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第187話
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会社のエントリーシート制作に追われていたら、思った以上に時間が経っていたようで、気付いたらバイトの時間が迫っていたから慌てて家を出た。
着替えを済ませてホールに入ると、一時間早く入っていた翔平が忙しなく働いていた。
今日は金曜日だからいつもよりバイトの人数が多い。
これから怒涛のような忙しさが待っている。
一仕事終えた翔平が俺に気付いて、小声で話しかけてきた。
「あいつら来てっから、気をつけろよって店長が」
「え~、もう来とるん?」
あいつら、とは要注意人物の客の男性二人組の事だ。
たまにこの店に来る社会人だが、酒癖が悪く、酔っ払うと何かとイチャモンを付けてくる。
料理は遅いだの、ビールがぬるいだの……。
俺も何度か怒鳴られてキレそうになった事がある。
例え理不尽な事を言われても、丁寧に接するように店長に言われてある。
今日は文句を言われませんように…と思っていたら、莉奈に声をかけられた。
「おはようございまーす」
「あぁ、おはよう」
「あ、莉奈にもその事言っといたから 」
横にいた翔平にそう耳打ちされた。
莉奈、と呼び捨てにしていて少し拍子抜けした。
そんなに直ぐに仲良くなったのか。
俺の驚いた表情を見て、莉奈は何かを感じ取ったのか、なんだか慌てた様子で口を挟んだ。
「あの、私の名字の高宮って言いにくいねって矢口さんに言われたんです。私、友達からも名前で呼ばれる事が多いし、ここでは自由に呼んでいいって店長も言ってたので、私から呼び捨てでいいですよって言ったんです」
「あ、そうなん?」
高宮って言いにくいかな?
たかみやさん、タカミヤサン……言いにくいかな?
うーん、言われてみればちょっと噛みそうな気もする。
頭の中で反復練習していると、遠くのテーブル席に座る客に手招きをされて直接呼び出された翔平はその場から去って行った。
莉奈は俺との距離を少し詰めた。
「あの北村さん、この前メールでいきなり失礼な事聞いてすいませんでした」
「え? あぁ、別にええよ」
「彼女さんとは長いんですか?」
「え……いやー、実は最近付き合い出したばっかりで」
「へぇー、そうなんですね! 同じ大学の人ですか? って、すいません。私、図々しいですよね!」
「あ、いや、そんな事は……。同じ大学やないけど、同い年だよ」
「同い年ですか。私の彼は年上なんです。高校の時の部活の一個上の先輩で、私が高三の時から付き合ってるんですけど、彼は地元の埼玉にいるから遠距離になっちゃって。って言っても、埼玉と千葉じゃあ近いですけどね」
「へぇ、そうなんや」
やっぱり。
こんな明るくてハキハキして女の子らしかったら彼氏もいて当然だよね。
そう思っていたら、呼び出し音が鳴った。
俺が動こうとしたら、莉奈に止められた。
「私行きまーす! 早く慣れないと!」
そう言って張り切って客の元へ歩いて行く莉奈の後ろ姿を見届けた後、俺は入店してくる新たな客に席を案内をしてから、注文を取り、他のテーブル席に出来た料理を運んだ。
途端にどんどん注文が入り、一つずつ仕事をこなしていって、フゥと一息ついてからふと気付いた。
莉奈が注文を取りに行ったまま帰ってこない。
確か店の奥にある仕切られた座敷の部屋だ。
まさか、と思い俺は店の奥へ進んだ。
着替えを済ませてホールに入ると、一時間早く入っていた翔平が忙しなく働いていた。
今日は金曜日だからいつもよりバイトの人数が多い。
これから怒涛のような忙しさが待っている。
一仕事終えた翔平が俺に気付いて、小声で話しかけてきた。
「あいつら来てっから、気をつけろよって店長が」
「え~、もう来とるん?」
あいつら、とは要注意人物の客の男性二人組の事だ。
たまにこの店に来る社会人だが、酒癖が悪く、酔っ払うと何かとイチャモンを付けてくる。
料理は遅いだの、ビールがぬるいだの……。
俺も何度か怒鳴られてキレそうになった事がある。
例え理不尽な事を言われても、丁寧に接するように店長に言われてある。
今日は文句を言われませんように…と思っていたら、莉奈に声をかけられた。
「おはようございまーす」
「あぁ、おはよう」
「あ、莉奈にもその事言っといたから 」
横にいた翔平にそう耳打ちされた。
莉奈、と呼び捨てにしていて少し拍子抜けした。
そんなに直ぐに仲良くなったのか。
俺の驚いた表情を見て、莉奈は何かを感じ取ったのか、なんだか慌てた様子で口を挟んだ。
「あの、私の名字の高宮って言いにくいねって矢口さんに言われたんです。私、友達からも名前で呼ばれる事が多いし、ここでは自由に呼んでいいって店長も言ってたので、私から呼び捨てでいいですよって言ったんです」
「あ、そうなん?」
高宮って言いにくいかな?
たかみやさん、タカミヤサン……言いにくいかな?
うーん、言われてみればちょっと噛みそうな気もする。
頭の中で反復練習していると、遠くのテーブル席に座る客に手招きをされて直接呼び出された翔平はその場から去って行った。
莉奈は俺との距離を少し詰めた。
「あの北村さん、この前メールでいきなり失礼な事聞いてすいませんでした」
「え? あぁ、別にええよ」
「彼女さんとは長いんですか?」
「え……いやー、実は最近付き合い出したばっかりで」
「へぇー、そうなんですね! 同じ大学の人ですか? って、すいません。私、図々しいですよね!」
「あ、いや、そんな事は……。同じ大学やないけど、同い年だよ」
「同い年ですか。私の彼は年上なんです。高校の時の部活の一個上の先輩で、私が高三の時から付き合ってるんですけど、彼は地元の埼玉にいるから遠距離になっちゃって。って言っても、埼玉と千葉じゃあ近いですけどね」
「へぇ、そうなんや」
やっぱり。
こんな明るくてハキハキして女の子らしかったら彼氏もいて当然だよね。
そう思っていたら、呼び出し音が鳴った。
俺が動こうとしたら、莉奈に止められた。
「私行きまーす! 早く慣れないと!」
そう言って張り切って客の元へ歩いて行く莉奈の後ろ姿を見届けた後、俺は入店してくる新たな客に席を案内をしてから、注文を取り、他のテーブル席に出来た料理を運んだ。
途端にどんどん注文が入り、一つずつ仕事をこなしていって、フゥと一息ついてからふと気付いた。
莉奈が注文を取りに行ったまま帰ってこない。
確か店の奥にある仕切られた座敷の部屋だ。
まさか、と思い俺は店の奥へ進んだ。
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