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森下くんは次の日、態度を全く変えずに僕に接してきてくれた。
それがどんなに嬉しかったことか。
しかしそれ以降、会える機会がめっきり減ってしまった。サマーセールの準備も始まって、ゆっくりと休憩に出れなくなってしまったのだ。
出れる時は毎回森下くんの店に行くけれど、タイミングが悪いみたいで探しても見つからなかった。
今日はたまたま八代くんと休憩に出ることになった。「パスタ食べに行きましょうよ」と誘われたので、きっと会えないだろうと諦めの気持ちで森下くんの店に入ると……いた。
入った瞬間に皿を運んでいた森下くんと目が合ったので、僕は反射的に息を止めていた。
「あぁ、いらっしゃいませ」
「……どうも」
僕は久々に見たその琥珀のような髪と微笑んだ顔に、逃げたくなった。
あれほど会いたいと思っていたのに会ったら逃げたくなるって、何なんだこの気持ちは。
席に八代くんと座ると、森下くんがこちらに来てくれた。
「お疲れ様です。今日は二人一緒なんだね」
「え、今日はって?」
「八代くんに聞いてたから。店長は前にも増してここに来てるよって」
八代くんは悪戯っぽく肩を竦めて、森下くんを顔を見合わせて笑っている。
まさか密告されていたなんて。
「店長と全然会わないから、来てないんだろうなって思ってた。そしたら八代くんがちょうど来てくれてたから聞いたんだ。なんかすれ違ってたんだね、俺たち」
「あぁ、はい、そうみたいですね……」
八代くんはメニュー表を見ながら言う。
「森下さん、今日の日替わりは何ー?」
「ん? ヤリイカとほうれん草の醤油パスタだよ。ていうか目の前に大きく書いてあるじゃん!」
「あれ、ほんとだ」
ハハハと微笑ましく笑う二人を見ながら、僕は眼鏡を指の腹で持ち上げた。
えぇ、なんだかいつの間にか仲良くなっていたんですね……。
森下くんが行った後、僕は八代くんに問い詰めた。
「八代くん、ここにそんなに来てましたっけ?」
「いや、今日で三回目くらいです。森下さんにはこの前話しかけてもらって。店長、森下さんと仲良しなんすね。最近店長と会って話してないから寂しいなぁって言ってましたよ」
「え、本当に?」
自分と同じ気持ちでいてくれたと分かって一気に舞い上がってしまったが、いや待て。本気に受け取ってどうする。何も下心がないからこそ、会えなくて寂しいなどとサラッと言えるのだろう。
「だから俺、森下さんが店にいる時間帯を聞いといたんです。今の時間だったら休憩に入る前だからだいたい店にいるって」
「へぇそう。だから今日僕をここに連れてきたと?」
「だって店長、森下さんに会う為にここに来てるんですよね?」
「いえ、違います。ここのパスタを食べる為に来てるんです」
「またまたー」
僕は頑として首を横に振るが、八代くんにはバレているのだろう。
僕が本気で森下くんを好きなのは気付いていないようだが。
八代くんは日替わりのパスタ、僕はいつものたらこを頼んで待っていると、僕のスマホに着信が来た。
画面を見てみると、『sateenkaari F店』。自分の店だ。
休憩中に電話が来るなんて、あまりいい内容では無いのは察しがつく。嫌な予感がしつつも、僕はすぐに電話に出た。
それがどんなに嬉しかったことか。
しかしそれ以降、会える機会がめっきり減ってしまった。サマーセールの準備も始まって、ゆっくりと休憩に出れなくなってしまったのだ。
出れる時は毎回森下くんの店に行くけれど、タイミングが悪いみたいで探しても見つからなかった。
今日はたまたま八代くんと休憩に出ることになった。「パスタ食べに行きましょうよ」と誘われたので、きっと会えないだろうと諦めの気持ちで森下くんの店に入ると……いた。
入った瞬間に皿を運んでいた森下くんと目が合ったので、僕は反射的に息を止めていた。
「あぁ、いらっしゃいませ」
「……どうも」
僕は久々に見たその琥珀のような髪と微笑んだ顔に、逃げたくなった。
あれほど会いたいと思っていたのに会ったら逃げたくなるって、何なんだこの気持ちは。
席に八代くんと座ると、森下くんがこちらに来てくれた。
「お疲れ様です。今日は二人一緒なんだね」
「え、今日はって?」
「八代くんに聞いてたから。店長は前にも増してここに来てるよって」
八代くんは悪戯っぽく肩を竦めて、森下くんを顔を見合わせて笑っている。
まさか密告されていたなんて。
「店長と全然会わないから、来てないんだろうなって思ってた。そしたら八代くんがちょうど来てくれてたから聞いたんだ。なんかすれ違ってたんだね、俺たち」
「あぁ、はい、そうみたいですね……」
八代くんはメニュー表を見ながら言う。
「森下さん、今日の日替わりは何ー?」
「ん? ヤリイカとほうれん草の醤油パスタだよ。ていうか目の前に大きく書いてあるじゃん!」
「あれ、ほんとだ」
ハハハと微笑ましく笑う二人を見ながら、僕は眼鏡を指の腹で持ち上げた。
えぇ、なんだかいつの間にか仲良くなっていたんですね……。
森下くんが行った後、僕は八代くんに問い詰めた。
「八代くん、ここにそんなに来てましたっけ?」
「いや、今日で三回目くらいです。森下さんにはこの前話しかけてもらって。店長、森下さんと仲良しなんすね。最近店長と会って話してないから寂しいなぁって言ってましたよ」
「え、本当に?」
自分と同じ気持ちでいてくれたと分かって一気に舞い上がってしまったが、いや待て。本気に受け取ってどうする。何も下心がないからこそ、会えなくて寂しいなどとサラッと言えるのだろう。
「だから俺、森下さんが店にいる時間帯を聞いといたんです。今の時間だったら休憩に入る前だからだいたい店にいるって」
「へぇそう。だから今日僕をここに連れてきたと?」
「だって店長、森下さんに会う為にここに来てるんですよね?」
「いえ、違います。ここのパスタを食べる為に来てるんです」
「またまたー」
僕は頑として首を横に振るが、八代くんにはバレているのだろう。
僕が本気で森下くんを好きなのは気付いていないようだが。
八代くんは日替わりのパスタ、僕はいつものたらこを頼んで待っていると、僕のスマホに着信が来た。
画面を見てみると、『sateenkaari F店』。自分の店だ。
休憩中に電話が来るなんて、あまりいい内容では無いのは察しがつく。嫌な予感がしつつも、僕はすぐに電話に出た。
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