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番外編 姫様との馴れ初め話か惚気話を聞かせてください!
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「暇です、皆さん」
とある日の夜。王宮の大広間では絢爛豪華な舞踏会が開かれる中、メイドである私は暇を持て余していた、ので。
「だからって、なんで俺たちが呼ばれなきゃいけないんだ……!俺だって新しいレシピの開発で忙しいんだ!」
「ボクも、新薬作りで忙しい」
「あ、オレは別に今日は忙しくないよ。姫様から直々に護衛を断られちゃったからね」
ドドリーとクロー厶、そしてディラスを厨房に呼んで、4人で仲良く語り合おうと思ったのだ。――残念ながら、ヴェロールは神官長としての色々があるらしく、どうしても行けないと断られてしまった。
「とかなんとか言いつつ、皆さんちゃんと来てくれましたよね。ありがとうございます」
ヴェロールには断られたが、ほかのメンバーは招集に応じてくれた。ツンデレなんだな、この人たちは。
「本当だったら今頃、マカロンの新味開発に勤しんでいる頃だったんだがな……」
「えっ」
「ボクも、姫様の体調良くする新薬、作ってるとこだった」
「あっ……」
「オレも姫様の護衛してる予定だったんだけどなぁ……」
「それは知りません」
ディラスはともかく、ドドリーとクロー厶に関しては本当に申し訳なくなった。
姫様の生死に関わっている薬師のクロー厶を呼んでしまったこと。
そしてドドリー、マカロン様の新味開発しているって……次は何味だろう。この前はトマト味のマカロン様を作って「食べれなくはないけど食べたくない」という、ある意味奇跡のマカロン様をつまみ食……毒味させてくれた。
なんでどうでもいいか。
「そんなに大切な用事があるとも知らず、急にお呼び立てしてしまって申し訳ありませんでした」
いや、マジごめん。忘れてたんだ、クロー厶の重要性とドドリーの有能性を。
「なんてな。俺は特段忙しかったわけじゃないからな、暇つぶしにもなるしちょうど良かったぞ!」
「うん、ボクも。ちょっと、嘘ついちゃった。今は大丈夫、新薬はまだ、作れない」
「そうそう。だから気に病まないでよ、アイリスちゃん」
「ドドリー様、クロー厶様……ありがとうございます」
「あれっ、オレは!?」
一瞬、しんと静まりかえった厨房。
しかし、間が持たなかったのか、ドドリーが最初に口を開いた。
「なぁ、なんで俺らは呼ばれたんだ?舞踏会についていけなくて暇だってのは分かるのだが」
「あぁ、そうでした!わたくしがドドリー様とクロー厶様、ディラス…………様を呼んだ理由、それは……」
再び沈黙が降りる。
「姫様との馴れ初め話か惚気話を聞かせてください!」
「「「……は?」」」
そう、私は攻略対象サマと姫様の馴れ初め……出会いのことを聞きたいんだ!
「さ、まずはドドリー様から」
「お、俺たちはそんなことのために呼ばれたのか……!そもそも、アイリスの期待しているような話はないと思うぞ」
「いいんです、ささ、どうぞどうぞ!」
「…………はぁ、よく分からんが、それでいいなら話してやろう」
そう言って始まったのは、姫様が8歳の頃の話だった。
◇◆◇
「俺が姫様と出会ったのは8年前……姫様が10歳の時だった。
「俺は……15歳だったか。俺は姫様の5個上なんだ。
「その時の俺は料理長ではなく、ただの料理人だった。
「そんな俺のもとに、姫様はやってきた。俺はその時からデザートを作るのが好きだったから、その噂でも聞きつけたんだろうな。
「『わたし、母上と父上にお菓子を作ってあげたいの。でも作り方が分からないわ。だからドドリー、お菓子の作り方を教えてくださらないかしら?』……姫様は確か、そう言ってたはずだ。
「断ることもできないからな、快く引き受けたのだが……ここで問題がひとつあった。
「あの時の姫様は料理ができなかった……いや壊滅的なまでに料理ができなかったんだ。
「クッキーを焼けば真っ黒焦げになり、ケーキを焼けばスポンジがカリッカリになる。……な?今の姫様からは想像できないだろ、そんな姿。
「とにかく、その時の姫様は料理ができなかった。何度かやり直したが、一向に上手くできなかった。
「だから、俺が作りましょうか、と提案したんだ。そうしたら姫様、なんて言ったと思う?
