山姫~鬼無里村異聞~

采女

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第三章 紅葉伝説

第037話 貴女紅葉

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 鬼無里の村には今でも内裏屋敷跡があって、呉羽が愛でたという根上がりの紅葉も残されている。
 西京にしきょう東京ひがしきょうという地区や、洛中洛外にちなんだ三条、四条、五条、吉田、高尾、清水といった地名も残っている。
 それを思えば、五郎兵衛の語った話は、単なる言い伝えとも思えない。

「鬼無里の紅葉は優しい人なんだねえ。そんなら、おらも一度でいいから会ってみてえなあ」
 と、鬼助は正直な思いを口に出した。

 確かに鬼助の感じた通り、この鬼無里では、紅葉は鬼女ではなく、村に繁栄をもたらす貴女であり山姫とされている。

 それに紅葉には不思議な霊力があって、村人に何か困難が訪れた時、紅葉を山の神として一心に祈らば、必ず霊験ありと言われていた。

 いくらか安堵したような鬼助の姿を、五郎兵衛は横目でチラリと見てから、
「紅葉に不思議な力があるなんてのは迷信に過ぎん。だから山で白髪の女を見ただなんて誰にも言っちゃならんぞ。鬼にしろ山の神にしろ、紅葉を見たなんて噂が広まれば、野次馬が山に入ってこないとも限らん。そんな連中、おれは断じて許さんからな」
 と、強い口調で言った。

 木を扱うことを生業なりわいとしている五郎兵衛にとっては、山を荒らされたくないというのが本音だろう。
 鬼助としては、目撃した鬼女について誰彼構わず話したい気持ちがあったが、五郎兵衛の気持ちを尊重して、己の胸にしまっておくことにした。

 それにしても、いつもは無口な五郎兵衛が、紅葉のこととなると随分口数が増えるのが、鬼助には少し意外だった。
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