40 / 41
40話 戻ってきて
しおりを挟む
「祐嗣くん、大丈夫かい?」
叔父さんの声が聞こえる。
あれ? まだ病院だったっけ、未来に戻ったんじゃなかったっけ。頭がぼんやりしてるけど、体に痛みがないことで、はっと気がついた。
かばっといきおいよく体を起こすと、
「うっ」
頭がくらくらして、視界が歪んだ。
「目をつむって、じっとして」
叔父さんに言われたとおりにすると、徐々に頭が落ち着いてきた。
瞼を開けると、歪みも治まっていた。
「おかえり。丸一日眠っていたからね、無理はしちゃいけないよ」
「丸一日も?」
自分のじゃないみたいに声ががさがさしていた。
「水をゆっくり飲んで」
キャップを外したペットボトルを渡されて、口に含む。口の中が湿ったおかげで、生き返ったような気がした。
「円花さんは?」
周囲に透けた円花さんはいない。
「一緒に過去に戻ったと言っていたね」
「うん。一緒に戻って、一緒に帰ってきた」
夢を見ていたような心地があって、現実感はない。
「事故をなくしたのなら、自分の体に戻れているんじゃないかと思うけど、確認するのは、祐嗣くんの体が元気になってからにしよう。気にはなるだろうけど、君も無理をしたんだよ。なかなか戻らないから、心配した」
「時間の感覚がないから、わからなかった」
「叔父さん、寝ずに見守ってたのよ」
叔母さんに言われて、叔父さんの顔を見る。
「そうなの? ごめん」
「力のことを教えたのは僕だからね、責任があるから」
叔父さんは疲れているのか目をしょぼしょぼさせている。目の下にはクマがあった。
「ありがとう」
「気にするな。これから少し寝るよ。祐嗣くんも、軽く食事をして、眠ったほうがいい」
そう言って叔父さんは欠伸をした。
「サンドイッチを作っておいたから、食べられそう?」
叔母さんが優しく声をかけてくれる。
「食べます」
「持ってくるわね」
布団から出ることなく、叔母さんが持ってきてくれたサンドイッチをすべて食べ、僕は昼まで眠った。
仮眠をとって起きてきた叔父さん叔母さんと、昼食をとりながら話をした。
僕は3月末に、殴り合いのケンカをして鼻骨骨折と体の打撲で一週間入院した。
その時に話した内容も、叔父さんは覚えていた。
突然、湧き出るように記憶に表れたらしい。
叔母さんには寝て起きたら、その記憶があった。
変わったのはそれだけ。
今現在の僕に、手術の記憶はない。入院直後の叔父さんと話しをしたのと、痛みがあったことぐらい。
「ゆっくりと思い出すんだじゃないかな。記憶の融合って言っていいのかわからないけど」
過去でも同じようなことを言っていたなと、すぐに思い出した。
見守ってくれていた叔父さんにお礼を言って、僕は電車で帰った。
スマホで円花さんの事故の記事を調べた。該当記事は見つからず、その後も交通事故は起きていなかった。
最寄り駅を降りてから、まっすぐ帰らずに、僕はある場所に立ち寄った。
一か所目は谷恭也の自宅。過去に行ったままの場所にあった。
殴り合ったあと、恭也はどうなったんだろうか。
叔父さんいわく、被害届は出さなかったらしい。だから今までの生活をしていると思う。
谷恭也には怒りの気持ちがまだあるけど、僕らが食い止めたことで、円花さんへのストーカー被害は出ていないはず。それなら逮捕はしてもらえない。
恭也のせいで円花さんは怖い思いをしたけど、事故は食い止めた。要注意人物だとは思うけど、現状ではどうすることもできない。
もう二度と円花さんに近寄らないように、願うしかない。
次に、円花さんが入院していた病院に行った。
あの交通事故はなくなったけれど、別の何かがあって入院していないか、確認がしたかった。
円花さんが使っていた部屋に向かうと、知らない名前が書いてあった。
ほっとした。ここに、円花さんはいない。
最後に、円花さんのマンションに行った。未来に戻るために一度だけ訪れた。三階建てのオートロックマンション。円花さんの部屋は最上階だった。
あれから、どう過ごしているんだろう。
僕には、円花さんと過ごした記憶がある。
最初に円花さんを拒絶してしまったことや、体育館でのダンスに惹かれたこと。街を歩き回って記憶を探し、料理、ヘアカットのアドバイス、そして、水族館デート。
過去に戻った時の記憶もしっかりとある。
一カ月ちょっとの記憶が、消えずに残っている。
でも、入院中の記憶がない。かつて過ごした記憶の方がある。
円花さんの記憶がどうなっているのかわからない。残っているといいな。
僕はインターフォンを押すことなく、マンションに背を向けた。
次回⇒41話 円花さんのいない日々
叔父さんの声が聞こえる。
あれ? まだ病院だったっけ、未来に戻ったんじゃなかったっけ。頭がぼんやりしてるけど、体に痛みがないことで、はっと気がついた。
かばっといきおいよく体を起こすと、
「うっ」
頭がくらくらして、視界が歪んだ。
「目をつむって、じっとして」
叔父さんに言われたとおりにすると、徐々に頭が落ち着いてきた。
瞼を開けると、歪みも治まっていた。
「おかえり。丸一日眠っていたからね、無理はしちゃいけないよ」
「丸一日も?」
自分のじゃないみたいに声ががさがさしていた。