「『わたし自身が作らなければ、それはわたしからの贈り物だと言えないわ。だからわたしは諦めないわ。成功するまでやるつもりよ。迷惑だと言うのなら他を当たるわ。面倒だと思うのなら、もう手伝わなくてもいいわ』ってね。……カッコイイだろ?
「だから俺は、姫様に一生ついていこうと思った。姫様なら、きっと平和で、皆が笑顔でいられる国をつくってくれるだろうと、そう思ったんだ。
「……これが、俺と姫様の出会いの話だ」
◇◆◇
「ブラボーーーーーーー!」
ドドリーが話を締めくくるなり、私は勢いよく席から立ち上がり、盛大な拍手をした。
「「「…………は?」」」
「なんて素晴らしい話なの……!そうとは知っていたけど、本人から聞く馴れ初め話は最高だったわ……」
「「「…………えっと?」」」
「あら失礼、少しばかり取り乱してしまいましたわ。要するに、とても良い話だったということです。ありがとうございました」
「い、いや……うん、アイリスが満足したならそれでいい……」
思い切り引いている様子を見せながらも、ドドリーはかろうじて笑み(ただしとても苦い)を浮かべていた。すまんな、これが私なんだ。
「さ、次はクロー厶様ですか?どうぞ!」
「……やっぱり、ボクもなんだね」
普段ならピクリとも動かないクロー厶の表情が、わずかに顰められた。珍しい。
「…………ボクの話も、面白みないと思うけど」
そう言いながら、クロー厶も話し出した。
◇◆◇
「ボクは5年前……ボクが10歳で、姫様が13歳の時、姫様と会った。
「ボクはちょうどその年、王宮薬剤師になった。
「みんな匙を投げた姫様の体質、ボクが治せるか試してみよう、ってなった。
「初めて会った時も、姫様の体調は悪かった。青白い顔で、ボクを見た。その時、ボクは言われたんだ。
「『あなた……クロールだったかしら。史上最年少で王宮薬剤師になったと噂になっているわ。でも、そんなあなたにも、わたしは治せないかもしれない。だからその時は潔く諦めていいわ。他の王宮薬剤師たちのように』って。
「みんなは、姫様の体調を悪化させないことしか、できなかった。改善、できなかったんだ。
「そんなこと言われて、じゃあ諦めます、なんて、できなかった。
「だから頑張って、姫様の体調を、ちょっとだけ良くできる薬、作った。
「それを姫様のところに持っていって、飲んでもらった。そしたら、『今まで飲んだ中で1番不味いわ。でもその分、わたしもすぐ良くなりそうね。良い薬は苦く感じるって言うもの。……ありがとう、クロール』って言って、色が悪いその顔で、ちょっと笑った。
「その時の姫様、すごくすごく、カッコよかった。今でも覚えてる。
「……それからしばらくすると、姫様の体調が良くなってきた。それで、姫様の虚弱体質は、もうほとんど無くなった。
「今でもたまに目眩とか、あるみたい。だけど、薬を飲めば大丈夫って言ってた。
「……ボク、姫様と出会えて良かった。そう、思ってるんだ」
◇◆◇
「いやあぁぁぁぁぁ最高ですうぅぅぅぅぅ!」
「……なんかもう、2度目ともなれば慣れてきたぞ」
「ボクも」
「オレも。……もしかしてこの流れ、オレも話さなきゃいけないのかな」
「さすがです、ディラス様。察しが早くて助かります」
「……しょうがないなぁ、オレも姫様との出会いの話を……」
「えっ、ディラス様は惚気話でしょう?」
「……え?」
「確かに、ディラスは姫様と婚約してるからな」
「……ちょっとボクも気になる、かも」
「と言っていますし!さあディラス様、存分に惚気てくださいませ!」
「……はぁ、もう帰りたい……」
渋々ながらも、ディラスは語り始めた。
◇◆◇
「んー、惚気話って言ってもそんなにないんだけど……あ、花祭りの話とかどう?
