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Phase:03 敵は来ませり
Phase:03 / Side A - Part 1 裏切り
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ぴろん、ぴろん。
ぴろん、ぴろん。
どれくらいの時間、意識を失っていたんだろう。頭の中で反響する不気味なアラームによって、あたしは人生最悪の寝覚めを迎えた。
(今の……聞き間違い、じゃないよね)
生理的な気持ち悪さを呼び起こし、緊張感を持たせる電子音。この町に住んでいれば、一日一回は耳にする。
それも、決まって必ず夕方。黄昏時と呼ばれる頃に。
ベッドから飛び起き、間仕切りの白いカーテンを開け放つ。保健室の窓から差す光は、朝よりも明らかに赤みがかっていた。
なんでもう夕方になっているのか、あたしは本当にほぼ丸一日寝ていたのか。じっくり考えるのはあとにしよう。
『――し』
磁気嵐警報を受信したら、やることは決まってる。
まずは自分の〈Psychic〉に異常がないか確認し、町の総合防災SNSアプリを起動。町内のどこに警報が出されたのか、対象地域を調べるんだ。
それと同時並行で、現在地の安全性をチェック。具体的には〝防災結界〟の電波を拾えるか見て、結界があるか、作動してるかどうかを確認する。
もし、一つでも当てはまらないものがあれば、すぐに避難しないと百パー死ぬ。
『川岸! 聞こえているなら返事をしろ!』
いつものことだけど、XG通信――クロス、またはテン・ジーって呼ばれる〈Psychic〉対応の超高速・極大容量電波は、警報が出た直後とあってひどく混み合っていた。
頼みの綱の〝じきたん〟も、桜の花の形をしたアイコンがくるくる回るローディング画面から動かず、なかなか検索に進んでくれない。
しびれを切らして仮想スクリーンをぺちぺち叩いていると、急に知らない声から〈テレパス〉を通じて呼びかけられ、あたしは思わず飛び上がった。
発信者名を見ると【1-C 葉山】とある。初登場回でいきなりブチ切れていた担任の先生だ。どこから連絡してるんだろう。
「え、と……葉山、先生?」
『入学早々死なれちゃ困るんだよ。私の評価が下がるだろう』
そして、開口一番この発言である。前半部分でやめときゃ生徒思いの先生だって誤解してやったのに、何様だよこのクソジジイ。
小林くん。お友達から聞いた担任の悪評、残念ながらガチっぽいです。
「すみません。たった今、警報で目を覚ましたばかりで」
『なんだと? 冗談も休み休み言え』
「冗談なんかじゃありません。起きたら夕方になってたんです」
『呆れた言い訳だな。どうせ仮病、私の話を聞きたくなかっただけに決まってる。オリエンテーションをサボりたかっただけだろう!』
うーん、この自意識過剰な被害妄想。事実じゃなくても「そうだよバーカ!」って返事してやりたい。
こういうヤツがいるせいで、創作者のイメージが悪くなるんだよ。世間一般の人から見ればバカと天才、妄想力と想像力は紙一重だもの。
とはいえ、相手は腐っても先生。目上の人間、大人である。
アホらしいと思いつつ、あたしはもう少し話につき合ってやることにした。
『そんな不良生徒に残念なお知らせだ。保健室には誰もいない』
「でしょうね。不良じゃなくてもわかりますよ」
『だが、幸いにもそこは〝防災結界〟と物資が潤沢にある場所だ。独りなら一週間は籠城できる用意がある』
先生のご高説を聞き流している間に検索が終わった。警報が出ているのはここ、敷地全体が結界でカバーされているはずの逢桜高校キャンパス内だ。
【局地的磁気嵐警報(レベル5・緊急避難)
対象地域:宮城県逢桜町 宮城県立逢桜高校敷地内
発生時刻:午後五時○三分
甚大な被害をもたらす災害が間近に迫っています。
急激な体調悪化、電子機器やAIパートナーの故障に厳重な警戒をしてください。
ただちに、命を守る行動を取ってください。
対象地域の方は、速やかに頑丈な建物の中へ避難するか――】
どうしてこんなことになっているのかは、〝じきたん〟を見てもわからなかった。町も学校も戦時体制で、調査が追いつかないらしい。
そして、葉山先生の言うとおり、保健室は結界でしっかり囲まれていた。
仮に〈モートレス〉がすぐ外まで来たとしても心配ご無用。結界を破るようなことさえしなければ、勝手に素通りしてくれる。
つまり、あたしはこのまま保健室にとどまり、警報解除を待てば良し。
労せずして死亡フラグ回避、生徒に死なれたら困る担任もニッコリ。万事解決じゃん、と思ったんだけど……
