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6 彼女が、できたよ
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クリスマス。
千歳の家までの道のりを、マフラーに顔を埋めるようにして歩く。
雪が降り出しそうな冬の夜。
冷気が肌に刺さって痛く、紙袋を持つ手は指先から冷えてあまり感覚がない。
三十分の遅刻。
連絡は入れてあるけど、申し訳ないなぁと思いながら紺野家のチャイムを鳴らした。
「わ、寒かったろ。早く入れ」
エアコンの温かい風と千歳の優しい笑みが、冷えきった身体を包み込む。
かじかんだ手でコートを脱ぐと、千歳がマフラーを首から外してくれた。
「すごい冷えてるじゃん。風呂入るか?」
当然のように、顔を手で挟まれる。冷えた顔にじわじわと熱を与えられ、ドキドキと自分の心音が大きく鳴る。
抑えられない気持ちが胸の奥から込み上げてきてしまうが、既のところで本音の言葉を飲み込んだ。
「大丈夫。ごめんね、遅くなっちゃって」
「いや、別にいいけど。用事ってなんだったんだ?」
「ちょっとね」
「ふぅん。メシは食うんだろ?」
「うん」
はぐらかすように視線を外して笑うと、千歳もあまり深くは追求してこなかった。
今まで誰と会っていたのか、言わなくてはならないのに口から出てこない。どんな反応をするのか見るのが怖いから。
ささやかなクリスマスパーティーが始まった。
おばさんに頼んでもらったピザや骨付きチキンを前にして、俺はわあーと子供みたいに喜んだ。ケーキの上のサンタの姿をした砂糖菓子は、ジャンケンで勝った千歳が食べた。
そのあとは千歳の部屋で、プレゼント交換。
千歳からのプレゼントは赤いタータンチェックのマフラーだったので、見た瞬間に笑ってしまった。
良かった。プレゼントが被るところだった。
「ピアスだ! カッコイイ!」
鮮やかな色彩を放つピアスと同じようなキラキラとした瞳の千歳を見て、これにして良かったと心底思う。
「千歳に似合いそうだと思って」
「今してみてもいい?」
千歳は鏡を見ながらピアスを付けた。
気に入ってくれたみたいで、目を細めている。
「いいなこれ。サンキュー」
「カッコイイよ」
「お前もしてみれば」
手に持っていたマフラーを取られて、首にグルグルと巻かれる。
ドッドッと鳴る心臓がうるさくて、聞こえてしまっていないか心配だ。
極力見上げないようにマフラーに顔を埋める。
カッコイイ。千歳、大好きだ。
息をゆっくり吐き、心を落ち着かせた。
「千歳に、内緒にしてたんだけど」
少し真面目な口調で切り出すと、千歳にも緊張が伝わったようで、マフラーから手を離された。
「俺、彼女が、できたよ」
「え?」
ほんの少し動揺したような声色。
たったそれだけで嬉しくなった。
『嫌だ。創が好きだから別れて欲しい』って言って貰える妄想を勝手にしてしまう。
「さっきまで彼女と会ってたんだ。だからここに来るの遅れちゃって」
「大丈夫だったのか? ここに来て」
「前からの約束だったし。彼女には違う日に会おうってお願いしたんだけど、なんか…クリスマスは一緒に過ごしたかったみたいで」
「そりゃそうだろ。マジか! 全然知らなかった! おめでとう創!」
「え……」
「早く言ってくれれば良かったのに。彼女とはいつから?」
「あ、つい、この間……」
千歳は、心から祝福してくれた。
残念そうな素振りなんて一ミリもなく。
それはそうだ。彼に取っては俺なんて、数多くいる友人の中の単なる一人だし。その反応は間違っていない。
彼女のことは実は前から気になっていたのだと、嘘を吐いた。少しくらい残念そうにして欲しかったと、よく分からない反発心で胸がいっぱいになったから。
「相談してくれりゃ良かったのにー」と笑顔で言われ、結局ますます落ち込むだけだった。
バカみたいだ。絶対に無理なのに、この気持ちがいつか通じ合うんじゃないかって心のどこかで思ってる。
こんなんじゃ、佐久間さんにも失礼なのに。
