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第158話
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景との甘いキスを交わした日から三週間が経とうとしていた。
バイト終わりに、翔平と前から気になっていた駅前の焼き鳥屋に来ていた。
モクモクと煙が漂う中、俺たちはカウンター席に並んで座ってビールで乾杯をする。
仕事終わりのサラリーマンなどが沢山いて、店内は混雑して満席だった。
「はぁ」
溜息をつく。
この店内の賑やかさとは裏腹に、俺の胸は寂しさいっぱいに沈んでいた。
景はまた仕事が立て込んで忙しくなってしまったようで、あの日以来会えていない。
電話は何度かしてくれたけれど、それだけでは物足りない。
こうなるって事は分かっていた筈なのに。
付き合う前は三週間なんてあっという間だったのに、いざ気持ちが通い合ったらやっぱり欲張りになるみたいで、声だけじゃとてもじゃないけど寂しさを紛らわせる事が出来ない。
それに加えて、景があんな風にキスをしてくれたり、大事にするって言ってくれたりした事が凄く嬉しくて、余計に会いたさが募る。
今でもあの時の事を思い出すと、じんわりと胸が熱くなる。
寂しさのピークになっていた頃、気晴らしになればと翔平が飲みに誘ってくれたのだった。
「はい、四回目~」
翔平は俺の溜息を数え、ニコニコしながら砂肝を頬張っている。
「ほら、そんなシケた面してねーで早く食えよ! 酒と焼き鳥が不味くなんだろ? あいつしばらく海外なんだし、しょーがねーじゃん。会いに行ける距離じゃねーんだから!」
「うーん、それは分かっとるんやけどなぁ……やっぱり寂しくて……」
俺はグイッとビールを一口飲んでグラスを置くと、また無意識に溜息をついていた。
「あ、そーいや聞いた? バイト先に今度新しい女の子が入ってくるらしいぜ? 大学一年生だから、最近までJKだったんだってよ。噂によると可愛いらしくて。ま、俺には関係ねーけどね。さとみちゃんに勝てる女子はいねーし!」
「ふーん」
翔平は盛り上げようとしてくれたけど、俺は全く持って興味が無く、もう一度溜息を吐いた。
翔平はもう溜息の数を数える事は無く、俺に問いかけた。
「そういやお前らってさ、もうしたの? キス」
「えっ!? ……あ」
翔平は知らなかったのを今思い出した。付き合う前にすでに景にキスをされていたという事を。
蘇る、景の甘いタバコの香り、吐息、指先の熱。
「そりゃしてるよな、いい大人だし」
「……」
俺は無言で鶏皮を頬張った。
カリカリに焼いてあるそれにレモンを搾って食べるとさっぱりとして美味しい。
なんだか恥ずかしくて何も言わないでいると。
「んじゃセックスは?」
「ゴホッ!」
レモン汁が喉の奥に染みた。
翔平はあんなに明るかった髪を就活のため黒に染めた。黙っていれば凄く知的に見えるのに、中身と発言はやっぱり変わらない。
晴人といい秀明といい翔平といい、どうしてすぐそういう事ばかり訊いてくるのだ。
翔平の隣にいるサラリーマンが、気のせいかもしれないけれどニヤリと笑った気がした。
「ちょっと、何言うて」
「したの?」
小声で話しかけたのにもかかわらず、翔平は相変わらず空気を読まずに声のボリュームを落とさずにニヤニヤして訊いてくる。
「……まだ」
「へぇ。ま、付き合って間も無いしな。んじゃ近々弾けちゃうかもね~」
「……」
「あいつ、すげぇエロそう……」
「……だよね」
翔平はボンヤリと宙を見ながら目を細めたから、俺も宙を見ながら景の事を考えた。
それは俺も思っていた。景、想像だと凄くエロくて凄く上手そう。
