山姫~鬼無里村異聞~

采女

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第五章 浪人と剣術

第051話 強さとは

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 鬼助がうつむき加減で歩くその様子から、新右衛門は何かを感じ取った。
「人を斬るのは刀ではなく心だ。刀を差したからとて、己が強くなるわけではないぞ」
「じゃあどうしたら強くなれますか?どうしたら人から馬鹿にされないで済みますか?」
「……」

 今度は新右衛門が沈黙した。
 問いかけに答えられなかったからではない。
 この少年の心にある苦しみを見抜いたからである。
 その苦しみを知って、自らは何をするのが最善か、新右衛門は考えた。やがて、

「そなた、剣の修業をしてみるつもりはないか?」
「剣の修業?教えてくれるのですか?」
「先を急ぐ旅でなし、そなたさえ望むのならばしばしこの寺に滞在して剣術を教えて進ぜよう。ゆっくりとここに居られるのならば、拙者にも何かと都合がいいからな」

 新右衛門は相変わらず明朗な調子で、深く考えもせず発言しているように見える。
 どうあれ鬼助の気持ちとしては、すぐにでも新右衛門の提案を受け入れたかった。
 だが一つ心配なことがある。
 それは、久安が剣の修業を快く思わないのではないか、という懸念である。

 この時代、百姓であっても、剣術の稽古をすること自体は珍しいことではなかった。
 特に鬼無里の里では、割元である喜左衛門自身が新当流の達人なこともあって、村人に請われて剣術の稽古をすることがあった。

 だが以前、克林が自分も喜左衛門に剣を習いたいと久安に申し出た時には、寺の小僧が剣術などとはけしからんと一喝されたのを、鬼助は覚えている。
 一方でその時、鬼助に向かっては、
「おまえは喜左衛門様のところで習いたいとは思わんのか?」
 と、水を向けたのだった。

 その時は、村の子供たちと一緒に習うのが嫌で断ったが、鬼助の心の中には、剣術を学んでみたいという気持ちはずっとあり続けていた。
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