初恋が生まれた日

こすもす

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14 見つけてくれて。*

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「なんだ……ならその時、はっきりと言ってくれれば良かったじゃんよ」

 恋をしているのが苦しくて、あの時咄嗟に『バカ』と言ってしまった真意を知った千歳の反応はこうだった。

「言えないよ。仮にあの時『好きだ』なんて言ったとしても、千歳はOKしなかったでしょ?」
「うーん、どうだろ……いや、OKしてたんじゃない?」
「……千歳っていつから俺のこと好きだったの?」
「爺ちゃんと話して気付いたけど、たぶん保健室の時から」

 卒倒しそうなほどにびっくりした。
 友達になってくれると言ったあの日なのだと、鈍感な恋人はしれっと言うのだ。

「こうやって握っただろ、手を」
「……、」

 筋張った手に右手を握りこまれて、ぞわっと鳥肌が立つ。
 忘れもしない、この感触。握られる度にいつも涙が出そうになる。というか、千歳と手を繋ぐときは俺はいつだって泣いていた。

「あの時は無意識に手を握ったんだけど……たぶん、弱ってたからちょっと元気付ける意味で。でも握ってみてビックリした。なんか、このまま創とずっと繋いでおきたいって思っちゃって」

 千歳の言葉が胸にじんわりとあたたかく染み込んでくる。
 自分も、出来れば繋いでおきたいと思っていた。あの時に互いの心が動いていた。
 お湯の中で繋がれた手は、今日は離れることはなかった。これからは一人じゃなくて二人なのだと実感する。ずっと、心の拠り所になれる人を探していた。じわりと、涙が滲む。

「……確かに前は、あの時、千歳に見つかったことを恨んでたこともあったけど」

 弱々しい声に、目の前の人は息をのむ。
 こんな俺を好きになってくれる人なんて、千歳しかいない。
 千歳には幸せになって欲しい。
 千歳が俺を選んで良かったってちゃんと言ってもらえるように、大切にしたい。

「……見つけてくれてっ、ありがとう……っ」

 感極まって、こらえきれずにまた泣いてしまった。
 千歳が身体を動かすと、お湯が浴槽から少し溢れた。
 片方の手で頭を支えられ、キスをされる。

「……っ」

 啄むような軽い口付けに、全身の力が抜けてしまう。
 千歳は俺の身体を支えるように、繋いだ手に力を込めた。
 舌先で唇を濡らされると、自然と口が開いてしまう。それを見計らったようにすぐ、千歳の舌がなかに入ってきた。
 千歳の濡れた髪の毛先から肌へ伝った雫を、顔の角度を変えた時に一緒に飲み込んでしまう。
 上顎をこすられ、舌の付け根の方をじゅっと軽く吸われる。その舌はひんやりとしていて冷たいのか、燃えるように熱いのか、よく分からなかった。

「あ……ふ、……は……っ」
「創」

 キスの合間に名前を呼ばれる。
 何度かキスはしてきたけれど、こんなに官能的で長い濃いキスは初めてだ。身体の奥が甘くうずき始めて、これよりももっと、もっと触れて欲しいという気持ちが混み上がってくる。
 千歳の顔が一旦離れて、目の前で熱っぽいため息を吐かれた。

「こうなると思ったから、一緒に入りたくなかったんだよ」

 千歳は繋いでいた手を離し、両手で俺の顔を掴んできた。おでこ同士をあて、子供に言い聞かせるようにしっかりと目を合わせられる。

「今まで完全に二人きりになれたことはなかったろ。だからなんとか理性を保ててたけど……もう誰もいないんだよ。見られたり聞かれたりする心配もない」
「……うん」
「いろいろとしたくなっちゃうだろ。お前のそういう顔、そそられるんだから」
「いいよ、しても」
「……創ってたまに、俺よりも雄々しい顔見せる時あるよな」

 だって俺も、そうなりたいと思っていたから。
 そう言う代わりにもう一度、千歳の唇に吸い付いた。下唇を吸っている最中に、胸の尖りを親指の先でこすられる。一瞬で電流が身体全体を駆け巡った。

「ふぁっ、あ……っ!」

 ほんの少し指の腹でこすられただけなのに。
 奥の方がきゅうきゅうと切なく収縮した。

「……ヤバい可愛い。なんだよその声……創、一回立って」
「ん……? ぅん……ッ」

 言われるがままに大人しく立ち上がってしまったけれど、足の間はもう誤魔化しようがないほど昂っていて、千歳の前でそれを晒す羽目になってしまった。
 ハッとした時にはもう、それを握りこまれていた。なんの前触れもなくきゅっと指をまわされて、怖くなって反射的に腰を引いてしまう。

「ひ……ぁ、ん……っ」

 逃げられないように、千歳は俺の腰に片方の腕を回して固定して、俺をゆっくりと浴槽の縁に座らせた。
 不安定な場所に座ると、千歳はそこを擦り上げながら自分を見上げてくる。その視線に耐えきれずに、そっと目を閉じた。
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