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Phase:02 現実は筋書きよりも奇なり
Side C - Part 6 訊きたかったこと
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「同志になってくれるのはもちろん大歓迎だ。一緒にりょーちんを推そう」
「! それじゃあ……」
「でも、その前にひとつ確認させてくれ」
なのに……つい最近までそんだけ壮大なドラマが繰り広げられてたってのに、この二人ときたらいくら打っても響かないんだ!
普段はサッカーに興味なさげな人まで大フィーバーする中、そんな騒ぎはどこ吹く風。試合結果ならダイジェスト動画で見ればよくない? って感じでさ。
それが、高校に入った途端手のひら返し。りょーちんに会いたいと言い出した。
なんか裏があるとしか思えないな。はいそうですか、なんて言えるかよ。
それに、オレはみんなが訊きたくても訊けずにいる、もう一つの噂の真偽もはっきりさせたい。
疑惑を持たれてる本人の口から、本当のことを聞きたいんだ。
「川岸――ここはマジで、お前の書いた小説の世界なのか?」
「え……っ」
相手の顔がこわばる。水原が横から「おい、お前!」と怒鳴りつけてきたが、全世界同時生中継でそのネタバレかましたの誰だっけかなあ。
「別に責めてなんかない。ゲームみたいなことが現実に起きたなんて信じられなくて、一年経ったのにまだ夢の中にいるような感覚でさ。だから訊いた」
「……正直に答えたら、どうする?」
「先生に言う? 警察に突き出す? しねーよそんなこと、指名手配犯じゃあるまいし」
これは本心だ。仮に答えがイエスでも、言いふらすつもりはない。
だって、オレが「俊英受かった」って教えた時、泣いて喜んでくれたじゃん。さすがだね、って。ユニもらったら着て見せてよ、って言ったじゃん。
オレには、あの言葉が嘘だったとは思えない。
川岸は、人を傷つけるために小説を書くようなヤツじゃないはずだ。
「あれから一年経った。もう一年経ったんだよ。それなのに、状況は少しも良くならない。何も変わらない、変えられない大人たちに、本当のことなんて話せるか?」
「……」
「ここが現実か、そうじゃないかはどうだっていい。でも、人からパクった作品でオレの人生をねじ曲げたヤツを、オレは許さない。それだけだ」
身体に〈五葉紋〉が浮き出たら、二度と町から出られない――。勝手に決められたそのルールが進路を閉ざし、多くの人の希望を殺した。
冗談じゃない。誰がそんなふざけた決まりを作った?
全部、全部大人が悪い。そんな自分勝手な連中に、誰が友達を売り渡すもんか!
「つーわけで、訊いといてアレだけどやっぱ答えなくていいや!」
「なんだそれは。ふざけているのか?」
「この手のゲームはサバイバルしながら真相を暴いていくのがミソじゃん。謎解きはサバイバルの合間に、ってな」
「呆れた。人生をゲーム感覚で生きているとは」
「そういう水原こそ人生何周目?」
と、ここで予鈴のチャイムが鳴り、オレたちは急いで宿直室を出た。体感よりも長く話し込んじゃってたみたいだな。
先に外へ出た二人に続いてカバンを背負い直した時、視界の隅できらめくアクリルプレートたちに目が留まる。
ひとつは大きく目立つ丸型。星を戴き冠雪した富士山をお茶の枝が囲む青・白・緑のエンブレムは、言わずと知れた東海ステラのシンボルだ。
宮城出身としては、仙台という立派な舞台でプレーしたい気持ちも当然ある。もう一度チャンスをくれるなら、オレは地元に恩返しがしたい。
ただ……それ以上に、オレはりょーちんとサッカーがしたいんだ。同じチームで、同じ景色を見て、喜びも悔しさも分かち合いたい。
そしていつか、直接会って伝えたい。
人生で一番大きな目標をくれたあなたへの愛と感謝を、ボールに込めて。
(……そうだな。いつかまた、会えたらいいな)
もう一つ、星――七夕つながりで水色の短冊を模したほうのプレートは、オレの最推しを取り上げたものだ。
スタイリッシュな斜体ローマ字でりょーちんの選手登録名と背番号、シュート直前で脚を振りかぶったシルエットがあしらわれている。
クラブを離れた今はもう売ってないはずだけど、どっちも公式グッズだったもの。心が折れかけた時、大事な試合の前に力をくれる、とっておきのお守りだ。
「急ごう、小林くん!」
「放っておけ。遅れたら奴の自己責任だ」
「おっと、悪い! 今行く!」
部屋の外から、先に出たふたりの呼ぶ声が聞こえる。オレは後ろ手で扉を閉め、気持ち新たに駆け出した。
「! それじゃあ……」
「でも、その前にひとつ確認させてくれ」
なのに……つい最近までそんだけ壮大なドラマが繰り広げられてたってのに、この二人ときたらいくら打っても響かないんだ!