「花祭りより前からオレは姫様のことが好きだったんだけど、でもオレって護衛騎士じゃん。そんなこと許されないと思って、これから先ずっと、この気持ちを隠して生きていこうと決意してたんだ。
「ある日突然、姫様がやけにオレに話しかけるようになって、正直焦った。姫様があまりにも必死にオレの気を惹こうとしてたもんだからさ、オレも好きですって言っちゃいそうでさ。だからオレは、気持ちを隠すのが大変だった。
「でも姫様は、そんなオレの決意とか努力を、見事に切り捨ててくれた。
「花祭りの時、姫様はオレに胡蝶蘭をくれたんだ。花言葉は、『あなたを愛している』だった。
「真っ赤な顔して渡してくれた姫様の顔、本っ当に可愛かったんだよね。
「ちょっとアイリスちゃん、惚気ろって言われたから言ったのに、なんでそんな冷たい目向けてくんのさ。
「あ、オレはマーガレット渡したんだ。花言葉は確か、『心に秘めた愛』だったかな。
「……で、姫様からそんな花もらって「そうですか」なんてできないじゃん。だから「オレも好きです」って返事して。
「それから話はサクサク進んだ。
「姫様が国王にオレのことを話して、婚約を認めてもらって、婚約して。それで今に至るって感じかな」
◇◆◇
「あ…………あま~~~~~い!」
「そのパターンは初めてだな……」
「だね」
「あー……恥ずかし」
「いやいやいやいや!ディラス様の照れ顔はどうでもいいんですけど、話は素晴らしかったです!姫様の可愛いお顔が浮かびますわ……!」
花祭りの結果は上々だと知ってはいたが、そんな話だったのか。姫様に聞いても教えてくださらなかったから、ディラスに聞けて良かった。……あー、可愛い。
「皆様、ありがとうございました。とても幸せなひと時でした」
「あ、あぁ……」
「……どういたしまして」
「アイリスちゃんって変わり者だよね……」
「お褒めに預かり光栄です。……あ、そろそろ舞踏会が終わる頃ですね。本当にありがとうございました!わたくしは姫様のもとへ向かいます!」
「あっ、待ってオレも」
「お断り致します!待っててくださいませ姫様、今お迎えに参りますわ……!」
暇つぶしにしては随分濃い時間だった。
攻略対象サマと姫様の出会い、そして惚気の話を聞けて私は幸せだ。
とある日の夜。王宮の大広間では絢爛豪華な舞踏会が開かれる中、メイドである私は暇を持て余していた、ので。
「だからって、なんで俺たちが呼ばれなきゃいけないんだ……!俺だって新しいレシピの開発で忙しいんだ!」
「ボクも、新薬作りで忙しい」
「あ、オレは別に今日は忙しくないよ。姫様から直々に護衛を断られちゃったからね」
ドドリーとクロー厶、そしてディラスを厨房に呼んで、4人で仲良く語り合おうと思ったのだ。――残念ながら、ヴェロールは神官長としての色々があるらしく、どうしても行けないと断られてしまった。
「とかなんとか言いつつ、皆さんちゃんと来てくれましたよね。ありがとうございます」
ヴェロールには断られたが、ほかのメンバーは招集に応じてくれた。ツンデレなんだな、この人たちは。
「本当だったら今頃、マカロンの新味開発に勤しんでいる頃だったんだがな……」
「えっ」
「ボクも、姫様の体調良くする新薬、作ってるとこだった」
「あっ……」
「オレも姫様の護衛してる予定だったんだけどなぁ……」
「それは知りません」
ディラスはともかく、ドドリーとクロー厶に関しては本当に申し訳なくなった。
姫様の生死に関わっている薬師のクロー厶を呼んでしまったこと。
そしてドドリー、マカロン様の新味開発しているって……次は何味だろう。この前はトマト味のマカロン様を作って「食べれなくはないけど食べたくない」という、ある意味奇跡のマカロン様をつまみ食……毒味させてくれた。
なんでどうでもいいか。
「そんなに大切な用事があるとも知らず、急にお呼び立てしてしまって申し訳ありませんでした」
いや、マジごめん。忘れてたんだ、クロー厶の重要性とドドリーの有能性を。
「なんてな。俺は特段忙しかったわけじゃないからな、暇つぶしにもなるしちょうど良かったぞ!」
「うん、ボクも。ちょっと、嘘ついちゃった。今は大丈夫、新薬はまだ、作れない」
「そうそう。だから気に病まないでよ、アイリスちゃん」
「ドドリー様、クロー厶様……ありがとうございます」
「あれっ、オレは!?」
一瞬、しんと静まりかえった厨房。
しかし、間が持たなかったのか、ドドリーが最初に口を開いた。
「なぁ、なんで俺らは呼ばれたんだ?舞踏会についていけなくて暇だってのは分かるのだが」
「あぁ、そうでした!わたくしがドドリー様とクロー厶様、ディラス…………様を呼んだ理由、それは……」
再び沈黙が降りる。
「姫様との馴れ初め話か惚気話を聞かせてください!」
「「「……は?」」」
そう、私は攻略対象サマと姫様の馴れ初め……出会いのことを聞きたいんだ!
