シゴ語り

泡沫の

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シシ語り

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 女子寮近くの空き教室にて。

「ごめんな、一緒にサボって貰っちゃって」
「いや…」

絶対日本史の成績落ちた…。
けど、せっかく見つけた、理解者。
視界の共有者。

だから、離さないわけには、いかなかった。

 空き教室の廊下側の席に座り
隣の窓側に座ってきたチャラ男。
そして、話を始めた。

「俺のことは知ってるよな?」
「…見た目は」
「え、名前は?」
「…ごめん」
「うそだろ、初めて名前忘れられた」

けらけら笑うチャラ男。
でも、私も名前忘れたことは申し訳ないとは思ってる。

だが後悔はしてない。

「俺、神陵恵玲斗。エレトって呼んでくれよ」
「…うん」
「キミは、しし…獅子目麗、ちゃんだよね」
「レイでいい」
「じゃあ、レイ」

「お前、「シシ語り」って知ってる?」

「…シシ語り?」
「まあ、レイはこのへん出身じゃなさそうだし、知らなくて当然か…」

そう言って、座り直すエレト。
薄く笑みを浮かべながらも
真剣な目で、私を見た。

「シシ語りっつうのは、この地域に伝わる都市伝説…みたいな、つまり怪談話。」
「怪談話…」
「44個の怪談話を聞いた人は、呪われるっていう話だ。」
「…ふーん」
「で、だ」

風が吹いた
カーテンが揺れる
2人の髪を踊らせて
涼しい空気を運んできた

エレトが人差し指をたてて
口を開く。

その瞬間、強い風が吹いた。

「俺と、その怪談話を調べてほしい」

エレトの髪が舞う
朝日がエレトを光らせて、神秘的に輝いている。
輝かせている。

「怪談話を聞いて、呪われなかった者は」
「どんな願いでも叶えられるんだよ」
「俺は、その願いをレイにやる」
「一人じゃ無理なんだよ」

立ち上がった、エレト。
目が離せず
逆光になっている姿を見つめた。

手を
差し伸べられる。

「いいか?」
「……」

どんな願いでも。

たとえ
人生のかかった願いでも
叶えられるのなら。

私は
私から
願いたい。

「私からも、お願いしたい」
「…ホントか?」
「願いが、叶えられるのなら。」

たとえ
どんな代償を払ってでも。

「…じゃあ」
「契約成立だな」

そう言って
エレトは

妖艶に笑った。


○○○


 昼休み。

「エレト、日本史教室に置きっぱなしだったんでしょ?」
「多分俺が持ってたからだわ」
「てめぇ何してくれてんだー」

 クラスで騒ぐ人たち。
エレトは、その中の中心人物。

…そんなエレトが
まさか、幽霊が視えたりするなんてな。
 しかも、なんか九尾っぽい妖怪も部屋にいるっぽいし。
こんなこと、誰が想像できるんだろうな。

そんなことを考えながら
食べ終わった購買のパンの袋をゴミ箱に捨てる。

「あ、レイー」
「…!?」

後ろから声が、聞こえた。

あのときのように
勢いよく、振り向いた。
振り向いてしまった。

「今日の夜、俺の部屋に来いよ」
「…え、あ……」

いつも騒がしいと思ってる人たちが
こっちを向いている。
不思議そうに。

エレトと私を交互に見る。
おかしそうに。

「わ、かった…」
「おーう」
「あ、でさ」

何もなかったかのように会話を続けるエレト
騒がしい人たちが、またエレトに向き直る。

…心臓爆発するかと思った。

なにしてるんだよバカ野郎。
意味深に見つめる視線を気づくことなく
私は席に座り直した。


○○○


 その夜
初めて、男子寮に入った。
…なんかちょっと汗臭い気がする
女子寮となんら変わらないのに
どこか雰囲気が違った。
夜だから、というのもあるかもしれない。

 …たしか、エレトの部屋は私の隣…らしいから、入ってすぐ左のはず。
私は、それらしき部屋の前に立った。

ホントに入るんだな、私…

今までこんな経験全く無いから
変に緊張する。
手に汗をかき
余裕が生まれるまで、深呼吸をした。

…よし。

覚悟を決めて
ドアノックをしようとした。

すると

「あれ、レイじゃん」

少し離れたところから
声がした。

「…え、エレト…」
「来たんだな」
「こっちこっち」

2階に上がる階段の前に立っているエレト。
手招きをされて
そのまま、エレトと共に、校舎の廊下を渡った。


〇〇〇


 そして、ついたのは

「…和室?」
「そう、昔は茶道部が使ってたんだとよ」

質素で、何の変哲もない姿をした和室。
でも、扉から
嫌な雰囲気が漂っていた。

「…なんか、いる?」
「うん、いるよ」

まるで当然というように
淡々と答えるエレト。

…わかってはいた。
私がエレトと行動することになったのは
こういった、七不思議のような噂を調べるためなのだから
怪異に会わなきゃいけないことはわかっていた。
でも、やっぱり
少し怖い。

ただでさえ、この地域は嫌な感じの幽霊多いのに
その中の学校の怪異とか、余計に嫌だ。

私がそんな風に感じているのを読んだのか

「大丈夫、そんなに怖くないと思うぞ」

と、私に言ったエレト。
…少しだけ、安心してしまったのは
秘密。

「|《最初は。》」

心の中で、安心してないと言い訳を言っているうちに
エレトは、扉に手をかける。

「じゃあ、開けるぞ」
「…うん」

ガラリ、と開けられた扉
薄目で見ていたのを、少しずつ開く。

…なにもいない。

「…あれ、誰もいな__________」


「なんのごようですか?」


背後から
声がした。



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