トワイライト・クライシス

幸田 績

文字の大きさ
上 下
11 / 67
Phase:01 サクラサク

Side C - Part 3 彼と彼女の名推理

しおりを挟む
Phase:01 - Side C "The Samurai" Part 3
* * * * * * * *


「サムライさんは、さっき『これが〈Psychicサイキック〉の闇だ』とおっしゃいましたね。こいつはそんな生ぬるい代物じゃない。です」

「科学的な呪い……人間の脳と身体に、致命的な勘違いをもたらす強烈な自己暗示。集団催眠やカルト的洗脳の下地としては十分だな」

「現実世界と仮想世界を同期《リンク》させ、MR――複合現実を作る。その状態を悪用してあいつが何をする気か、あんたならもうわかるだろ?」

「思い込み、覚めない夢の先……そうか、事実誤認による結果の改竄かいざん! 〈エンプレス〉はサイバー空間から偽の情報を流し、現実に干渉するつもりなのか!」


 神話によれば、ありとあらゆる災厄を吐き出した箱の底には、わずかな「希望」が残されていたという。その光に相当するかもしれないチャラ男君は、またしても予想外の輝きを見せてくれた。
 深く考えるまでもなく、正答をつかみ取る直感。動物的本能、生存戦略、究極の順応性ともいえる才能。
 それこそが一見ただの無謀、無鉄砲、向こう見ずな青年が世界で絶賛される理由。サッカー選手としては小柄な彼を天才たらしめた要因の最たるものだ。


「あと、MRってなんですよ。五感を介して得た情報で脳が錯覚を起こすと、誤った反応が身体に伝わり誤作動エラーが起きる」


 ――ああ。


「無理な競り合いが原因で足首を捻《ひね》るんじゃない。から、。みたいな」


 ××君。キミという人間は、本当に――


「つまり、何だっけ……死亡フラグ? を折らない限り、。そりゃあ〝道〟も視えないワケだ、ゴールが無いんだもの」


 今なら分かるよ。スポーツ科学のスの字も関係ない研究者たちまで、チャラ男君にいたくご執心だった本当の理由。
 いち早く〈Psychic〉とMRの奇妙で独特なルールに慣れ、高い適性を示したキミは――きっと、最高の××××であっただろうから。


「すごいなりょーちん、ナンバーワンだ」

「その掛け声は次節の試合でゴール決めた時まで取っといてください。この状況じゃ出られるか怪しいですけど」

「キミには驚かされてばかりだよ。どこでその洞察力を身につけた?」

「ボールと身体と精神こころをコントロールするのはお手のものなんで」

「素でそう思っているならとんでもない天才だぞ」

「それはどうも。よく言われます」


 歩道に倒れ込んだディレクターの男性は、さらに無惨な姿になっていた。服と路上に漏れ出した体液が染みを広げ、張り詰めたジーパンが音を立てて尻から裂けたかと思うと、強烈な臭気を放つ血と汚物にまみれた肉塊が路上にまろび出てしまう。

 そう、被害者が生み出しているのは――彼自身の、内臓なかみだ。


「あの人……まだ、生きているのか」

「ええ。虫の息ですが」

「そこの男二人、私も混ぜろ。中学生にも意見を言う権利はあるはずだ」


 長い黒髪の少女が立ち上がり、こちらに向けて声をかける。口が利けるだけの元気が戻ったようで何よりだよ。
 そんな彼女の様子に女帝は目を輝かせ、花がほころぶように笑った。殺気に近い敵意を投げつけられ、興味が湧いたらしい。

 反応を見て楽しむ意図があるのか、敵の表情が意地の悪いものに変わる。
 無実のリポーターの似姿をした〈エンプレス〉は、何度も何度もこれ見よがしに、路上に転がるディレクターへ赤いピンヒールを振り下ろした。


「おごっ、げぶっ! おぼぁあぁぁぁ!」

『いやあぁぁぁぁぁ! やめて! やめ……っ、や――あ、あああああぁ!』


 身体の上下から内臓を吐き出すたびにディレクターの身体はびくりと跳ね、スピーカーが金切り声をあげた。
 黙って拳を握り締め、ゆっくりと我々のもとへ歩み寄る少女は、女子中学生であるという。そんな若い身空に、この公開処刑はあまりにも酷だ。

 しかし、彼女の前髪からのぞく黒い瞳はひどく挑戦的で、奥に炎が――すぐ隣の青年と同じ、希望の炎がくすぶっているのを私は見た。


「こんにちは、お姉さん。ご機嫌いかが?」

「役者は揃ったぞ、〈エンプレス〉。そろそろタネ明かしをしたらどうだ」


 市川さんもどきの表情が変わった。実に意味深な発言だが、一体何のことだ?
 この子は何を、どこまで知っている?


「タネ明かし? 何のことかさっぱりだわ」

「私は以前、知り合いが書いたSF小説を読ませてもらったことがある。そこにはこんなことが書いてあった――」


 完全自律型AIによる、通信機器を介した大規模集団洗脳。最初のひとりを起点として通信記録を芋づる式にたどり、人脈をニューラル・ネットワークに見立てて、あらゆるものを侵し壊すサイバーテロ。

 女子中学生が紹介した小説のあらすじは、今の状況と恐ろしいまでに酷似していた。張り詰めた空気の中、彼女は確信に満ちた顔を上げる。


「〈エンプレス〉。お前の手口と、実によく似ていると思わないか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スペーシアフォース

山ピー
SF
宇宙で平和を守るヒーローの物語

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

処理中です...