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後悔 (攻め視点)

後悔 5

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  食べて、寝て。食べて、寝て。
  
  気力のない毎日を送る。毎日エルの夢を見る。エルが私に笑いかける。抱きついてくれる。ありえないことだと分かっていても、この夢を一生見ていたかった。
  

  
 私が廃人になって数日した頃、使用人の1人が、1冊のノートらしきものを持ってきた。
 エルの遺品を整理していたところ、出てきたもので、毎日書いている日記のようらしい。私はそれに飛びかかる。ボロボロになっていたが、中身は辛うじて読める。初めのページを破らないように、ゆっくりとめくる。




  

  ーーー6月10日
  
  
  きょうは、そとであそべない。おとうさまがだめだって。


 ーーー6月12日
  

  ぼくのしんぞうはよわいのだって。おいしゃさまがいってた。


 ーーー7月10日
  
 きょうはそとで すこしあそべた。おにいさまは、べんきょうよりも たんれん をしたいっておっしゃってた。

   

  これはエルの小さい頃の日記だ。拙い字で書かれている。この頃、エルは体が弱かったのか?心臓に疾患でもあったのか?私はそんなエルの過去を知らなかったばかりにショックを受ける。私には、ショックを受ける権利すらないというのに。日記に視線を落とす。エルの事をもっと知りたい。
  
  何年か日記を書かなかったのだろう日付が一気に飛んで、字も綺麗になっている。
  

 ーーー 12月9日
 
 手術を受けて4年が経った。手術の費用の殆どをマドーゼル公爵が出してくださった。お父様と公爵様は親友で今回の僕の病気のことも聞いて、費用を出したいと申し出てくださったそう。公爵様には感謝してもしきれないーーー
 

 ふと、1つの名前に意識がいき、ページをめくる手を止める。   

 "マドーゼル公爵"?

 父とワーズベル家には昔から交流があったのか?
 
どういうことだ?

疑問が頭の中を止めどなく回る。

 過去を思い出そうとして、ズキン と頭が痛む。 

私の、小さかった頃の記憶は曖昧だ。忘れてしまいたいことばかりの幼少期は本能でその記憶を閉ざした。二度と思い出してしまわないように。
 
ズキズキと痛む頭を抑えながら、必死で日記をめくる。何か、大事な事がここに書かれているような気がして。

 
ーーー12月10日
 
  今日は、マドーゼル公爵の嫡男、"レイン様"がお見舞いにお越しになった。レイン様とはそんなに年は離れていないはずなのに、すごく落ち着いていて、僕とはかけ離れた存在だった。

 
ーーー12月11日

  今日もレイン様が来てくださった。お兄様以外の子供と話したことがなく、レイン様との会話は、すごく楽しくて、面白くて、ずっと続けばいいと思ってしまった。


ーーー12月12日
 
 レイン様が毎日来て下さる!!

ーーー12月13日
  
 レイン様と遊んだ!
 
ーーー12月20日
 
 レイン様大好き!!
 
ーーー1月24日
   
 レイン様に「愛してる」って囁かれちゃった!!
 僕も愛してる!

  1月30日レイン様とーーー
  2月20日レイン様がーーー
 3月10日レイン様にーーー



  日記をめくる。1文字も見逃さないように。

心臓が早鐘を打つ。額に汗が滲む。日記を持っている腕が震える。
 
忘れ去ってしまった過去を、思い出を、忘れてはいけない大切な思い出を。鎖をつけた思い出を。必死で繰り寄せるーーーー



 1つ1つ繋がってゆく。エルの過去が、私と過ごしたかけがえのない想い出が。



 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
 
 痛む頭を抑える。

 エルは、どんなことを思って、この家に、私に嫁いできたのだろう。
 
エルはどんな思いで、1人の夜を過ごしたのだろう。
 

キリのないことばかり考える。
 
後悔が延々と私を苦しめる。
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