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【3】セルフ・コンパッション
40 関谷くんとお茶
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「ううん、別に無いよ。遅くなるんだったらまた、そっちで過ごしていいからね。文哉さんが来なくたって、僕1人で全然大丈夫だし」
棘のある言い方をしてしまい、なんて嫌な奴なのだと自分でも思うが、謝れなかった。
「俺はついに、嫌われたのか」
自嘲気味に文哉さんは笑うので、僕はこっそり、唇をかんだ。
逆だよ。嫌ってたら、こんなふうになってない。
「これは喧嘩じゃないよ。馴れ合い」
そっぽを向きながら言うと、文哉さんは「そうか」とまた困ったように笑っていた。
朝食はどうにか2人で向かい合って食べたが、目線は合わせなかった。
いつもなら何か世間話をするけど、文哉さんは明らかに気を遣っていた。
いってきます、の挨拶もなく玄関のドアが閉められてしまい、僕は深く息を吐いた。
*
「だからって、どうして俺を誘ってくるんだよ」
『スマイルベーカリー』のイートインスペースで向かいの席に座る関谷くんは、カレーパンを頬張った。
僕もメロンパンとコーヒーを口にする。
「だって僕、関谷くんしか友達いないんだよねー」
「だよねーじゃないよ。前の琴はそんな言い方はしなかったよ。俺だって暇じゃないのになぁ」
とか言いながら、誘ったら『いいよ!』とすぐに返信してくれたくせに。
今も面倒そうにしているものの、その言葉の裏には『頼ってこられてちょっと嬉しい』という気持ちが隠れている気がする。
関谷くんにはパンを奢る代わりに、文哉さんが『すずね』という女の人に会うのかどうか、確かめに一緒に行って欲しいと頼んだ。
1人で行っても良かったのだけど、誰かに助言をして欲しかったのだ。『彼女じゃなくて、単なる女友達だよ』とか、『妹か姉だよ』とか。
だが関谷くんは、僕の話を聞いただけで『100パー付き合ってる』と断言した。
「夜中に連絡入れてる時点で、彼女でしょう。仕事の付き合いだったら遠慮する時間帯だし、ということは、2人はそこまで遠慮し合うような関係では無いってこと。それに名前で呼んでるし、『また会いたい』だなんて、確実でしょ。ていうか、どうしてそんなことが気になるの?」
「別に、単なる好奇心だよ」
関谷くんにももちろん、僕が同性愛者の可能性があることも、文哉さんに恋をし始めたことも話していない。
カレーパンをあっという間にたいらげた関谷くんは、残っていたパックの牛乳も一気に飲み干した。
「まぁいいけど。今日はその人、仕事なんでしょう?」
「うん。ここに勤めてる人なんだけど」文哉さんに前にもらった名刺を出して見せる。
「篠口メンタルクリニック……ふーん、ここから少し離れてるんだね。どうしてこの人が、琴の面倒を見てるの?」
僕は簡単に相澤先生と文哉さんのことを説明した。
関谷くんは聞きながら、クリニックの住所をスマホで検索して場所を確認している。
「僕は家に1人だし、誰も僕を見る人がいなくて危なっかしいと思ったんじゃないかな」
「それだけで? 随分と優しい医者なんだね。俺だったらそんな面倒な役回り、絶対に嫌だけど」
すんなりと傷付くことを言ってきて、悲しくなってしまう。
しゅんとしていると、驚いた顔で手を横に振られた。
「あぁ、違う、琴といたくないって意味じゃなくて! もし俺が精神科医だったとして、患者の家で暮らして、その人の面倒を見るだなんて有償でもしたくないなぁーって」
確かにそれは僕も思うが、文哉さんは優しいから人と違った考えを持っているのだなと思っていた。
関谷くんは何かを考え込んだあと、名刺を見ながら切り出した。
