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"4階"
しおりを挟むこんなにも哀しくなるのは
なぜなんだろうか。
○○○
階段を駆け上がる
そして、2階につく。
_____また、この気持ち悪い感じ。
ところが、霊は全く見当たらない。
ただ落ち掛けの夕焼け色に染った薄暗い廊下が広がっていた。
「……霊いないじゃん」
「…うわー」
「思ってたより深刻そう」
少し呆れたような、面倒くさそうな
そんな感情を表した笑みを貼り付けている。
一体、どういうことなんだろうか…
「なんで霊いないの?」
「……その理由がそろそろお出ましだよ」
ただ、廊下の奥を見つめて
そういうエレト。
同じように、廊下の奥を見つめる。
………なんだ、この違和感。
さっきと同じはずの気持ち悪さなのに
なにか、
なにかが、違う。
空気が少しずつ重くなる。
何かが、ゆっくりと近ずいて来ている。
「…構えろ」
「今回の魂の門番がお見えだ」
大幣の上の部分を持ち
刀身を抜く準備をするエレトに続き、
私も短刀を抜く。
だんだん近ずいてくる気配と、重くなる空気。
深呼吸をする。
「……………」
扉の軋む音がした。
そのとき
「走れ!」
「!!」
手を思いっきり引かれて
音がした方に走り出す。
扉から黒いナニカが見えた途端
エレトは刀身を出した。
そして、そいつにぶっ刺した。
「レイ!」
名前を呼ばれて、すぐに私も振りかぶる。
そのとき
ナニカと、目が合った。
「!」
憎しみ。
強い、憎悪。
強く苦しい、負の感情。
そんなものが、脳に流れ込んでくる。
苦しいな、
もう嫌だな、
やめたいな、
なんで、
なんで、
私を見てくれないの、
認めてよ、
認めて……
「レイ!!」
私を見てよ
見つけて
探して
哀しい
苦しい
「ぁ………」
ねえ
お父さん。
「……クソ」
目の前のナニカが
私から、視線を外す。
そして、なだれ込むように倒れる。
消滅する。
次に、エレトの目が私を貫いた。
「レイ」
「エレト…」
何も、考えられなくなった。
ただただ、無意識に
涙を流す。
「…なにか、感じたのか」
「……哀しい感情が、沢山入ってきて」
「それから、苦しくなって……」
「……動けるか?」
真剣で
とても強い眼差し。
いつもの笑みは、消えている。
そんな顔を、真っ直ぐに見た。
「……うん、もう、大丈夫」
「…わかった」
「いくぞ」
私の肩を抱くようにして
3階に歩み出す。
……また、助けられてしまった。
慣れてないから、しょうがないとはいえ
もう、少しも足手まといにはなりたくない。
私は、短刀を強く握った。
○○○
3階
親玉のいるところ。
……のはずだった。
「……あれ」
空気が
澄んでいる。
全然、嫌な気配と、気分の悪い気持ち悪さもない。
「………まあ、そら簡単には見つけさせてくれないよな」
そう言って、また廊下の奥に進む。
この旧校舎は、結構特殊な造りで
1回上がる事に、その上がった階段の反対側に階段がある。
そのため、いちいち長い廊下を渡らなくてはならないのだ。
「多分、何回か1階から3階まで昇り降りしねえと親玉のとこには行けないだろうな」
「……あ、もしかして、よくある"異世界へ続く階段"みたいな学校怪談のやつ?」
「それだな」
…うわ、めんどくさい。
ただえさえ、私は体力が少ないのに……。
そんなことを考えながら、まだ夕焼け色に染まった薄暗い廊下を渡って行く。
「……レイ」
「…なに?」
「短刀、使いやすいか?」
…さっきの感じからして
聞かれるかなーとは思ってた。
だって
「……ちょっと使いずらい、かも」
そう、使いずらいのだ。
「…うーん、合うと思ったんだけどなー」
「波長が合わないのかもなー」
「……」
「まあ、他のやつもまだあるし」
「練習あるのみ、だな」
ニコリと
いつもの笑みで笑いかけてくる。
まだ、1つしか使ってないから
とりあえず、色んなものを使ってみるしかない。
