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Phase:03 ガールズ・ミーツ・ストライカー
side B-2 夢の終わり
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そこからの展開は早かった。放送が終わると実況中継ドローンはどこかへ飛び去り、教職員と先輩たちが労いの言葉を掛け合って、ハイタッチやハグで互いの無事を喜ぶ。
そのあとは荷物放り出してりょーちんに群がり「サインください!」「握手して!」「頑張ったみんなに一言!」なんて大騒ぎ、と思いきや――
「はい、みんなお疲れ! 帰ろ帰ろ~!」
「うぇ~い! お疲れっした~!」
……え? ええ? フツーに行儀よく解散しちゃった。
さっきまでみんな、りょーちんの登場に熱狂してたよな。何やってもキャーキャー言われるスター選手がすぐ近くにいるこの状況、オレなら絶対放っておかない。
しかも、最前線で命を張ってくれたのに、全部終わった瞬間興奮が冷めて「お疲れさまでした~」って……そんなことある?
「このあとどーする? 駅前のカフェ寄って帰る?」
「いいね、行こうよ。私も気になってたんだ」
「あ~、腹減った~。今日の夕食な~にかな~、っと」
「美味ければ何でもいい。それと――小林」
そんな中、主将と目が合ってオレは青ざめた。迎えに行くって言ってくれたのに話を聞かず、勝手に参戦してしまったさっきの一幕が頭をよぎる。
あああああ、マジでごめんなさい! 注意を受ける程度で済めばいいけど、初日でサッカー班を追い出されでもしたらキャリア傷つくどころか終わるじゃん!
パシリでも反省文提出でもしますから、脱班(退部)だけはお許しをぉぉぉぉ!
「はっ、はい!」
「俺は先に寮へ戻る。ミーティングは八時からだ、遅れるなよ」
「え? あ……、はい! お疲れさまでした!」
「あいつが噂の大型新人? 確かにデカいな。あと――」
「目標はプロになって〝宮城のりょーちん〟と呼ばれること、だそうだ」
「……あーね。めっちゃ納得できる紹介ありがとう月代」
厳しい言葉を覚悟していたら、伝えられたのは業務連絡のみ。キャプテンは坊主頭の硬式野球班主将と肩を並べ、オレを置いて帰ってしまった。
居残る人の数はあれよあれよと減っていき、気づけば生徒は四人だけ。オレと川岸、水原、工藤だ。大人はりょーちんと手代木さん、葉山先生の三人が残った。
「なぜ、こんなにもあっさり解散したんだ――という顔だね。理由は至って単純さ。キミたちと接触を図るうえで、彼らに居残られては都合が悪いのだよ」
「だっ、誰だ!? どこからわが校の構内に入った!」
「もちろん、正々堂々と正門から。疑うなら校長先生に〈Psychic〉で問い合わせてみてはいかがかな、葉山先生」
そこへ、低い男の声を伴った足音が近づいてくる。天井に反響して聞こえるけど、からん、からんと木が硬いものにぶつかるような音だ。
出どころを探した末、オレたちの視線は大講堂の対岸、上に向かって伸びる階段にたどり着く。そこから夜の闇に紛れて黒い人影が下りてくるのを、七人全員が目撃した。
「出たあああああああ! お化け――ッ!」
「お疲れさまです、ハヤさん。視察なんて珍しいですね」
「おや、私は去年まで第一線にいた人間だよ。立場上おいそれとは出歩けないが、百聞は一見に如かず。現場を知る大切さは誰よりも理解しているつもりだ」