『そんな安全地帯を独り占めして、皆に申し訳ないと思わないのか?』
「……なんで?」
予想してなかった葉山先生の反応に、あたしは言葉を失った。
ぴろん、ぴろん。
どれくらいの時間、意識を失っていたんだろう。頭の中で反響する不気味なアラームによって、あたしは人生最悪の寝覚めを迎えた。
(今の……聞き間違い、じゃないよね)
生理的な気持ち悪さを呼び起こし、緊張感を持たせる電子音。この町に住んでいれば、一日一回は耳にする。
それも、決まって必ず夕方。黄昏時と呼ばれる頃に。
ベッドから飛び起き、間仕切りの白いカーテンを開け放つ。保健室の窓から差す光は、朝よりも明らかに赤みがかっていた。
なんでもう夕方になっているのか、あたしは本当にほぼ丸一日寝ていたのか。じっくり考えるのはあとにしよう。
『――し』
磁気嵐警報を受信したら、やることは決まってる。
まずは自分の〈Psychic〉に異常がないか確認し、町の総合防災SNSアプリを起動。町内のどこに警報が出されたのか、対象地域を調べるんだ。
それと同時並行で、現在地の安全性をチェック。具体的には〝防災結界〟の電波を拾えるか見て、結界があるか、作動してるかどうかを確認する。
もし、一つでも当てはまらないものがあれば、すぐに避難しないと百パー死ぬ。
『川岸! 聞こえているなら返事をしろ!』
いつものことだけど、XG通信――クロス、またはテン・ジーって呼ばれる〈Psychic〉対応の超高速・極大容量電波は、警報が出た直後とあってひどく混み合っていた。
頼みの綱の〝じきたん〟も、桜の花の形をしたアイコンがくるくる回るローディング画面から動かず、なかなか検索に進んでくれない。
しびれを切らして仮想スクリーンをぺちぺち叩いていると、急に知らない声から〈テレパス〉を通じて呼びかけられ、あたしは思わず飛び上がった。
発信者名を見ると【1-C 葉山】とある。初登場回でいきなりブチ切れていた担任の先生だ。どこから連絡してるんだろう。
「え、と……葉山、先生?」
『入学早々死なれちゃ困るんだよ。私の評価が下がるだろう』
そして、開口一番この発言である。前半部分でやめときゃ生徒思いの先生だって誤解してやったのに、何様だよこのクソジジイ。
小林くん。お友達から聞いた担任の悪評、残念ながらガチっぽいです。
「すみません。たった今、警報で目を覚ましたばかりで」
『なんだと? 冗談も休み休み言え』
「冗談なんかじゃありません。起きたら夕方になってたんです」
『呆れた言い訳だな。どうせ仮病、私の話を聞きたくなかっただけに決まってる。オリエンテーションをサボりたかっただけだろう!』
うーん、この自意識過剰な被害妄想。事実じゃなくても「そうだよバーカ!」って返事してやりたい。
こういうヤツがいるせいで、創作者のイメージが悪くなるんだよ。世間一般の人から見ればバカと天才、妄想力と想像力は紙一重だもの。
とはいえ、相手は腐っても先生。目上の人間、大人である。
アホらしいと思いつつ、あたしはもう少し話につき合ってやることにした。
『そんな不良生徒に残念なお知らせだ。保健室には誰もいない』
「でしょうね。不良じゃなくてもわかりますよ」
『だが、幸いにもそこは〝防災結界〟と物資が潤沢にある場所だ。独りなら一週間は籠城できる用意がある』
先生のご高説を聞き流している間に検索が終わった。警報が出ているのはここ、敷地全体が結界でカバーされているはずの逢桜高校キャンパス内だ。
【局地的磁気嵐警報(レベル5・緊急避難)
対象地域:宮城県逢桜町 宮城県立逢桜高校敷地内
発生時刻:午後五時○三分
甚大な被害をもたらす災害が間近に迫っています。
急激な体調悪化、電子機器やAIパートナーの故障に厳重な警戒をしてください。
ただちに、命を守る行動を取ってください。
対象地域の方は、速やかに頑丈な建物の中へ避難するか――】
どうしてこんなことになっているのかは、〝じきたん〟を見てもわからなかった。町も学校も戦時体制で、調査が追いつかないらしい。
そして、葉山先生の言うとおり、保健室は結界でしっかり囲まれていた。
仮に〈モートレス〉がすぐ外まで来たとしても心配ご無用。結界を破るようなことさえしなければ、勝手に素通りしてくれる。
つまり、あたしはこのまま保健室にとどまり、警報解除を待てば良し。
労せずして死亡フラグ回避、生徒に死なれたら困る担任もニッコリ。万事解決じゃん、と思ったんだけど……
『そんな安全地帯を独り占めして、皆に申し訳ないと思わないのか?』
「……なんで?」
予想してなかった葉山先生の反応に、あたしは言葉を失った。
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