はやく昇華させよう。
千歳なんて目に入らないくらい、彼女のことを好きになろう。
千歳の家までの道のりを、マフラーに顔を埋めるようにして歩く。
雪が降り出しそうな冬の夜。
冷気が肌に刺さって痛く、紙袋を持つ手は指先から冷えてあまり感覚がない。
三十分の遅刻。
連絡は入れてあるけど、申し訳ないなぁと思いながら紺野家のチャイムを鳴らした。
「わ、寒かったろ。早く入れ」
エアコンの温かい風と千歳の優しい笑みが、冷えきった身体を包み込む。
かじかんだ手でコートを脱ぐと、千歳がマフラーを首から外してくれた。
「すごい冷えてるじゃん。風呂入るか?」
当然のように、顔を手で挟まれる。冷えた顔にじわじわと熱を与えられ、ドキドキと自分の心音が大きく鳴る。
抑えられない気持ちが胸の奥から込み上げてきてしまうが、既のところで本音の言葉を飲み込んだ。
「大丈夫。ごめんね、遅くなっちゃって」
「いや、別にいいけど。用事ってなんだったんだ?」
「ちょっとね」
「ふぅん。メシは食うんだろ?」
「うん」
はぐらかすように視線を外して笑うと、千歳もあまり深くは追求してこなかった。
今まで誰と会っていたのか、言わなくてはならないのに口から出てこない。どんな反応をするのか見るのが怖いから。
ささやかなクリスマスパーティーが始まった。
おばさんに頼んでもらったピザや骨付きチキンを前にして、俺はわあーと子供みたいに喜んだ。ケーキの上のサンタの姿をした砂糖菓子は、ジャンケンで勝った千歳が食べた。
そのあとは千歳の部屋で、プレゼント交換。
千歳からのプレゼントは赤いタータンチェックのマフラーだったので、見た瞬間に笑ってしまった。
良かった。プレゼントが被るところだった。
「ピアスだ! カッコイイ!」
鮮やかな色彩を放つピアスと同じようなキラキラとした瞳の千歳を見て、これにして良かったと心底思う。
「千歳に似合いそうだと思って」
「今してみてもいい?」
千歳は鏡を見ながらピアスを付けた。
気に入ってくれたみたいで、目を細めている。
「いいなこれ。サンキュー」
「カッコイイよ」
「お前もしてみれば」
手に持っていたマフラーを取られて、首にグルグルと巻かれる。
ドッドッと鳴る心臓がうるさくて、聞こえてしまっていないか心配だ。
極力見上げないようにマフラーに顔を埋める。
カッコイイ。千歳、大好きだ。
息をゆっくり吐き、心を落ち着かせた。
「千歳に、内緒にしてたんだけど」
少し真面目な口調で切り出すと、千歳にも緊張が伝わったようで、マフラーから手を離された。
「俺、彼女が、できたよ」
「え?」
ほんの少し動揺したような声色。
たったそれだけで嬉しくなった。
『嫌だ。創が好きだから別れて欲しい』って言って貰える妄想を勝手にしてしまう。
「さっきまで彼女と会ってたんだ。だからここに来るの遅れちゃって」
「大丈夫だったのか? ここに来て」
「前からの約束だったし。彼女には違う日に会おうってお願いしたんだけど、なんか…クリスマスは一緒に過ごしたかったみたいで」
「そりゃそうだろ。マジか! 全然知らなかった! おめでとう創!」
「え……」
「早く言ってくれれば良かったのに。彼女とはいつから?」
「あ、つい、この間……」
千歳は、心から祝福してくれた。
残念そうな素振りなんて一ミリもなく。
それはそうだ。彼に取っては俺なんて、数多くいる友人の中の単なる一人だし。その反応は間違っていない。
彼女のことは実は前から気になっていたのだと、嘘を吐いた。少しくらい残念そうにして欲しかったと、よく分からない反発心で胸がいっぱいになったから。
「相談してくれりゃ良かったのにー」と笑顔で言われ、結局ますます落ち込むだけだった。
バカみたいだ。絶対に無理なのに、この気持ちがいつか通じ合うんじゃないかって心のどこかで思ってる。
こんなんじゃ、佐久間さんにも失礼なのに。
はやく昇華させよう。
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