「さ、まずはドドリー様から」
「お、俺たちはそんなことのために呼ばれたのか……!そもそも、アイリスの期待しているような話はないと思うぞ」
「いいんです、ささ、どうぞどうぞ!」
「…………はぁ、よく分からんが、それでいいなら話してやろう」
そう言って始まったのは、姫様が8歳の頃の話だった。
◇◆◇
「俺が姫様と出会ったのは8年前……姫様が10歳の時だった。
「俺は……15歳だったか。俺は姫様の5個上なんだ。
「その時の俺は料理長ではなく、ただの料理人だった。
「そんな俺のもとに、姫様はやってきた。俺はその時からデザートを作るのが好きだったから、その噂でも聞きつけたんだろうな。
「『わたし、母上と父上にお菓子を作ってあげたいの。でも作り方が分からないわ。だからドドリー、お菓子の作り方を教えてくださらないかしら?』……姫様は確か、そう言ってたはずだ。
「断ることもできないからな、快く引き受けたのだが……ここで問題がひとつあった。
「あの時の姫様は料理ができなかった……いや壊滅的なまでに料理ができなかったんだ。
「クッキーを焼けば真っ黒焦げになり、ケーキを焼けばスポンジがカリッカリになる。……な?今の姫様からは想像できないだろ、そんな姿。
「とにかく、その時の姫様は料理ができなかった。何度かやり直したが、一向に上手くできなかった。
「だから、俺が作りましょうか、と提案したんだ。そうしたら姫様、なんて言ったと思う?
「『わたし自身が作らなければ、それはわたしからの贈り物だと言えないわ。だからわたしは諦めないわ。成功するまでやるつもりよ。迷惑だと言うのなら他を当たるわ。面倒だと思うのなら、もう手伝わなくてもいいわ』ってね。……カッコイイだろ?
「だから俺は、姫様に一生ついていこうと思った。姫様なら、きっと平和で、皆が笑顔でいられる国をつくってくれるだろうと、そう思ったんだ。
「……これが、俺と姫様の出会いの話だ」
◇◆◇
「ブラボーーーーーーー!」
ドドリーが話を締めくくるなり、私は勢いよく席から立ち上がり、盛大な拍手をした。
「「「…………は?」」」
「なんて素晴らしい話なの……!そうとは知っていたけど、本人から聞く馴れ初め話は最高だったわ……」
「「「…………えっと?」」」
「あら失礼、少しばかり取り乱してしまいましたわ。要するに、とても良い話だったということです。ありがとうございました」
「い、いや……うん、アイリスが満足したならそれでいい……」
思い切り引いている様子を見せながらも、ドドリーはかろうじて笑み(ただしとても苦い)を浮かべていた。すまんな、これが私なんだ。
「さ、次はクロー厶様ですか?どうぞ!」
「……やっぱり、ボクもなんだね」
普段ならピクリとも動かないクロー厶の表情が、わずかに顰められた。珍しい。
「…………ボクの話も、面白みないと思うけど」
そう言いながら、クロー厶も話し出した。
◇◆◇
「ボクは5年前……ボクが10歳で、姫様が13歳の時、姫様と会った。
「ボクはちょうどその年、王宮薬剤師になった。
「みんな匙を投げた姫様の体質、ボクが治せるか試してみよう、ってなった。
「初めて会った時も、姫様の体調は悪かった。青白い顔で、ボクを見た。その時、ボクは言われたんだ。
「『あなた……クロールだったかしら。史上最年少で王宮薬剤師になったと噂になっているわ。でも、そんなあなたにも、わたしは治せないかもしれない。だからその時は潔く諦めていいわ。他の王宮薬剤師たちのように』って。
「みんなは、姫様の体調を悪化させないことしか、できなかった。改善、できなかったんだ。
「そんなこと言われて、じゃあ諦めます、なんて、できなかった。
「だから頑張って、姫様の体調を、ちょっとだけ良くできる薬、作った。