「水をゆっくり飲んで」
キャップを外したペットボトルを渡されて、口に含む。口の中が湿ったおかげで、生き返ったような気がした。
「円花さんは?」
周囲に透けた円花さんはいない。
「一緒に過去に戻ったと言っていたね」
「うん。一緒に戻って、一緒に帰ってきた」
夢を見ていたような心地があって、現実感はない。
「事故をなくしたのなら、自分の体に戻れているんじゃないかと思うけど、確認するのは、祐嗣くんの体が元気になってからにしよう。気にはなるだろうけど、君も無理をしたんだよ。なかなか戻らないから、心配した」
「時間の感覚がないから、わからなかった」
「叔父さん、寝ずに見守ってたのよ」
叔母さんに言われて、叔父さんの顔を見る。
「そうなの? ごめん」
「力のことを教えたのは僕だからね、責任があるから」
叔父さんは疲れているのか目をしょぼしょぼさせている。目の下にはクマがあった。
「ありがとう」
「気にするな。これから少し寝るよ。祐嗣くんも、軽く食事をして、眠ったほうがいい」
そう言って叔父さんは欠伸をした。
「サンドイッチを作っておいたから、食べられそう?」
叔母さんが優しく声をかけてくれる。
「食べます」
「持ってくるわね」
布団から出ることなく、叔母さんが持ってきてくれたサンドイッチをすべて食べ、僕は昼まで眠った。
仮眠をとって起きてきた叔父さん叔母さんと、昼食をとりながら話をした。
僕は3月末に、殴り合いのケンカをして鼻骨骨折と体の打撲で一週間入院した。
その時に話した内容も、叔父さんは覚えていた。
突然、湧き出るように記憶に表れたらしい。
叔母さんには寝て起きたら、その記憶があった。
変わったのはそれだけ。
今現在の僕に、手術の記憶はない。入院直後の叔父さんと話しをしたのと、痛みがあったことぐらい。
「ゆっくりと思い出すんだじゃないかな。記憶の融合って言っていいのかわからないけど」
過去でも同じようなことを言っていたなと、すぐに思い出した。
見守ってくれていた叔父さんにお礼を言って、僕は電車で帰った。
スマホで円花さんの事故の記事を調べた。該当記事は見つからず、その後も交通事故は起きていなかった。
最寄り駅を降りてから、まっすぐ帰らずに、僕はある場所に立ち寄った。
一か所目は谷恭也の自宅。過去に行ったままの場所にあった。
殴り合ったあと、恭也はどうなったんだろうか。
叔父さんいわく、被害届は出さなかったらしい。だから今までの生活をしていると思う。
谷恭也には怒りの気持ちがまだあるけど、僕らが食い止めたことで、円花さんへのストーカー被害は出ていないはず。それなら逮捕はしてもらえない。
恭也のせいで円花さんは怖い思いをしたけど、事故は食い止めた。要注意人物だとは思うけど、現状ではどうすることもできない。
もう二度と円花さんに近寄らないように、願うしかない。
次に、円花さんが入院していた病院に行った。
あの交通事故はなくなったけれど、別の何かがあって入院していないか、確認がしたかった。
円花さんが使っていた部屋に向かうと、知らない名前が書いてあった。
ほっとした。ここに、円花さんはいない。
最後に、円花さんのマンションに行った。未来に戻るために一度だけ訪れた。三階建てのオートロックマンション。円花さんの部屋は最上階だった。
あれから、どう過ごしているんだろう。
僕には、円花さんと過ごした記憶がある。
最初に円花さんを拒絶してしまったことや、体育館でのダンスに惹かれたこと。街を歩き回って記憶を探し、料理、ヘアカットのアドバイス、そして、水族館デート。
過去に戻った時の記憶もしっかりとある。
一カ月ちょっとの記憶が、消えずに残っている。
でも、入院中の記憶がない。かつて過ごした記憶の方がある。
円花さんの記憶がどうなっているのかわからない。残っているといいな。
僕はインターフォンを押すことなく、マンションに背を向けた。
次回⇒41話 円花さんのいない日々
21
読みに来てくださいまして、ありがとうございます。青春ボカロカップにエントリーしています。お気に入り登録、BET頂けますと嬉しいです。よろしくお願いします。 別作品で、きずな文庫大賞にエントリーしています。良かったら、そちらもご一読いただけるとありがたいです。
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
俺は彼女に養われたい
のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。
そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。
ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ!
「ヒモになるのも楽じゃない……!」
果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか?
※他のサイトでも掲載しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる