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第29話
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珍しく四限が休講になり、バイトまで時間が空いてしまった。
さて、どうしよう。
晴人と秀明は他の授業に出てしまったから、手持ち無沙汰になった。
かと言って、アパートに帰るには時間が足りない。
大学からバイト先は徒歩圏内にあるから、ここから直接行った方が都合が良い。
とりあえず、動画を見て時間を潰すか。
俺はいつものようにスマホで景の動画を検索して、イヤホンを付けてランダムに見始めた。
(あ、これめっちゃ若いやん。デビューしてすぐの映画かな? 今より大分初々しいけど、カッコええ事に変わりはあらへんな……)
ベンチに座ってぼーっと眺めていると、鼓膜に突然響いた着信音。
「わわ!」
画面を凝視して、動けなくなった。
そこにはなんと、藤澤 景の文字が。
(えぇっ! 景?! 本物?!)
動画を見ていたから本人を引き寄せたのかとオカルトみたいな事を思ったけど、この間の電話よりは随分落ち着いて出る事が出来た。
「はい、もしもし!」
『あ、修介。今大丈夫? 久しぶり』
一回目の時とまるで変わらない言い方だったから吹き出しそうになった。
きっと彼の中では二ヶ月も一週間も久しぶりなんだろう。
「大丈夫やで。どうしたん?」
『今授業中?』
「ううん、本当はあったんやけど急に休講になって、ベンチでボーッとしとった」
『本当? ちょうど良かった。もうこの後は授業無いんでしょう?」
「うん。無いけど。なんで?」
『もし暇なら、これから映画観に行こうよ。僕、大学のすぐそばまで来てるから』
え?
大学のそばに?
「はっ? なんでおるんよ?」
『今日、千葉にあるスタジオに撮影で来てて、予定より早く終わっちゃったから、こっちの方までドライブがてら来たんだ。いま守衛さんがいる門の向かいに車停めてる」
えーー!
何それ。俺、もしかして今、超絶イケメンにデートに誘われてるの?
『水曜日はバイト無いって言ってたよね?』
そう言われてハッとなった。
さっき翔平に会わなければ、あんな風に頭を下げられなければ、シフトを交換する事も無かったのに……
先程のやり取りを激しく後悔した。
「ごめん……ホンマは無かったんやけど、さっき翔平にバイト代わってって言われて、入る事になってしもうたんよ……」
『え? そうなの?』
「だから、折角来てくれたんに悪いんやけど、行かれへん……」
景の反応は無く、無言だった。
沈黙があるのは別に平気だけど、あんまり長いと不安になってくる。
「け、景?」
『そっか、翔平、具合でも悪いの?』
景は少し残念そうな声で訊いた。
「ううん、彼女と映画行くから代わってって言われてん。今日レディースデーやから、お得に観せてあげたいんやって」
『は?』
景はさっきの態度とは一転、低くてドスの効いた声を出した。
『そんな理由なら今から断りなよ。折角僕ここまで来たのに』
「ええっ! 断るって言ったって、もう引き受けてしもうたし」
『体調悪くなったとかなんとか言って、断ってよ。何なら僕から翔平に言うし。それとも、僕とは行きたくないの?』
(なっ、なんて自分勝手なんや!言うてる事むちゃくちゃやで!)
