死にたがりの少女 〜 夕空を見上げる

あらき恵実

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泣いている夕月

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〝わかるよ〟

レンは、包帯が巻かれた私の腕を眺めながら、
〝リコの気持ち、たぶんわかるよ〟
と言った。

言葉にできなくて、うまく吐き出せない気持ちを、レンが優しく受け止めてくれた。
そんな感じがした。

〝俺も、たぶん同じ気持ちを知ってると思う〟

その言葉はうわべではないと、皮膚感覚でわかった。

私は、彼と前世では双子だったんじゃないだろうか。

やっと共感できる相手を見つけた。
心の一部を預けられる人を見つけた。
そんな気持ちがして、心が軽くなった。それに、緊張がほぐれて体まで楽になった気がした。

不安な時、気持ちが落ち込んでいる時、私は、無意識に浅い呼吸をしてしまう。
だけど、〝レンが私の気持ちを分かってくれる〟と思うだけで、私は深く息が吸えるようになった。酸素の薄い部屋から外へ出られたような気分だった。

そんなわけで、私はレンと親しくなって気持ちも体も楽になった。
だけど、レンは私と親しくなるほど、余計に病んでいくみたいにみえた。

その様子は、まるでズブズブと沼にはまっていくみたいだった。

レンは私に過去の話をたくさんしたがった。
頭の奥にある秘密の扉を開いて、中から次々と、薄れかけていた悲しい思い出を取り出すみたいだった。 
取り出すたびに、レンの過去は色鮮やかになり、レンは苦しくて涙を流したり、うめいたりした。
もう話すのをやめようと言っても、レンは頭の奥から過去を掘り起こし続けた。

レンは最近、眠れない日が増えた。
思いだした過去に気持ちを大きく揺さぶられているようだった。あんまり苦しくて、夜中にワアワアと大声をあげながらベッドの上で身悶えしている日もあった。
そういう日は、看護師さんに鎮静剤をうたれたり、眠剤をのまされたりしていた。

私のせいだろうか。

私がそばにいると、
レンは過去に浸りすぎてしまう。

私の存在がレンを苦しめているのだろうか。

やっと、苦しみを共有できる人を見つけたと思ったのに。

七月下旬。
私は、レンとの距離感をうまくはかれずにいた。

病室の窓の外をみると、夕方の月が空にひっかかっていた。
レンに会いたい気持ちが、宙ぶらりんで空にひっかかっているみたいだった。

空は青と紺色の間の、静かな色をしていた。
もう少しで夜が訪れる。

遠くから電車が走ってくる音がした。
学校や職場から家に帰る人を乗せて、ガタゴトと病院のそばの線路を走り抜けていく。
そして、夕闇の街に消えて行く。

窓辺に立って、だんだんと濃くなっていく夕闇を眺める。
夜が近づくほど、孤独をくっきりと感じるのはなぜだろう。

レンに会いたい気持ちが、胸の中でふくらむ。

大事な人。
そばにいたい人。
だけど、そばにいたら苦しめてしまう人。

夕月がひっそりと夜空にひっかかっている。
さみしくて、夜空で泣いているみたいに見えた。

続く~


















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