普段はサッカーに興味なさげな人まで大フィーバーする中、そんな騒ぎはどこ吹く風。試合結果ならダイジェスト動画で見ればよくない? って感じでさ。
それが、高校に入った途端手のひら返し。りょーちんに会いたいと言い出した。
なんか裏があるとしか思えないな。はいそうですか、なんて言えるかよ。
それに、オレはみんなが訊きたくても訊けずにいる、もう一つの噂の真偽もはっきりさせたい。
疑惑を持たれてる本人の口から、本当のことを聞きたいんだ。
「川岸――ここはマジで、お前の書いた小説の世界なのか?」
「え……っ」
相手の顔がこわばる。水原が横から「おい、お前!」と怒鳴りつけてきたが、全世界同時生中継でそのネタバレかましたの誰だっけかなあ。
「別に責めてなんかない。ゲームみたいなことが現実に起きたなんて信じられなくて、一年経ったのにまだ夢の中にいるような感覚でさ。だから訊いた」
「……正直に答えたら、どうする?」
「先生に言う? 警察に突き出す? しねーよそんなこと、指名手配犯じゃあるまいし」
これは本心だ。仮に答えがイエスでも、言いふらすつもりはない。
だって、オレが「俊英受かった」って教えた時、泣いて喜んでくれたじゃん。さすがだね、って。ユニもらったら着て見せてよ、って言ったじゃん。
オレには、あの言葉が嘘だったとは思えない。
川岸は、人を傷つけるために小説を書くようなヤツじゃないはずだ。
「あれから一年経った。もう一年経ったんだよ。それなのに、状況は少しも良くならない。何も変わらない、変えられない大人たちに、本当のことなんて話せるか?」
「……」
「ここが現実か、そうじゃないかはどうだっていい。でも、人からパクった作品でオレの人生をねじ曲げたヤツを、オレは許さない。それだけだ」
身体に〈五葉紋〉が浮き出たら、二度と町から出られない――。勝手に決められたそのルールが進路を閉ざし、多くの人の希望を殺した。
冗談じゃない。誰がそんなふざけた決まりを作った?
全部、全部大人が悪い。そんな自分勝手な連中に、誰が友達を売り渡すもんか!
「つーわけで、訊いといてアレだけどやっぱ答えなくていいや!」
「なんだそれは。ふざけているのか?」
「この手のゲームはサバイバルしながら真相を暴いていくのがミソじゃん。謎解きはサバイバルの合間に、ってな」
「呆れた。人生をゲーム感覚で生きているとは」
「そういう水原こそ人生何周目?」
と、ここで予鈴のチャイムが鳴り、オレたちは急いで宿直室を出た。体感よりも長く話し込んじゃってたみたいだな。
先に外へ出た二人に続いてカバンを背負い直した時、視界の隅できらめくアクリルプレートたちに目が留まる。
ひとつは大きく目立つ丸型。星を戴き冠雪した富士山をお茶の枝が囲む青・白・緑のエンブレムは、言わずと知れた東海ステラのシンボルだ。
宮城出身としては、仙台という立派な舞台でプレーしたい気持ちも当然ある。もう一度チャンスをくれるなら、オレは地元に恩返しがしたい。
ただ……それ以上に、オレはりょーちんとサッカーがしたいんだ。同じチームで、同じ景色を見て、喜びも悔しさも分かち合いたい。
そしていつか、直接会って伝えたい。
人生で一番大きな目標をくれたあなたへの愛と感謝を、ボールに込めて。
(……そうだな。いつかまた、会えたらいいな)
もう一つ、星――七夕つながりで水色の短冊を模したほうのプレートは、オレの最推しを取り上げたものだ。
スタイリッシュな斜体ローマ字でりょーちんの選手登録名と背番号、シュート直前で脚を振りかぶったシルエットがあしらわれている。
クラブを離れた今はもう売ってないはずだけど、どっちも公式グッズだったもの。心が折れかけた時、大事な試合の前に力をくれる、とっておきのお守りだ。
「急ごう、小林くん!」
「放っておけ。遅れたら奴の自己責任だ」
「おっと、悪い! 今行く!」
部屋の外から、先に出たふたりの呼ぶ声が聞こえる。オレは後ろ手で扉を閉め、気持ち新たに駆け出した。
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