俺は景のその強引な態度に驚かされつつも、正直そう言ってくれて嬉しかった。
いや、決してMだとか、そういう訳ではない。
ちゃんと友達なんだなって、嬉しくなった。
「それはっ、行きたいし、ここまで来てくれたのは感謝しとるけど、俺にも出来る事と出来ない事が」
『簡単だよ。熱があって怠くて吐いて辛いんだって言って、ゲホゲホ言えばいいんだから』
景はお代官様かなんかのように、俺に悪事の働き方を教えてくれた。
ここまで言われたら翔平に嘘をついて、景の元へ行くしか無いと、俺は腹を括った。
って、景のせいにしたけれど、本当は急な誘いが嬉しすぎて、飛び上がりそうだった。
さて、どうしよう。
晴人と秀明は他の授業に出てしまったから、手持ち無沙汰になった。
かと言って、アパートに帰るには時間が足りない。
大学からバイト先は徒歩圏内にあるから、ここから直接行った方が都合が良い。
とりあえず、動画を見て時間を潰すか。
俺はいつものようにスマホで景の動画を検索して、イヤホンを付けてランダムに見始めた。
(あ、これめっちゃ若いやん。デビューしてすぐの映画かな? 今より大分初々しいけど、カッコええ事に変わりはあらへんな……)
ベンチに座ってぼーっと眺めていると、鼓膜に突然響いた着信音。
「わわ!」
画面を凝視して、動けなくなった。
そこにはなんと、藤澤 景の文字が。
(えぇっ! 景?! 本物?!)
動画を見ていたから本人を引き寄せたのかとオカルトみたいな事を思ったけど、この間の電話よりは随分落ち着いて出る事が出来た。
「はい、もしもし!」
『あ、修介。今大丈夫? 久しぶり』
一回目の時とまるで変わらない言い方だったから吹き出しそうになった。
きっと彼の中では二ヶ月も一週間も久しぶりなんだろう。
「大丈夫やで。どうしたん?」
『今授業中?』
「ううん、本当はあったんやけど急に休講になって、ベンチでボーッとしとった」
『本当? ちょうど良かった。もうこの後は授業無いんでしょう?」
「うん。無いけど。なんで?」
『もし暇なら、これから映画観に行こうよ。僕、大学のすぐそばまで来てるから』
え?
大学のそばに?
「はっ? なんでおるんよ?」
『今日、千葉にあるスタジオに撮影で来てて、予定より早く終わっちゃったから、こっちの方までドライブがてら来たんだ。いま守衛さんがいる門の向かいに車停めてる」
えーー!
何それ。俺、もしかして今、超絶イケメンにデートに誘われてるの?
『水曜日はバイト無いって言ってたよね?』
そう言われてハッとなった。
さっき翔平に会わなければ、あんな風に頭を下げられなければ、シフトを交換する事も無かったのに……
先程のやり取りを激しく後悔した。
「ごめん……ホンマは無かったんやけど、さっき翔平にバイト代わってって言われて、入る事になってしもうたんよ……」
『え? そうなの?』
「だから、折角来てくれたんに悪いんやけど、行かれへん……」
景の反応は無く、無言だった。
沈黙があるのは別に平気だけど、あんまり長いと不安になってくる。
「け、景?」
『そっか、翔平、具合でも悪いの?』
景は少し残念そうな声で訊いた。
「ううん、彼女と映画行くから代わってって言われてん。今日レディースデーやから、お得に観せてあげたいんやって」
『は?』
景はさっきの態度とは一転、低くてドスの効いた声を出した。
『そんな理由なら今から断りなよ。折角僕ここまで来たのに』
「ええっ! 断るって言ったって、もう引き受けてしもうたし」
『体調悪くなったとかなんとか言って、断ってよ。何なら僕から翔平に言うし。それとも、僕とは行きたくないの?』
(なっ、なんて自分勝手なんや!言うてる事むちゃくちゃやで!)
俺は景のその強引な態度に驚かされつつも、正直そう言ってくれて嬉しかった。
いや、決してMだとか、そういう訳ではない。
ちゃんと友達なんだなって、嬉しくなった。
「それはっ、行きたいし、ここまで来てくれたのは感謝しとるけど、俺にも出来る事と出来ない事が」
『簡単だよ。熱があって怠くて吐いて辛いんだって言って、ゲホゲホ言えばいいんだから』
景はお代官様かなんかのように、俺に悪事の働き方を教えてくれた。
ここまで言われたら翔平に嘘をついて、景の元へ行くしか無いと、俺は腹を括った。
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