あんなに腰が砕けそうになるくらいの甘いキスが出来るんだから、エッチなんかしたらどうなっちゃうんだろう。
ここで、前から密かに気になっていた事を翔平に訊いてみることにした。
バイト終わりに、翔平と前から気になっていた駅前の焼き鳥屋に来ていた。
モクモクと煙が漂う中、俺たちはカウンター席に並んで座ってビールで乾杯をする。
仕事終わりのサラリーマンなどが沢山いて、店内は混雑して満席だった。
「はぁ」
溜息をつく。
この店内の賑やかさとは裏腹に、俺の胸は寂しさいっぱいに沈んでいた。
景はまた仕事が立て込んで忙しくなってしまったようで、あの日以来会えていない。
電話は何度かしてくれたけれど、それだけでは物足りない。
こうなるって事は分かっていた筈なのに。
付き合う前は三週間なんてあっという間だったのに、いざ気持ちが通い合ったらやっぱり欲張りになるみたいで、声だけじゃとてもじゃないけど寂しさを紛らわせる事が出来ない。
それに加えて、景があんな風にキスをしてくれたり、大事にするって言ってくれたりした事が凄く嬉しくて、余計に会いたさが募る。
今でもあの時の事を思い出すと、じんわりと胸が熱くなる。
寂しさのピークになっていた頃、気晴らしになればと翔平が飲みに誘ってくれたのだった。
「はい、四回目~」
翔平は俺の溜息を数え、ニコニコしながら砂肝を頬張っている。
「ほら、そんなシケた面してねーで早く食えよ! 酒と焼き鳥が不味くなんだろ? あいつしばらく海外なんだし、しょーがねーじゃん。会いに行ける距離じゃねーんだから!」
「うーん、それは分かっとるんやけどなぁ……やっぱり寂しくて……」
俺はグイッとビールを一口飲んでグラスを置くと、また無意識に溜息をついていた。
「あ、そーいや聞いた? バイト先に今度新しい女の子が入ってくるらしいぜ? 大学一年生だから、最近までJKだったんだってよ。噂によると可愛いらしくて。ま、俺には関係ねーけどね。さとみちゃんに勝てる女子はいねーし!」
「ふーん」
翔平は盛り上げようとしてくれたけど、俺は全く持って興味が無く、もう一度溜息を吐いた。
翔平はもう溜息の数を数える事は無く、俺に問いかけた。
「そういやお前らってさ、もうしたの? キス」
「えっ!? ……あ」
翔平は知らなかったのを今思い出した。付き合う前にすでに景にキスをされていたという事を。
蘇る、景の甘いタバコの香り、吐息、指先の熱。
「そりゃしてるよな、いい大人だし」
「……」
俺は無言で鶏皮を頬張った。
カリカリに焼いてあるそれにレモンを搾って食べるとさっぱりとして美味しい。
なんだか恥ずかしくて何も言わないでいると。
「んじゃセックスは?」
「ゴホッ!」
レモン汁が喉の奥に染みた。
翔平はあんなに明るかった髪を就活のため黒に染めた。黙っていれば凄く知的に見えるのに、中身と発言はやっぱり変わらない。
晴人といい秀明といい翔平といい、どうしてすぐそういう事ばかり訊いてくるのだ。
翔平の隣にいるサラリーマンが、気のせいかもしれないけれどニヤリと笑った気がした。
「ちょっと、何言うて」
「したの?」
小声で話しかけたのにもかかわらず、翔平は相変わらず空気を読まずに声のボリュームを落とさずにニヤニヤして訊いてくる。
「……まだ」
「へぇ。ま、付き合って間も無いしな。んじゃ近々弾けちゃうかもね~」
「……」
「あいつ、すげぇエロそう……」
「……だよね」
翔平はボンヤリと宙を見ながら目を細めたから、俺も宙を見ながら景の事を考えた。
それは俺も思っていた。景、想像だと凄くエロくて凄く上手そう。
あんなに腰が砕けそうになるくらいの甘いキスが出来るんだから、エッチなんかしたらどうなっちゃうんだろう。
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