トワイライト・クライシス

幸田 績

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Phase:03 敵は来ませり

Side A - Part 5 サッカーと作家

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「ところで俺、な~んか重要なこと忘れてる気がすんだよな」

「何ですかこんな時に」

「あ、そうそう。今日、役場が校内の〝防災結界〟を点検したら、機械が壊れてるのに正常だって表記が出る部屋が見つかったんだって」

「……それってまさか、ここのことじゃないですよね?」

「俺の口から答え聞きたい?」

『イケメンボイスでごまかそうとすなーっ!』


 そうだった。自分で決めたプロットなのに、あたしすっかり忘れてた!

 どこかの教室(これが保健室に割り当てられたみたい)に取り残された主人公は、協力者と合流して間もなく〈モートレス〉に襲われる。
 その時、これまで〈五葉紋〉を持ちながら開花しなかったのに、仲間を護るため無我夢中で合言葉を叫ぶと覚醒する、という見せ場を考えてたんだけど――


「もしかしてこの流れ、あたしも戦う感じ?」

「おっ、やる気十分だな。期待してますよ、川岸先生」

「無理無理無理! 作者権限で何とかなるレベル超えてるから!」

「そこを何とかするのが作者でしょうが」


 あたしの〈五葉紋〉は主人公と同じく、現れた日から眠ったままだ。その役を演じ切るって決めた以上、あたしはやっぱりここで目覚めなくちゃいけない。
 イマーシブMRでめちゃくちゃになった世界を、あふれ出る想像力とクリエイター魂で正す〈開花者ブルーム〉として。

 ただ、これは「やります」と言えばできるような話じゃない。
 もし〈五葉紋〉が起動しなかったら? どうやって現実を書き換えればいいの?


「気軽におっしゃいますけど、作家の産みの苦しみは半端ないんですよ」

「うんうん。わかるわー」

「いや、りょーちんはわからないでしょ? サッカーじゃなくて、作家!」

「だからわかるって。同業だよ俺」


 地響きが近づいてくるにつれ、はっきりと異常が感じ取れるようになってきた。壁にヒビが入り、窓ガラスが割れ始める。
 協力者の言っている意味が頭に入ってこない。同業? りょーちんが? あたしは作家って言ったんだけど……ん? んんん?


を知ってるんだろ? あとで初版本にサインくれてやるから、作者権限で主人公補正よろしくぅ!」

『以上、〝もろびとこぞりて〟著者で中二病エンタメラノベ作家・佐々木良平先生のありがたくない要求おことばでした。それではまた来週!』

「でええええええええ!?」


 衝撃的な告白を聞いたと同時に、入口の扉から少し上の壁を鋭い爪が突き破る。すぐ近くまでヒトじゃない何かが迫ってきてるのは明らかだ。

 もう、迷っている暇はない。不安がってる場合じゃない。
 今はただ、自分の可能性を信じるのみ!


「ダメ元でいい。やらまいか!」

「お願い、目覚めて! 〈開花宣言ブルーム・アクト〉――!」


 葉の模様が入った左腕に右手を添え、扉に向けて差し伸べる。
 今まで何度試みても光らなかった五つのひし形がピンクに染まり、ふちの一部に桜の花のマークが入った三重の円があたしの手首を彩った。


「これが、あたしの……」

「おめでとさん。ひとまず上手くいったみたいだな」


 目の前に青みを帯びた仮想スクリーンが展開し、ウェブ小説の執筆画面のように今の状況を文章化した言葉が並ぶ。
 これから、この続きをあたしが埋めていくんだ。考えたそばから文字に起こしてくれる〈Psychicサイキック〉の力を借りて。


「ところでセナ、誰が中二病だって? 蹴り入れるぞおんしゃあ」

『なんでだよ! さっき、まともな動物は蹴らないって言わなかったか!?』

「AIは生物じゃないからノーカンだよ。大丈夫大丈夫、俺なら斜め四十五度から正確に一発叩き込める。ほれほれ、動くとケガするぞ」

『動いても死ぬし、動かんでも死ぬわ!』


 休眠打破、すなわち〈五葉紋〉が正常に機能したことを喜ぶ間もなく、いとも簡単に扉が握り潰される。
 その直後、この世のどんな猛獣よりも恐ろしく不気味な絶叫を伴って、黒い影が保健室になだれ込んできた。
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