その全貌を目にする前に、葉山先生は叫び声を上げ卒倒してしまった。マネージャーがりょーちんを介して生体スキャンしてくれた結果によれば、脳や心臓に影響はなく、ただショックで気絶しただけらしい。
口から泡吹いて倒れるなんて急病か二次元の中だけと思ってたら、人間ホントにああなるのな。初めて知った。
「ところで良平君、私は気を失うほど怖く見えているのだろうか」
「ええ、そりゃもう。どっからどう見ても下駄履いて日本刀持った落武者ですね」
「そこは浪人と答えるべきだったな。一匹放流」
「あんたホントに俺のこと買ってんの!?」
辺りが暗くなったことで、自動制御の照明が一斉に点灯した。薄いオレンジのかった暖色のLEDが、広場を優しく照らし出す。
柔らかな光の下に姿を現したサムライ――長い前髪で右目を隠し、夜空のような深い藍色の着物と羽織を身に着けたおっさんは、りょーちんとグータッチを交わしたのちオレたちに正対した。
「では、落ち着いたところで名乗るとしようか。私は徳永隼人、FC逢桜ポラリスのゼネラルマネージャーだ」
「ええええええええ!?」
「良ちゃんの飼い主さんじゃん。おつおつ~」
「飼い主って何だよ。俺は犬か」
『犬は犬でも狂犬……いや、チャラ男だからオオカミだな』
「ぶっさらうよ?」
いやいやいやいや、嘘だろ? GMっていったら最高権力者じゃん! ほかの選手や監督とうまくやれても、この人の機嫌を損ねたら終わる。
工藤とりょーちんが好き放題に絡んでるから、ただのコスプレおっさんだと思ってたのに……そんなすごい人だったなんて!
やけに親しげな二人の様子にツッコむ気力も起きないほど、オレはこの一言でビビり散らかしていた。
「どういうことだ。あなたは内閣府の官僚じゃないのか?」
「キミは、あの時の――そうか。原作者を知っていると言っていたな」
「私の質問に答えるのが先だ」
「本部からの出向という形で、逢桜町役場へ籍を置くことになってね。危機管理課の別働隊、別班としてこの春新設された〈特定災害〉対策班で指揮を執っている」
そんなオレとは対照的に、水原の厳しい追及を受けても徳永さんは怯まない。確か、官僚って超エリート公務員のことだよな。このくらいじゃ動揺しないか。
川岸はこの張り詰めた空気を恐れてか、何も言わず青い顔をしている。心配するなって、あのイカれジーニアスが手を出そうとしたらオレが――
「役場の危機管理課……〈特定災害〉……〈モートレス〉対策の、別班?」
「あなたの言うことが事実なら、肩書きは〝対策班長〟となるはずだ。なぜMRプロサッカークラブの責任者を名乗っている?」
待てよ。そういえば、うちの親父が今朝、町の広報誌を見て「役場からサッカークラブに行った人がいる」とか言ってたな。
〈Psychic〉が使えるなら、ちょっと「じきたん」アプリで探してみるか。えーっと、町からのお知らせ、『広報あさくら』最新号……
「役場からポラリスへ出向した知り合いがいてな。彼は災害とは程遠い、エキサイティングな町おこしに従事していると言っていた」
「まさか……違う。そんなはずない」
あ、これだこれだ。【町職員 四月一日付人事異動】。だけど、いくら紙面を舐めるように探しても、〈特定災害〉対策班なんてどこにもない。
代わりに、町も出資するFC逢桜ポラリスの運営事務局長に徳永さんを迎えた、とは書いてあった。
わかったぞ。これ、表向きは存在しない秘密組織ってパターンだ。一般人のオレが聞いていい話かはちょっとアレだけど、すげーカッコいい!
