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旧校舎
しおりを挟むゆっくりと廊下を渡る。
そして、黄昏時のぼんやりとした空気の中、私は口を開いた。
「今回どんな感じの怪異なの」
「そーだな、怪異には怪異だけど」
靴箱に着いて、靴を履き替える。
白くて、まだ新品の靴が
オレンジ色に染まっている。
しっかりと履き終えてから
先で待つエレトに追いついた。
「怪異には怪異だけど、なに?」
「まあ、見ればわかるよ」
そんな曖昧に返事するエレト。
不思議に思いつつも、裏校舎に向かうエレトについていく。
「レイはさ」
「…なに?」
「俺がもしあのとき、手伝って欲しいって言わなかったら、手伝ってない?」
横目でこちらを見て
いつもの笑みでそう聞くエレト。
たしかにあの時の言い方的には、私が手伝って"あげてる"ように思えるかもしれない。
でも、私にも、叶えたい願いがある。
それは、私の力で叶うかどうか、とても怪しい
叶えるための努力は、いくらでもしてきた。
何度も願った。
それでも、まだ叶わない。
だから、私にはもうこれしかないんだ。
「私には、もうこれしかない」
「……」
「願いを叶えるために、するしかないから」
「だから、ついていかなきゃいけない」
「…じゃあ、どちらにせよついてきてたんだな」
「そう、私は、エレトと一緒について行かせてもらってる。」
「……そっか」
私は、手伝って"もらってる"側なんだ。
再度見たとき
もうエレトは正面を見ていた。
「…さて、着いたよ」
「……!」
「これって……」
古い木材に苔が生えている。
植物のツタが絡みついて、永く人が寄り付いてないことがよくわかった。
隣にある白く新築な校舎より一回り小さい。
そして、
とても嫌な気配が滲み出ている。
「これは、"取り壊された旧校舎"、だ」
「…嫌な感じがする」
「そりゃそうだよ」
「黄昏時にしか現れないんだから」
黄昏時の旧校舎。
黄昏時とは
夕焼けが沈みかけるとき、この世とあの世の境目が曖昧になってしまう時間。
そんな時に現れる、取り壊されたはずの旧校舎など、どう考えても妖怪やら幽霊やらがいるに決まってる。
「で、その嫌な予感は大当たりで」
「この中にはうーじゃうじゃ幽霊がいらっしゃいます」
「いけるか?」
振り返るようにして、そう聞いてくる。
少しだけ震える手
短刀が、小刻みに揺れる。
この前の、座敷あらしの
目の前まできたロープの残穢が、目の前に映る。
私の首を確実に狙った、ロープの軌道
蛇のようにうねる、ロープの動き
トラウマになりそうな経験を、これまで何度かしてきた。
それでも、やはりまだ慣れない。
でも、でも。
私は、願いを叶えたい。
怖くても。
「……うん、大丈」
顔を上げて、エレトを真っ直ぐに見て
大丈夫だと伝えようとした。
すると
「大丈夫、俺がついてる」
そう言って、手を取られた。
夕日に照らされたエレトの顔が、何か、オーラを放っていた。
「……うん、」
「ありがとう」
「ほら、行こう」
手を引かれて
少しづつ、旧校舎の方に歩み出す。
嫌な気配が大きくなるのを感じながら。
○○○
中に入ると
まるで地獄の雰囲気だった。
「うわ、すげえな」
繋がれた手が解け
エレトが大幣を握る。
同時に、私も短刀を握った。
「悪霊怨霊その他もろもろ大量だな」
「気分悪い……」
「使い方はわかるな?」
「…わかってるよ」
エレトと背中合わせにして、武器を前にする。
背中を取られたら終わり。
襲ってくる霊だけ斬ればいい
あとは、前に進むだけ。
「行くぞ!」
エレトの声を合図に
駆け足で霊が彷徨う夕焼け色の古い廊下を駆けた。
「うわっ……」
壁から
すり抜けてきた顔が原型を留めていない霊が、半身だけ出てきた。
___やばい、反応遅れた
変形した手のようなものが
私の顔の前にくる。
視界が閉ざされていく。
何とか避けようとするが、間に合うか…
「ほっ」
視界が一気に開く
手を切り離された霊の腕が、私の横を掠めた。
……危なかった。
「レイ!斬れ!」
その声に反応して
全身を壁から出した霊の、体を見た。
変形して
腐敗して
まるで2人の人間が1つになったかのような
性別も分からない
とても、直で見れないような体。
短刀を振りかぶる。
その瞬間
刀に霊力があふれて
持つ手がとても熱くなった。
霊の頭に、刀身が触れる。
____「にっかり青江」の短刀
妖魔を祓うと言われる刀剣がエレトの神社で護身用として短くなった武器。
妖怪はもちろん、魑魅魍魎や幽霊を斬り、この世から祓う。
一説では、
「近江国(滋賀県)のとある武士が夜道を歩いていると、どこからともなく若い女(子どもを抱く女とも)が現われ、ニッカリと不気味に笑いながら武士に近づいてきました。
化け物だと直感した武士が一刀のもとに切り裂くと、女はすーっと姿を消しました。
翌朝、そこには首から真っ二つに割れた石塔が転がっていた」とされる刀剣。
______神剣・にっかり青江!
「……!」
脳天から、真っ直ぐに
霊の体を斬り裂いた。
その瞬間
「おぎゃあ、おぎゃあ」
どこからともなく、赤ちゃんの泣き声が聞こえて
「ごめんね、いま、いくよ」
透き通るような
そんな、女の人の声が聞こえた。
そして、斬ったところには
墓石のような、石塔が首から切れて転がっていた。
「…………」
気づけば、周りにいたはずの霊は消えていて
少しだけ、空気が澄んでいた。
「……江戸時代初期くらいから中期まで、ここらへんはお墓だったんだよ」
「多分、それがあって怨霊とか色んな霊が集まるうちに、お墓だった頃にいた霊達がその気に当てられて、悪霊になったんだろうな」
「……お墓、か」
だから、さっきまで空気が悪くて
こんなにも、劣悪なものになってしまったのだろうか。
「……好きで悪霊になるわけじゃ、ないんだね」
「……そうだな」
「………まだ先がある。行くぞ」
また前を見て
すぐに進み出す、エレト。
「…うん」
後ろめたいわけじゃない
後悔してるわけじゃない
けど
こんなにも、哀しくなるのは
なぜなんだろうか。
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