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第240話 side桜理
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今日の収録はやたらと押した。
ったく。スタッフの段取りも悪かったし。
お陰でこっちは愛想笑いばっかり浮かべて疲れちまったじゃねぇか。
そうやって喫煙所で気の知れた俳優や芸人達と愚痴を言い合っていた。
エリは今頃向かいのカフェに来ている筈だ。これからデートをする予定になっている。
すぐ迎えに行ってやらなくちゃならないのに、ついつい気の合う友達がいるとこうやって話に花を咲かせてしまう。
さて、そろそろ向かうとするか、と仲間達に挨拶をし、建物の外に出たところで俺は目を見開いた。
エリが、すぐそこのベンチで座って待っていたからだ。
エリはニコッと微笑むと、組んでいた脚を直してコツコツとヒールを鳴らしてこちらに近づいて来た。
「桜理~? また共演者とペチャクチャお喋りしてたんでしょう? 待たされるこっちの身にもなってよね?」
「いててて!」
俺は思い切り頬を抓られる。
爪が! 魔女のように鋭くて長い爪が肌に食い込んで痛い!
「もうっ待ちくたびれちゃたわよ! 今日のディナーは奢りね?」
「はいはい、お姫様」
ようやく手を離してくれたけど、くっきり跡が残った。
結局、エリはこれだけで許してくれたらしい。
なんだかんだで、優しいんだよな。
こんな好き勝手にやる俺にあまり口出ししないから、一緒にいて楽なんだ。
俺たちはタクシーに乗り込み、銀座まで足を伸ばす事にした。
エリは月刊女性ファッション誌の専属モデルで、身長は176センチもある。
景の元カノの南とは同期だから、たまに遊んだりしているらしい。
景が南と付き合ってた頃は四人で遊んだ事もあったけど、それはもう無理な話だな。
エリが言うには、南は景の事をまだ引きずっているらしい。
景には新恋人がいて、しかもその相手は男なんだなんて南が知ったらどうなるのか……怖くて想像もしたくない。
別れる時、景、相当苦労したからな。
エリには景に恋人がいると言ってもいいかと思うけど、ふとした拍子で南にバレたら厄介だし、やっぱり隠しておいた方がいいか、と逡巡していると、エリは窓の外のカフェを指差した。
「あたしさ、さっき見たんだよね。ここで朝井さんと男の子がレジで言い争ってるところ」
「は? 朝井が?」
朝井とは正直あんまり話した事は無い。というか偉そうな態度が気にくわないから、影では呼び捨てにしている。
エリは運転手に盗み聞きされるのを恐れるように声を潜めて、こちらに顔を寄せた。
「ねぇ、朝井さんの噂って知ってる?」
噂って、朝井がゲイだって事か。俺は溜息を吐く。
「そんなん有名じゃねぇか。この界隈で知らねー奴はいねーだろ」
「あ、なーんだ。有名なんだこの話。つまんないの。でさ、さっき言い争ってたの、なんだかワケありって感じでさ! 何話してるのかは分からなかったけど、ツレの男の子は、困ります、とか言ってたから、どっちが支払うかで揉めてたみたい。その後は仲直りしたみたいで並んで外出てったんだよ」
「へぇ。すげー興味ねぇわ」
「もうっなんでよっ! 女同士だったら超盛り上がるのに! 朝井さんって、見かけによらずあんな子がタイプなんだなぁと思って。もっとガチムチ系かと勝手に想像してた。可愛い感じの子だよ。ちょっと訛り入ってて」
「へぇ。茨城訛りか?」
「私が実家帰ると茨城訛りすごいからって馬鹿にしないでよ! じゃなくてあれはきっと関西弁かな? 可愛い顔によく似合ってたよ」
関西弁で、可愛い顔の男?