そう思ったのもつかの間、外部派遣者の欄へ目を移した瞬間に、オレは川岸が青ざめた本当の理由を知ることになる。
【危機管理課防災担当課長補佐、株式会社逢桜ポラリス事務局次長 川岸一徹】
「違う! だって、お父さんは――!」
「答えろ。お前たちはこの町で、一体何をするつもりだ!」
高い天井に、ドスの利いた水原の大声が反響する。徳永さんは何も答えず、オレたちの背後にある大講堂の方角を顎でしゃくった。
「戦いだよ。町民と一緒に、これからもこの町で生きていくためのね」
「お父、さん――」
「黙っててごめん。でも、これが僕の仕事なんだ」
マジメで、優しくて、ちょっと気弱そうな印象。頼まれたらノーと言えない日本人。いかにも公務員ですって感じがする友達の親父さんは、オレたちの後ろに悲しそうな顔で立っていた。
そのあとは荷物放り出してりょーちんに群がり「サインください!」「握手して!」「頑張ったみんなに一言!」なんて大騒ぎ、と思いきや――
「はい、みんなお疲れ! 帰ろ帰ろ~!」
「うぇ~い! お疲れっした~!」
……え? ええ? フツーに行儀よく解散しちゃった。
さっきまでみんな、りょーちんの登場に熱狂してたよな。何やってもキャーキャー言われるスター選手がすぐ近くにいるこの状況、オレなら絶対放っておかない。
しかも、最前線で命を張ってくれたのに、全部終わった瞬間興奮が冷めて「お疲れさまでした~」って……そんなことある?
「このあとどーする? 駅前のカフェ寄って帰る?」
「いいね、行こうよ。私も気になってたんだ」
「あ~、腹減った~。今日の夕食な~にかな~、っと」
「美味ければ何でもいい。それと――小林」
そんな中、主将と目が合ってオレは青ざめた。迎えに行くって言ってくれたのに話を聞かず、勝手に参戦してしまったさっきの一幕が頭をよぎる。
あああああ、マジでごめんなさい! 注意を受ける程度で済めばいいけど、初日でサッカー班を追い出されでもしたらキャリア傷つくどころか終わるじゃん!
パシリでも反省文提出でもしますから、脱班(退部)だけはお許しをぉぉぉぉ!
「はっ、はい!」
「俺は先に寮へ戻る。ミーティングは八時からだ、遅れるなよ」
「え? あ……、はい! お疲れさまでした!」
「あいつが噂の大型新人? 確かにデカいな。あと――」
「目標はプロになって〝宮城のりょーちん〟と呼ばれること、だそうだ」
「……あーね。めっちゃ納得できる紹介ありがとう月代」
厳しい言葉を覚悟していたら、伝えられたのは業務連絡のみ。キャプテンは坊主頭の硬式野球班主将と肩を並べ、オレを置いて帰ってしまった。
居残る人の数はあれよあれよと減っていき、気づけば生徒は四人だけ。オレと川岸、水原、工藤だ。大人はりょーちんと手代木さん、葉山先生の三人が残った。
「なぜ、こんなにもあっさり解散したんだ――という顔だね。理由は至って単純さ。キミたちと接触を図るうえで、彼らに居残られては都合が悪いのだよ」
「だっ、誰だ!? どこからわが校の構内に入った!」
「もちろん、正々堂々と正門から。疑うなら校長先生に〈Psychic〉で問い合わせてみてはいかがかな、葉山先生」
そこへ、低い男の声を伴った足音が近づいてくる。天井に反響して聞こえるけど、からん、からんと木が硬いものにぶつかるような音だ。
出どころを探した末、オレたちの視線は大講堂の対岸、上に向かって伸びる階段にたどり着く。そこから夜の闇に紛れて黒い人影が下りてくるのを、七人全員が目撃した。
「出たあああああああ! お化け――ッ!」
「お疲れさまです、ハヤさん。視察なんて珍しいですね」
「おや、私は去年まで第一線にいた人間だよ。立場上おいそれとは出歩けないが、百聞は一見に如かず。現場を知る大切さは誰よりも理解しているつもりだ」
その全貌を目にする前に、葉山先生は叫び声を上げ卒倒してしまった。マネージャーがりょーちんを介して生体スキャンしてくれた結果によれば、脳や心臓に影響はなく、ただショックで気絶しただけらしい。
口から泡吹いて倒れるなんて急病か二次元の中だけと思ってたら、人間ホントにああなるのな。初めて知った。
「ところで良平君、私は気を失うほど怖く見えているのだろうか」
「ええ、そりゃもう。どっからどう見ても下駄履いて日本刀持った落武者ですね」
「そこは浪人と答えるべきだったな。一匹放流」
「あんたホントに俺のこと買ってんの!?」
辺りが暗くなったことで、自動制御の照明が一斉に点灯した。薄いオレンジのかった暖色のLEDが、広場を優しく照らし出す。
柔らかな光の下に姿を現したサムライ――長い前髪で右目を隠し、夜空のような深い藍色の着物と羽織を身に着けたおっさんは、りょーちんとグータッチを交わしたのちオレたちに正対した。
「では、落ち着いたところで名乗るとしようか。私は徳永隼人、FC逢桜ポラリスのゼネラルマネージャーだ」
「ええええええええ!?」
「良ちゃんの飼い主さんじゃん。おつおつ~」
「飼い主って何だよ。俺は犬か」
『犬は犬でも狂犬……いや、チャラ男だからオオカミだな』
「ぶっさらうよ?」
いやいやいやいや、嘘だろ? GMっていったら最高権力者じゃん! ほかの選手や監督とうまくやれても、この人の機嫌を損ねたら終わる。
工藤とりょーちんが好き放題に絡んでるから、ただのコスプレおっさんだと思ってたのに……そんなすごい人だったなんて!
