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こすもす

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第142話

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 景の車の助手席に何も言わずに乗り込むと、景はニヤリと意味深に微笑んだからドキッとしてしまい、慌てて目を反らして唇を噛んだ。
 シートベルトを締めると、景はゆっくりと発車させた。
 車内はやっぱり甘い匂いが漂っていて、映画を一緒に観に行った日の事を思い出した。

 あの時は、純粋に楽しかった。
 まだ好きだとか自覚してなくて、心からデートを楽しんでるって感じで。
 まさか、景とこんな風になるなんて思いもよらなかった。
 無理やりキスされて、言い合って、絶交なんて言って。

 景は何も言わず、ただ前を見て運転していた。
 シンとした静けさが俺の緊張感を増幅させた。
 ただならぬ雰囲気に、いてもたってもいられなくなる。
 不安になった。
 やっぱり、景と会うのはこれが最後になるのかもしれない。
 そう思った途端に、また涙が出そうになった。

 重い沈黙が流れる中、窓の外の景色を眺めていた。
 景に会ったらまず謝ろうとあんなに心に誓っていたのに、いざ会ったらその存在にたじろいでしまって、何も口から出てこない。
 途中までは見慣れた道を走っていたけど、どのくらいの距離を走ったのか、気が付けば全く知らない場所に来ていた。狭い道や一方通行の道も止まる事無く迷わずに走っていて、ナビは設定していないみたいだし、景はやっぱり何でも出来るんやな…なんて尊敬していた時、ようやく沈黙が破られた。

「修介さ」
「……何?」
「なんで僕の事避けてるの?」

 景は少し怒っているようだった。
 怒ってるというより、不貞腐れているという方が近いのかもしれない。
 俺にあんな事しといてよくそんな台詞が言えたもんだな…とちょっと呆れたけど、俺だって思い切り蹴ったりしたし、やっぱり電話に出なかったのはまずかったかなと思った。
 俺は居た堪れず下を向く。

「だって、絶交やって言うたし……」
「ふっ、あれ、本当だったんだ」

 景は困ったように少しだけ微笑んだから、一気に緊張が解れて、安心した。

「ホンマやで! 連絡取らへんって、俺言うたやんか」
「それにしても出て欲しいな。僕がこんなに電話してるんだから、迷惑だ、とか何でもいいから、一度くらいは」
「……ごめん。ホンマは電話しようかと思っとったんよ。さっきの電話は、全然気付かなくて」
「で、あいつとは? 結局やり直したの?」
「え?」

 景はやっぱり余裕な表情でそう尋ねた。
 あいつって、もちろん瞬くんの事だよね。
 どこからどこまで話せばいいのか。
 とりあえず、簡潔に言おう。

「やり直そうと思っとったけど、無理やった……」
「あぁ、そう。じゃあ彼とは別に何も無かったんだね」
「……キスはしたけど」

 途端、景は急ブレーキを踏んだ。
 キキキキキ…!! とスキール音が出て、俺は思い切り前のめりになる。

「わーーーッ!!」

 ドンッと体に衝撃を受けて、一回持ち上がったような感覚の後、また重力でストンと下に落ちて体が元の位置に戻った。
 後ろの座席に置いていたバックや景の私物なども全部下に派手に落ちて、急な出来事で心臓がバックバクといっている中、俺は叫んだ。

「なっ、何してんねん! 殺す気かッ!!」

 幸い走っている車は他にいなかったから良かったものの、こんなところで事故なんか起こされたらたまったもんじゃない。
 景はパーキングに入れてからハンドブレーキを掛けると、バッと顔をこちらに向けて、俺と同じように興奮した様子で叫んだ。

「君こそ何してるんだよ! 僕の事が好きなくせに!」


 ──ん?
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