229 / 454
第229話 side景
しおりを挟む
僕と桜理は、今度仕事で一緒になる予定の先輩俳優に挨拶をしながら上機嫌に酒を飲んでいた。
すると、急に後ろから肩を叩かれる。
振り返って目を見開いた。
相手は僕と目が合うと、ニコリと微笑んで何回か瞬きをさせた。
「景っ、久し振り! 今年初めて会ったね。元気にしてた?」
南だった。
彼女は去年に比べて髪も伸び、アッシュに染め、大きく胸が開いた服を着ていた。
その首元にある、見覚えのあるネックレスを見て固まった。
そのネックレスは、付き合っていた頃に僕がプレゼントしたものだったからだ。
「聞いたよ。今映画の撮影で忙しいんだってね。随分痩せた気がするけど、大丈夫なの?」
「……ああ、うん。なんとかやってる」
辛うじてそれだけ言うと、桜理も困惑顔で南を見つめた。
「あれ、南……お前、今日来れないんじゃなかった?」
「あぁ、桜理くんも久し振りだね。うん、そうだったんだけど、折角だからちょっとだけ寄ろうと思って。何よその顔。まるで迷惑そうに」
「いや、そんなんじゃねぇけど……じゃ、景、俺あっち行ってるわ」
「あ、うん」
桜理の後姿を心許なく眺める。
途端に笑顔が無くなった僕を見て、南はふっと笑い出した。
「何よ景。私に声を掛けられたの、そんなにビックリした?」
「あ、ううん。ごめん。少し酔ってて頭が回らなくて。南は最近どう? 仕事は順調?」
「うん。おかげさまで。景と別れてから、打ち込む事が仕事しかなくなっちゃってさ」
南は自嘲的に笑うから、僕もそれに合わせて笑った。
出来る事なら、ここから逃げ出したかった。こんなところ、修介に見られたくない。
チラッと修介の方に視線を送ると、じっとこちらを見つめる修介と目が合ってしまった。
ああ、見られている。
折角いい気分で飲んでいたのにな。
南は僕の視線の先に誰がいるのかすぐに分かったようで、いきなり僕の手を取った。
「あ、あの子、景のお友達だよね? 来てたんだ。挨拶しに行ってもいい?」
「え?」
南は僕の了承を得ずに、半ば強引に腕を引っ張り修介の元へ駆け寄ってしまった。
目の前に立つと、修介は驚きの表情で南を見つめていた。
「久しぶりー。景のマンションで一度会ったよね? 覚えてる?」
「……あ、はい、覚えています。お久しぶりです」
修介は笑顔で答えた。
きっと、南が僕の手を掴んでいるのが気になっているのだろう。
一度こちらを見たっきり、なかなか僕の方を向こうとしない。
「ごめん、名前忘れちゃった。もう一度訊いてもいいかな?」
そう言って南は、修介の隣に座ってしまった。
仕方なく僕は向かいの席に座る。
「あ、北村、修介です」
「北村くんか。どう? 飲んでる? こういうところはじめて? たくさん有名人がいて楽しいでしょう?」
「あ、そ、そうですね」
修介は助けを求めるかのように、こちらに目配せをする。
僕は『ごめん』と唇を動かした。
南は修介の困った顔が見えていないかのようにどんどんと話を進めて、修介はそれに相槌を打っているという状況だ。
何とか助けてやりたいものだが、何もできずにいると、タケに声を掛けられた。
「景ちゃん。写真撮ろうぜ写真!」
「え? いや、僕は……」
「あ、猛くんも久し振り! いいよ、景、あっちで写真撮ってきなよ」
「お? ああ、南さんも来てたんだ、ちーっす。ほら、景ちゃん行くよ!」
タケは酔っていてこの状況を何とも思っていないのか、無理やり立たされて歩かされてしまう。
南と二人きりにさせるのは修介に申し訳ないと思いながら、僕はその場を離れる事になってしまった。
すると、急に後ろから肩を叩かれる。
振り返って目を見開いた。
相手は僕と目が合うと、ニコリと微笑んで何回か瞬きをさせた。
「景っ、久し振り! 今年初めて会ったね。元気にしてた?」
南だった。
彼女は去年に比べて髪も伸び、アッシュに染め、大きく胸が開いた服を着ていた。
その首元にある、見覚えのあるネックレスを見て固まった。
そのネックレスは、付き合っていた頃に僕がプレゼントしたものだったからだ。
「聞いたよ。今映画の撮影で忙しいんだってね。随分痩せた気がするけど、大丈夫なの?」
「……ああ、うん。なんとかやってる」
辛うじてそれだけ言うと、桜理も困惑顔で南を見つめた。
「あれ、南……お前、今日来れないんじゃなかった?」
「あぁ、桜理くんも久し振りだね。うん、そうだったんだけど、折角だからちょっとだけ寄ろうと思って。何よその顔。まるで迷惑そうに」
「いや、そんなんじゃねぇけど……じゃ、景、俺あっち行ってるわ」
「あ、うん」
桜理の後姿を心許なく眺める。
途端に笑顔が無くなった僕を見て、南はふっと笑い出した。
「何よ景。私に声を掛けられたの、そんなにビックリした?」
「あ、ううん。ごめん。少し酔ってて頭が回らなくて。南は最近どう? 仕事は順調?」
「うん。おかげさまで。景と別れてから、打ち込む事が仕事しかなくなっちゃってさ」
南は自嘲的に笑うから、僕もそれに合わせて笑った。
出来る事なら、ここから逃げ出したかった。こんなところ、修介に見られたくない。
チラッと修介の方に視線を送ると、じっとこちらを見つめる修介と目が合ってしまった。
ああ、見られている。
折角いい気分で飲んでいたのにな。
南は僕の視線の先に誰がいるのかすぐに分かったようで、いきなり僕の手を取った。
「あ、あの子、景のお友達だよね? 来てたんだ。挨拶しに行ってもいい?」
「え?」
南は僕の了承を得ずに、半ば強引に腕を引っ張り修介の元へ駆け寄ってしまった。
目の前に立つと、修介は驚きの表情で南を見つめていた。
「久しぶりー。景のマンションで一度会ったよね? 覚えてる?」
「……あ、はい、覚えています。お久しぶりです」
修介は笑顔で答えた。
きっと、南が僕の手を掴んでいるのが気になっているのだろう。
一度こちらを見たっきり、なかなか僕の方を向こうとしない。
「ごめん、名前忘れちゃった。もう一度訊いてもいいかな?」
そう言って南は、修介の隣に座ってしまった。
仕方なく僕は向かいの席に座る。
「あ、北村、修介です」
「北村くんか。どう? 飲んでる? こういうところはじめて? たくさん有名人がいて楽しいでしょう?」
「あ、そ、そうですね」
修介は助けを求めるかのように、こちらに目配せをする。
僕は『ごめん』と唇を動かした。
南は修介の困った顔が見えていないかのようにどんどんと話を進めて、修介はそれに相槌を打っているという状況だ。
何とか助けてやりたいものだが、何もできずにいると、タケに声を掛けられた。
「景ちゃん。写真撮ろうぜ写真!」
「え? いや、僕は……」
「あ、猛くんも久し振り! いいよ、景、あっちで写真撮ってきなよ」
「お? ああ、南さんも来てたんだ、ちーっす。ほら、景ちゃん行くよ!」
タケは酔っていてこの状況を何とも思っていないのか、無理やり立たされて歩かされてしまう。
南と二人きりにさせるのは修介に申し訳ないと思いながら、僕はその場を離れる事になってしまった。
0
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる