで俺の事が好きみたいに聞こえてしまった。
とりあえず、ゆきちゃんの前では男の話は禁句にして、イラついてそうな時は外で会う機会を多くすればいいんじゃないかというアドバイスをして、店を出た。
「本当にご馳走さまでした! じゃあ、またバイトで」
「うん。次一緒に入るのは木曜日やったっけ? またな」
「はーい」
莉奈は手を振って帰っていった。
その後ろ姿を見送って俺も違う道を歩きながら、会った事もないゆきちゃんに少々苛立っていた。
なんで自分の好きな人の事をそんな風に出来るんだろう。
俺だったら景の事、大事に大事にするのにな。
あ、そんな事言ってる俺も、思い切り蹴った事はあったか。
景だったら、莉奈の彼氏の事を何て思うだろう。
景に電話で今度聞いてみようと思った。
きっと店員さんにさっきから変な客だと思われているに違いない。
いや、実際莉奈は変だ。
彼氏にそんな怪我をさせられたっていうのに、それはまるで自分が悪いかのように言っている。
きっといくら俺が別れろって言っても莉奈は別れる気は無いんだろう。
「ご、ごめん。悪く言うつもりはなかったんやけどな、彼氏の事。でも、嫌だなって思うんやったら、ちゃんと言ったほうがええんやないの? その、ゆきちゃんに」
「言ってはいるんですよ。そうしたらゆきちゃんはちゃんと謝ってくれるんです。最近うまくいかない事が多くて、ストレスが溜まってるんだって言って。ごめんねって言いながら昨日も包帯まいてくれました」
莉奈は彼氏のゆきちゃん(幸弘というらしい)について話し始めた。
誕生日だってサプライズでテーマパークに連れて行ってくれたし、風邪を引いて寝込んでいたら埼玉から莉奈の家に突然やってきて看病してくれたり。
カッとなる事を抜かせば、話を聞く限りはいい彼氏だなということは俺もなんとなく分かった。
なんてアドバイスをすればいいのか分からずに、俺はとうとうアイスコーヒーを飲み干してしまった。
別れろなんて他人事だから簡単に言えるけれど、当の本人にその気が無かったらいくら言っても無駄な気がする。
とりあえず、今俺が思っている事を莉奈に伝える事にした。
「じゃあ、莉奈が彼氏と喧嘩になって落ち込んだりしたら俺に言うてくれる? 電話でもバイト先でも、話聞いたるで?」
「え?」
「心配やねん。今回はそのくらいの怪我で済んだからええけど、もっと酷い怪我させられたらどないするん? もし辛いとか思ったらちゃんと言うんやで?」
「え、いいんですか? 話、聞いてくれるんですか?」
「話聞くだけやったらタダやしね。あんまり自分責めんほうがええよ? 自分だってストレス溜まってまうやろ?」
「北村さんって、やっぱり優しくてカッコいいですね~!」
莉奈の突然のお褒めの言葉に、なんだかとても照れてしまう。
「バイトで初めて話した時も思ったんです。なんだか優しそうだなぁって。性格って顔に出ますよね。北村さんはすごく穏やかな顔してますもん。彼女さん、きっとそんな優しいところに惚れちゃったんですね! 本当はゆきちゃんが北村さんみたいな人だったらいいなって思いますよ」
莉奈はふふ、と笑ってまたストローに口を付けた。
俺はやっぱり羞恥でいっぱいになってしまう。
自惚れた。それってまるで俺の事が好きみたいに聞こえてしまった。
とりあえず、ゆきちゃんの前では男の話は禁句にして、イラついてそうな時は外で会う機会を多くすればいいんじゃないかというアドバイスをして、店を出た。
「本当にご馳走さまでした! じゃあ、またバイトで」
「うん。次一緒に入るのは木曜日やったっけ? またな」
「はーい」
莉奈は手を振って帰っていった。
その後ろ姿を見送って俺も違う道を歩きながら、会った事もないゆきちゃんに少々苛立っていた。
なんで自分の好きな人の事をそんな風に出来るんだろう。
俺だったら景の事、大事に大事にするのにな。
あ、そんな事言ってる俺も、思い切り蹴った事はあったか。
景だったら、莉奈の彼氏の事を何て思うだろう。
景に電話で今度聞いてみようと思った。
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