「で」
「コレだな」
「……うわ」
1度、1階に降りてから
3階に上がって、反対側を見るとこれだ。
すぐに、真っ赤な空が窓に映し出された
"4階"が現れた。
さっきまでとは違う
比べ物にならないほどの、気持ち悪い感じ。
そして、ナニカに見つめられてるんじゃないかと思うほどの視線。
気分が悪い。
「…さて、親玉のところに行くか」
エレトが、階段を1歩、踏みしめる。
それに続いて、私も
足を踏み出した。
「!!」
痛いほどの
視線。
ゲーム音のような、「キー」となる耳鳴り。
真っ赤な視界に
頭に響く、鳴り止まない警笛。
また1歩
踏みしめる。
「……なにこれ……」
「…警告だな」
「これ以上は来るな、っていう」
1歩1歩、階段を上がるごとに
音は大きく
視線は強く
気持ち悪く、なっていく。
そして、最後の階段を登りきると
「……あれ」
先程の視線と耳鳴りが消え
ただ赤い空が映る、異質な風景が広がっていた。
「…ここからは」
「何が起こっても、おかしくない」
「……警告を無視したから?」
「…そうだな」
手汗が滲んでくる。
窓の外を、カラスが飛ぶ。
まるで、嘲笑うかのように。
「よく来たな」
低く、野太い
男性と思わしき声がした。
「……出たな、"魔王"」
「…お前は、神陵家の子か」
「大正解」
まだ、エレトは刀身は抜いてない。
説得の猶予があるってこと、か。
「神陵家の次期当主が、何用だ」
「混世魔王さん」
「あなたに、魂になってもらいに来たんすよ」
「…ほう」
興味深そうに顎の髭を撫でるなんとか魔王さん。
黒い肌に、左目に纏われた赤い炎
薄緑の逆立った髪がとても特徴的だ。
なぜ、ボロボロの布を纏っているのかは不明だけど…。
「悪いが、それはできんな」
「なぜです?」
「某は、今少々忙しくてな」
「魂になる暇はないのだ」
「忙しい、といいますと?」
「某はな……」
そういうと
ボロボロの布の中から、本とCDを取り出した。
「日本のアイドルにハマっているからだ!!」
「…え」
「…………」
さすがのエレトも
驚いた顔をしている。
…え、日本のアイドル…?
「日本のアーティストやアイドルは素晴らしい!!歌謡を唄いながらも、舞を踊り、我々を魅了するあの笑顔を振りまくのだ!!」
「あの桜坂やら楓坂は特に好きでな!!」
「CD集めやライブに勤しんでいるのだ!!」
「来月もライブがある、悪いがそれを見るまでは魂になるなど考えられぬな!!」
とっても幸せそうな笑顔で語るなんとか魔王さん。
………こんなのあり?
「じゃあ、来月またくるんで」
「ライブが終わったあとなら魂なってくれます?」
「……そうだな」
「ライブが終わり、次のライブが決まるまでの間で…」
それから、少し考えたそぶりをみせ
ギラついた目で、答えた。
「俺に勝てば、考えてやろう。」
先程の
強い、気持ち悪さ。
そして、圧迫感と圧力が加わった。
「…いいっすね、それ」
「受けて立ちますよ」
二人の目が
赤い空に照らされて、ギラつく。
「こいつが」
頭を
エレトの方に寄せられ
ニッコニコなエレトに
そう言われた。
……………………は?
「はあ!?」
「そのおなごか、いいとも!!」
「誰であろうが受けて立とう!!」
拳を手のひらで受け止める仕草をするなんとか魔王さん。
いや、無理ですよ。
無理ですよ?
「何言ってんだよ!無理に決まって…」
「特訓、頑張ろうな」
「願い叶えたいんだろ?」
胡散臭い
貼り付けた笑みをするエレト。
言ったけど
言ったけど、さあ……
こんなことになるなんて……。
「では、決戦は来月の16日!!」
「待っておるぞ!!」
笑顔で手を降るなんとか魔王さん。
赤い空をした窓が、強く光を放つ。
そして、気づく頃には
「………もうこんな時間か」
夜遅くになっており
旧校舎の中にいたはずの私達は
校舎裏にただ突っ立っていた。
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