そんなの、景の愛しのチンチクリンしか思い浮かばないけど、朝井とこんな場所にいる訳が無いし。
「ま、人は見かけによらねーって事だよな。タケだってあんな清純そうな顔しながらすげー遊んでるし」
「タケちゃんは見るからに遊んでそうじゃん!」
あぁ、それより腹減ったな。
はしゃぐエリに適当に相槌を打ちながら、窓の外の流れる景色を目で追った。
ったく。スタッフの段取りも悪かったし。
お陰でこっちは愛想笑いばっかり浮かべて疲れちまったじゃねぇか。
そうやって喫煙所で気の知れた俳優や芸人達と愚痴を言い合っていた。
エリは今頃向かいのカフェに来ている筈だ。これからデートをする予定になっている。
すぐ迎えに行ってやらなくちゃならないのに、ついつい気の合う友達がいるとこうやって話に花を咲かせてしまう。
さて、そろそろ向かうとするか、と仲間達に挨拶をし、建物の外に出たところで俺は目を見開いた。
エリが、すぐそこのベンチで座って待っていたからだ。
エリはニコッと微笑むと、組んでいた脚を直してコツコツとヒールを鳴らしてこちらに近づいて来た。
「桜理~? また共演者とペチャクチャお喋りしてたんでしょう? 待たされるこっちの身にもなってよね?」
「いててて!」
俺は思い切り頬を抓られる。
爪が! 魔女のように鋭くて長い爪が肌に食い込んで痛い!
「もうっ待ちくたびれちゃたわよ! 今日のディナーは奢りね?」
「はいはい、お姫様」
ようやく手を離してくれたけど、くっきり跡が残った。
結局、エリはこれだけで許してくれたらしい。
なんだかんだで、優しいんだよな。
こんな好き勝手にやる俺にあまり口出ししないから、一緒にいて楽なんだ。
俺たちはタクシーに乗り込み、銀座まで足を伸ばす事にした。
エリは月刊女性ファッション誌の専属モデルで、身長は176センチもある。
景の元カノの南とは同期だから、たまに遊んだりしているらしい。
景が南と付き合ってた頃は四人で遊んだ事もあったけど、それはもう無理な話だな。
エリが言うには、南は景の事をまだ引きずっているらしい。
景には新恋人がいて、しかもその相手は男なんだなんて南が知ったらどうなるのか……怖くて想像もしたくない。
別れる時、景、相当苦労したからな。
エリには景に恋人がいると言ってもいいかと思うけど、ふとした拍子で南にバレたら厄介だし、やっぱり隠しておいた方がいいか、と逡巡していると、エリは窓の外のカフェを指差した。
「あたしさ、さっき見たんだよね。ここで朝井さんと男の子がレジで言い争ってるところ」
「は? 朝井が?」
朝井とは正直あんまり話した事は無い。というか偉そうな態度が気にくわないから、影では呼び捨てにしている。
エリは運転手に盗み聞きされるのを恐れるように声を潜めて、こちらに顔を寄せた。
「ねぇ、朝井さんの噂って知ってる?」
噂って、朝井がゲイだって事か。俺は溜息を吐く。
「そんなん有名じゃねぇか。この界隈で知らねー奴はいねーだろ」
「あ、なーんだ。有名なんだこの話。つまんないの。でさ、さっき言い争ってたの、なんだかワケありって感じでさ! 何話してるのかは分からなかったけど、ツレの男の子は、困ります、とか言ってたから、どっちが支払うかで揉めてたみたい。その後は仲直りしたみたいで並んで外出てったんだよ」
「へぇ。すげー興味ねぇわ」
「もうっなんでよっ! 女同士だったら超盛り上がるのに! 朝井さんって、見かけによらずあんな子がタイプなんだなぁと思って。もっとガチムチ系かと勝手に想像してた。可愛い感じの子だよ。ちょっと訛り入ってて」
「へぇ。茨城訛りか?」
「私が実家帰ると茨城訛りすごいからって馬鹿にしないでよ! じゃなくてあれはきっと関西弁かな? 可愛い顔によく似合ってたよ」
関西弁で、可愛い顔の男?
そんなの、景の愛しのチンチクリンしか思い浮かばないけど、朝井とこんな場所にいる訳が無いし。
「ま、人は見かけによらねーって事だよな。タケだってあんな清純そうな顔しながらすげー遊んでるし」
「タケちゃんは見るからに遊んでそうじゃん!」
あぁ、それより腹減ったな。
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