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第230話
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景はタケさんに連れられて行ってしまった。
どうしよう。なんか気まずい。
景の元カノと二人でいる、この状況。
南さんは酔っているのか、体重をどんどんとこちらに掛けてくる。
大きく胸元が開くシャツはとてもセクシーで、女の人の体には興味のない俺でもなんだか落ち着かなくて、紛らわすようにグラスに口を付けた。
その時、急に南さんの冷たい声が響く。
「ねえ。それ」
南さんは俺の右手を掴んだ。
「景のじゃないの?」
南さんは顔の前に俺の手を持ってきて、薬指にはめられた指輪をまじまじと見始めた。
付き合っているんだって事を見透かされそうで一気に冷や汗が出て、苦笑いをしながらつい早口になってしまう。
「あっ、はい。この間、景にどうしてもこの指輪が欲しいんだって頼み込んだら、あげるよって言ってくれて!」
「へぇ。なんで?」
「えっ、な、なんでって?」
「だって、北村くんの趣味っぽくないじゃん。服装とか顔と全然合ってないし。そんなに欲しかったの? この指輪」
「あ、はい。実はこういうシルバーアクセには興味があって。景がいつもしてる指輪かっこいいし、これ以上の指輪が見つからないんだって言ったらくれました!」
俺は咄嗟に右手を引っ込めて膝の上で拳を作る。
心臓がドクドクと言っているのが聞こえた。
やばい。どんどんと適当な嘘が出てきてしまう。
バレたらどうしよう。
いや、大丈夫。言わなきゃバレない事だ。
手汗がだらだらと出る中、口の端を上げながら南さんを見つめた。
南さんはなぜか何も言わない。
ガヤガヤと人々の喧騒だけが耳に聞こえてくる。
無言の威圧感。
お願いだから、何か言って。
随分長い事沈黙だった気がするけど、実際は一瞬だったかもしれない。
南さんはにこっと笑って、自分のしているネックレスを握りながら言った。
「ふうん。そうなんだ。景って優しいところあるもんね。実はこれも、私が雑誌見てた時に可愛いな~って何気なく言ったのを覚えててくれてたみたいで、付き合った記念日にプレゼントしてくれたんだ。別れちゃった今でもすごく大事にしてて。お守りみたいなもんかな。心の拠り所って感じで」
心の拠り所。
この指輪をくれた時にも、景はそう言っていた。
僕の代わりって事で、心の拠り所になればいいな──
もしかして、南さんにも同じようなセリフを言いながらそのネックレスを渡したのかもしれない。
そう考えただけで勝手に嫉妬心が沸いて、途端に落ち込んでしまった。
それに、景と別れた後、マスコミに誤ネタを提供しちゃうくらい、景の事嫌いになったんじゃないの? なのに未だに貰ったネックレスを大切に持っているだなんて。南さんてまだ景の事……
モヤモヤしていたら、南さんはふいに立ち上がった。
「じゃあ、私そろそろ行こうかな。もともと顔出す程度だったし。景によろしく伝えておいて?」
「あ、はい。ではまた……」
また、と言っておきながらも、この人とはもう会いたくはないと脳裏で考える。
笑顔で手を振る南さんに、なるべく笑って手を振り返した。
また景の元へ行くんだろうなと思って南さんの後ろ姿を見つめていたけど、そのまま店を出て行ったからホッとした。
指輪を左手でなぞりながら、ちょっとだけ泣きたい気分になった。
どうしよう。なんか気まずい。
景の元カノと二人でいる、この状況。
南さんは酔っているのか、体重をどんどんとこちらに掛けてくる。
大きく胸元が開くシャツはとてもセクシーで、女の人の体には興味のない俺でもなんだか落ち着かなくて、紛らわすようにグラスに口を付けた。
その時、急に南さんの冷たい声が響く。
「ねえ。それ」
南さんは俺の右手を掴んだ。
「景のじゃないの?」
南さんは顔の前に俺の手を持ってきて、薬指にはめられた指輪をまじまじと見始めた。
付き合っているんだって事を見透かされそうで一気に冷や汗が出て、苦笑いをしながらつい早口になってしまう。
「あっ、はい。この間、景にどうしてもこの指輪が欲しいんだって頼み込んだら、あげるよって言ってくれて!」
「へぇ。なんで?」
「えっ、な、なんでって?」
「だって、北村くんの趣味っぽくないじゃん。服装とか顔と全然合ってないし。そんなに欲しかったの? この指輪」
「あ、はい。実はこういうシルバーアクセには興味があって。景がいつもしてる指輪かっこいいし、これ以上の指輪が見つからないんだって言ったらくれました!」
俺は咄嗟に右手を引っ込めて膝の上で拳を作る。
心臓がドクドクと言っているのが聞こえた。
やばい。どんどんと適当な嘘が出てきてしまう。
バレたらどうしよう。
いや、大丈夫。言わなきゃバレない事だ。
手汗がだらだらと出る中、口の端を上げながら南さんを見つめた。
南さんはなぜか何も言わない。
ガヤガヤと人々の喧騒だけが耳に聞こえてくる。
無言の威圧感。
お願いだから、何か言って。
随分長い事沈黙だった気がするけど、実際は一瞬だったかもしれない。
南さんはにこっと笑って、自分のしているネックレスを握りながら言った。
「ふうん。そうなんだ。景って優しいところあるもんね。実はこれも、私が雑誌見てた時に可愛いな~って何気なく言ったのを覚えててくれてたみたいで、付き合った記念日にプレゼントしてくれたんだ。別れちゃった今でもすごく大事にしてて。お守りみたいなもんかな。心の拠り所って感じで」
心の拠り所。
この指輪をくれた時にも、景はそう言っていた。
僕の代わりって事で、心の拠り所になればいいな──
もしかして、南さんにも同じようなセリフを言いながらそのネックレスを渡したのかもしれない。
そう考えただけで勝手に嫉妬心が沸いて、途端に落ち込んでしまった。
それに、景と別れた後、マスコミに誤ネタを提供しちゃうくらい、景の事嫌いになったんじゃないの? なのに未だに貰ったネックレスを大切に持っているだなんて。南さんてまだ景の事……
モヤモヤしていたら、南さんはふいに立ち上がった。
「じゃあ、私そろそろ行こうかな。もともと顔出す程度だったし。景によろしく伝えておいて?」
「あ、はい。ではまた……」
また、と言っておきながらも、この人とはもう会いたくはないと脳裏で考える。
笑顔で手を振る南さんに、なるべく笑って手を振り返した。
また景の元へ行くんだろうなと思って南さんの後ろ姿を見つめていたけど、そのまま店を出て行ったからホッとした。
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