「この篠口って人、なんだかんだ理由付けて、琴と一緒にいたかったんじゃないのかな」
「え」
それってどういう意味だろう。
もし僕が考えていることと一致していたら、嬉しいことだが。
棘のある言い方をしてしまい、なんて嫌な奴なのだと自分でも思うが、謝れなかった。
「俺はついに、嫌われたのか」
自嘲気味に文哉さんは笑うので、僕はこっそり、唇をかんだ。
逆だよ。嫌ってたら、こんなふうになってない。
「これは喧嘩じゃないよ。馴れ合い」
そっぽを向きながら言うと、文哉さんは「そうか」とまた困ったように笑っていた。
朝食はどうにか2人で向かい合って食べたが、目線は合わせなかった。
いつもなら何か世間話をするけど、文哉さんは明らかに気を遣っていた。
いってきます、の挨拶もなく玄関のドアが閉められてしまい、僕は深く息を吐いた。
*
「だからって、どうして俺を誘ってくるんだよ」
『スマイルベーカリー』のイートインスペースで向かいの席に座る関谷くんは、カレーパンを頬張った。
僕もメロンパンとコーヒーを口にする。
「だって僕、関谷くんしか友達いないんだよねー」
「だよねーじゃないよ。前の琴はそんな言い方はしなかったよ。俺だって暇じゃないのになぁ」
とか言いながら、誘ったら『いいよ!』とすぐに返信してくれたくせに。
今も面倒そうにしているものの、その言葉の裏には『頼ってこられてちょっと嬉しい』という気持ちが隠れている気がする。
関谷くんにはパンを奢る代わりに、文哉さんが『すずね』という女の人に会うのかどうか、確かめに一緒に行って欲しいと頼んだ。
1人で行っても良かったのだけど、誰かに助言をして欲しかったのだ。『彼女じゃなくて、単なる女友達だよ』とか、『妹か姉だよ』とか。
だが関谷くんは、僕の話を聞いただけで『100パー付き合ってる』と断言した。
「夜中に連絡入れてる時点で、彼女でしょう。仕事の付き合いだったら遠慮する時間帯だし、ということは、2人はそこまで遠慮し合うような関係では無いってこと。それに名前で呼んでるし、『また会いたい』だなんて、確実でしょ。ていうか、どうしてそんなことが気になるの?」
「別に、単なる好奇心だよ」
関谷くんにももちろん、僕が同性愛者の可能性があることも、文哉さんに恋をし始めたことも話していない。
カレーパンをあっという間にたいらげた関谷くんは、残っていたパックの牛乳も一気に飲み干した。
「まぁいいけど。今日はその人、仕事なんでしょう?」
「うん。ここに勤めてる人なんだけど」文哉さんに前にもらった名刺を出して見せる。
「篠口メンタルクリニック……ふーん、ここから少し離れてるんだね。どうしてこの人が、琴の面倒を見てるの?」
僕は簡単に相澤先生と文哉さんのことを説明した。
関谷くんは聞きながら、クリニックの住所をスマホで検索して場所を確認している。
「僕は家に1人だし、誰も僕を見る人がいなくて危なっかしいと思ったんじゃないかな」
「それだけで? 随分と優しい医者なんだね。俺だったらそんな面倒な役回り、絶対に嫌だけど」
すんなりと傷付くことを言ってきて、悲しくなってしまう。
しゅんとしていると、驚いた顔で手を横に振られた。
「あぁ、違う、琴といたくないって意味じゃなくて! もし俺が精神科医だったとして、患者の家で暮らして、その人の面倒を見るだなんて有償でもしたくないなぁーって」
確かにそれは僕も思うが、文哉さんは優しいから人と違った考えを持っているのだなと思っていた。
関谷くんは何かを考え込んだあと、名刺を見ながら切り出した。
「この篠口って人、なんだかんだ理由付けて、琴と一緒にいたかったんじゃないのかな」
「え」
それってどういう意味だろう。
もし僕が考えていることと一致していたら、嬉しいことだが。
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