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36話 セカンドコンタクトを阻止せよ
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再び横断歩道に着いた僕ら。
「ここ重要な場所になってんのかな?」
また同じ所に来たから、ちょっとおかしくて、ふたりして笑ってしまう。
「私が生まれるきっかけになった場所だからじゃないかな」
「なるほど。僕らが再会した場所でもあるしな」
「そうそう」
「で、この日は、どこで会ったの?」
円花さんの顔が少し曇る。
つらそうな顔を見ると、罪悪感を覚えてしまう。だけど逃げるわけにはいかない。ここを乗り越えると、あのひまわりのような明るい笑顔がまた見られる。あの笑顔を守るために、僕は覚悟を決めたんだ。
「学校帰りで、部活が終わってからだから、6時半くらいかな。病院の近くで、また会ったねって」
「円花さんが入院してる病院?」
「そう。今日も練習? 毎日なの? っていろいろ聞かれて。お母さんが体調崩してたから私早く帰りたかったの。だからちょっと困って。今日は急いでるんでごめんなさいして、走って帰ったの」
「追いかけてこなかった?」
「うん。あの時は恐怖とか感じなかった。世間話だと思ってたぐらい。でも私のスケジュールを知ろうとしてたのかなって。今になってわかった。人と話すのって、気をつけないといけないんだね」
寂しそうな顔をする。他人に酷い目に遭わされた、円花さんの気持ちは僕もわかる。
「相手を見極めるなんて難しいよ。話してみないとどんな人なのかわからないのに、話し過ぎてもダメだなんてな。だから僕は人との交流を断ったんだけど」
「私は人が嫌いじゃないから、誰とも話ができないのは辛いかな。だからこそ、人と交流してみる目を養うっていうの? できたらいいなって思うな」
円花さんは、根っからのポジティブ思考をする人なんだろう。怖い目に遭わされても、他人にを否定するんじゃなくて、見極める目を養おうとするなんて。僕にはない思考だから、年下でも尊敬できる。
前向きないい子を、自分の目的のために怯えさせた谷恭也を許せない。
改めて、円花さんを守る決意を自分の中でみなぎらせた。
「今日は僕が自分の中に入るから、円花さんは体と僕を行き来して、連絡係やってくれる? いざという時は、体に入って自分を守ることに専念して欲しいけど」
「連絡係だね。OK。ユージくん無理はしないでね」
「わかってるよ」
頷いてみせたけど、いざというときは僕が体を張って止める。過去の僕がケガをするかもしれないけど、必要なら構わない。
家に移動すると、僕は昼寝というか夕寝をしていた。体調が悪かった記憶はないから、惰眠を貪っていたんだろう。円花さんが怖い思いをしている時に、おまえ何やってんだよ。過去の自分を心の中で叱ってから、寝ている自分の体に入った。
瞼を開ける。
体を起こす。
違和感はない。
自然に、自分の体を動かせている。
「ユージくん」
円花さんに顔を覗き込まれて、どきっとした。
「大丈夫そ?」
「うん。あ、でも。少し重いような気がする」
立ち上がると、少し体重を感じた。
「この姿の時って、軽いもんね」
軽くて、自由。だったけど、やっぱり体がある方がいい。この不自由さこそが、生を実感するのかなと、思ってみたり‥‥‥。
「よし。行こう」
スマホの時計を見る。5時半を過ぎていた。あまり時間はない。
一階に下りる。母さんはいつもどおり、美容室で立ち仕事。
「コンビニ行ってくる」
「いってらっしゃい」
声をかけられて、僕は足を止めた。振り返って、
「無理しすぎんなよな」
それだけを伝えて、家を出た。
僕は病院を目指し、円花さんは先行して、谷恭也の姿を捜しに行く。
「いたよ」
戻ってきた円花さんに、恭也の居場所を聞き、円花さんは自分の体を捜しに行った。
恭也は病院の前の通りをうろうろしている。何をやっているのか最初わからなかったけど、病院に出る二本の道を覗いているんだとわかった。
さて、どうやって、恭也の気を逸らせるか。
前回みたいに、円花さんに別ルートで帰ってもらえば今日は解決する。だけど、接触を阻止するのは今回を最後にしようと円花さんに言われている。
諦めさせる方法はないかな。
男がいたら諦める? 円花さんの知り合いに頼むとか?