やけに親しげな二人の様子にツッコむ気力も起きないほど、オレはこの一言でビビり散らかしていた。
「どういうことだ。あなたは内閣府の官僚じゃないのか?」
「キミは、あの時の――そうか。原作者を知っていると言っていたな」
「私の質問に答えるのが先だ」
「本部からの出向という形で、逢桜町役場へ籍を置くことになってね。危機管理課の別働隊、別班としてこの春新設された〈特定災害〉対策班で指揮を執っている」
そんなオレとは対照的に、水原の厳しい追及を受けても徳永さんは怯まない。確か、官僚って超エリート公務員のことだよな。このくらいじゃ動揺しないか。
川岸はこの張り詰めた空気を恐れてか、何も言わず青い顔をしている。心配するなって、あのイカれジーニアスが手を出そうとしたらオレが――
「役場の危機管理課……〈特定災害〉……〈モートレス〉対策の、別班?」
「あなたの言うことが事実なら、肩書きは〝対策班長〟となるはずだ。なぜMRプロサッカークラブの責任者を名乗っている?」
待てよ。そういえば、うちの親父が今朝、町の広報誌を見て「役場からサッカークラブに行った人がいる」とか言ってたな。
〈Psychic〉が使えるなら、ちょっと「じきたん」アプリで探してみるか。えーっと、町からのお知らせ、『広報あさくら』最新号……
「役場からポラリスへ出向した知り合いがいてな。彼は災害とは程遠い、エキサイティングな町おこしに従事していると言っていた」
「まさか……違う。そんなはずない」
あ、これだこれだ。【町職員 四月一日付人事異動】。だけど、いくら紙面を舐めるように探しても、〈特定災害〉対策班なんてどこにもない。
代わりに、町も出資するFC逢桜ポラリスの運営事務局長に徳永さんを迎えた、とは書いてあった。
わかったぞ。これ、表向きは存在しない秘密組織ってパターンだ。一般人のオレが聞いていい話かはちょっとアレだけど、すげーカッコいい!
そう思ったのもつかの間、外部派遣者の欄へ目を移した瞬間に、オレは川岸が青ざめた本当の理由を知ることになる。
【危機管理課防災担当課長補佐、株式会社逢桜ポラリス事務局次長 川岸一徹】
「違う! だって、お父さんは――!」
「答えろ。お前たちはこの町で、一体何をするつもりだ!」
高い天井に、ドスの利いた水原の大声が反響する。徳永さんは何も答えず、オレたちの背後にある大講堂の方角を顎でしゃくった。
「戦いだよ。町民と一緒に、これからもこの町で生きていくためのね」
「お父、さん――」
「黙っててごめん。でも、これが僕の仕事なんだ」
マジメで、優しくて、ちょっと気弱そうな印象。頼まれたらノーと言えない日本人。いかにも公務員ですって感じがする友達の親父さんは、オレたちの後ろに悲しそうな顔で立っていた。
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