「それを姫様のところに持っていって、飲んでもらった。そしたら、『今まで飲んだ中で1番不味いわ。でもその分、わたしもすぐ良くなりそうね。良い薬は苦く感じるって言うもの。……ありがとう、クロール』って言って、色が悪いその顔で、ちょっと笑った。
「その時の姫様、すごくすごく、カッコよかった。今でも覚えてる。
「……それからしばらくすると、姫様の体調が良くなってきた。それで、姫様の虚弱体質は、もうほとんど無くなった。
「今でもたまに目眩とか、あるみたい。だけど、薬を飲めば大丈夫って言ってた。
「……ボク、姫様と出会えて良かった。そう、思ってるんだ」
◇◆◇
「いやあぁぁぁぁぁ最高ですうぅぅぅぅぅ!」
「……なんかもう、2度目ともなれば慣れてきたぞ」
「ボクも」
「オレも。……もしかしてこの流れ、オレも話さなきゃいけないのかな」
「さすがです、ディラス様。察しが早くて助かります」
「……しょうがないなぁ、オレも姫様との出会いの話を……」
「えっ、ディラス様は惚気話でしょう?」
「……え?」
「確かに、ディラスは姫様と婚約してるからな」
「……ちょっとボクも気になる、かも」
「と言っていますし!さあディラス様、存分に惚気てくださいませ!」
「……はぁ、もう帰りたい……」
渋々ながらも、ディラスは語り始めた。
◇◆◇
「んー、惚気話って言ってもそんなにないんだけど……あ、花祭りの話とかどう?
「花祭りより前からオレは姫様のことが好きだったんだけど、でもオレって護衛騎士じゃん。そんなこと許されないと思って、これから先ずっと、この気持ちを隠して生きていこうと決意してたんだ。
「ある日突然、姫様がやけにオレに話しかけるようになって、正直焦った。姫様があまりにも必死にオレの気を惹こうとしてたもんだからさ、オレも好きですって言っちゃいそうでさ。だからオレは、気持ちを隠すのが大変だった。
「でも姫様は、そんなオレの決意とか努力を、見事に切り捨ててくれた。
「花祭りの時、姫様はオレに胡蝶蘭をくれたんだ。花言葉は、『あなたを愛している』だった。
「真っ赤な顔して渡してくれた姫様の顔、本っ当に可愛かったんだよね。
「ちょっとアイリスちゃん、惚気ろって言われたから言ったのに、なんでそんな冷たい目向けてくんのさ。
「あ、オレはマーガレット渡したんだ。花言葉は確か、『心に秘めた愛』だったかな。
「……で、姫様からそんな花もらって「そうですか」なんてできないじゃん。だから「オレも好きです」って返事して。
「それから話はサクサク進んだ。
「姫様が国王にオレのことを話して、婚約を認めてもらって、婚約して。それで今に至るって感じかな」
◇◆◇
「あ…………あま~~~~~い!」
「そのパターンは初めてだな……」
「だね」
「あー……恥ずかし」
「いやいやいやいや!ディラス様の照れ顔はどうでもいいんですけど、話は素晴らしかったです!姫様の可愛いお顔が浮かびますわ……!」
花祭りの結果は上々だと知ってはいたが、そんな話だったのか。姫様に聞いても教えてくださらなかったから、ディラスに聞けて良かった。……あー、可愛い。
「皆様、ありがとうございました。とても幸せなひと時でした」
「あ、あぁ……」
「……どういたしまして」
「アイリスちゃんって変わり者だよね……」
「お褒めに預かり光栄です。……あ、そろそろ舞踏会が終わる頃ですね。本当にありがとうございました!わたくしは姫様のもとへ向かいます!」
「あっ、待ってオレも」
「お断り致します!待っててくださいませ姫様、今お迎えに参りますわ……!」
暇つぶしにしては随分濃い時間だった。
攻略対象サマと姫様の出会い、そして惚気の話を聞けて私は幸せだ。
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