僕がいるじゃん。
思いついた方法に、公私混同してないかとどぎまぎした。
この頃の僕らは出会ってないけど、円花さんが体に戻れば可能だ。
「ユージくん、私、この道から来てるよ。ユージくん?」
少し興奮してしまって、反応ができなかった。
円花さんに今思いついた方法を話してみると、
「いいよ、やってみよう」
円花さんはわくわくした顔でのってくれた。
自分の体に入った円花さんが目の前にいる。
僕は隣に並んで、一緒に歩く。
円花さんが透けていない。
僕も透けていない。
感無量で、言葉が出てこない。
「ユージくん、自然に。自然に」
円花さんが笑顔で、僕と手を繋いだ。
想像していたよりもずっと柔らかかくて、ふっくらしていて、小さい円花さんの手。
過去で願いを叶えられるなんて。
だめだー。緊張するー。僕はなんて方法を思いついてしまったんだ。
いや、これは芝居だから。谷恭也に諦めるさせるための、ひと芝居だから。
でもな、僕らは相思相愛になったんだよ。
円花さんはずっと僕をヒーローだと慕ってくれていて、僕は一途な円花さんがかわいくて、好きになった。
冷静でなんて、いられるわけないじゃないか。
頭が興奮した状態で歩いていき、僕と円花さんは恭也がいる通りに出た。
次回⇒37話 彼氏作戦
「ここ重要な場所になってんのかな?」
また同じ所に来たから、ちょっとおかしくて、ふたりして笑ってしまう。
「私が生まれるきっかけになった場所だからじゃないかな」
「なるほど。僕らが再会した場所でもあるしな」
「そうそう」
「で、この日は、どこで会ったの?」
円花さんの顔が少し曇る。
つらそうな顔を見ると、罪悪感を覚えてしまう。だけど逃げるわけにはいかない。ここを乗り越えると、あのひまわりのような明るい笑顔がまた見られる。あの笑顔を守るために、僕は覚悟を決めたんだ。
「学校帰りで、部活が終わってからだから、6時半くらいかな。病院の近くで、また会ったねって」
「円花さんが入院してる病院?」
「そう。今日も練習? 毎日なの? っていろいろ聞かれて。お母さんが体調崩してたから私早く帰りたかったの。だからちょっと困って。今日は急いでるんでごめんなさいして、走って帰ったの」
「追いかけてこなかった?」
「うん。あの時は恐怖とか感じなかった。世間話だと思ってたぐらい。でも私のスケジュールを知ろうとしてたのかなって。今になってわかった。人と話すのって、気をつけないといけないんだね」
寂しそうな顔をする。他人に酷い目に遭わされた、円花さんの気持ちは僕もわかる。
「相手を見極めるなんて難しいよ。話してみないとどんな人なのかわからないのに、話し過ぎてもダメだなんてな。だから僕は人との交流を断ったんだけど」
「私は人が嫌いじゃないから、誰とも話ができないのは辛いかな。だからこそ、人と交流してみる目を養うっていうの? できたらいいなって思うな」
円花さんは、根っからのポジティブ思考をする人なんだろう。怖い目に遭わされても、他人にを否定するんじゃなくて、見極める目を養おうとするなんて。僕にはない思考だから、年下でも尊敬できる。
前向きないい子を、自分の目的のために怯えさせた谷恭也を許せない。
改めて、円花さんを守る決意を自分の中でみなぎらせた。
「今日は僕が自分の中に入るから、円花さんは体と僕を行き来して、連絡係やってくれる? いざという時は、体に入って自分を守ることに専念して欲しいけど」
「連絡係だね。OK。ユージくん無理はしないでね」
「わかってるよ」
頷いてみせたけど、いざというときは僕が体を張って止める。過去の僕がケガをするかもしれないけど、必要なら構わない。
家に移動すると、僕は昼寝というか夕寝をしていた。体調が悪かった記憶はないから、惰眠を貪っていたんだろう。円花さんが怖い思いをしている時に、おまえ何やってんだよ。過去の自分を心の中で叱ってから、寝ている自分の体に入った。
瞼を開ける。
体を起こす。
違和感はない。
自然に、自分の体を動かせている。
「ユージくん」
円花さんに顔を覗き込まれて、どきっとした。
「大丈夫そ?」
「うん。あ、でも。少し重いような気がする」
立ち上がると、少し体重を感じた。
「この姿の時って、軽いもんね」
軽くて、自由。だったけど、やっぱり体がある方がいい。この不自由さこそが、生を実感するのかなと、思ってみたり‥‥‥。
「よし。行こう」
スマホの時計を見る。5時半を過ぎていた。あまり時間はない。
一階に下りる。母さんはいつもどおり、美容室で立ち仕事。
「コンビニ行ってくる」
「いってらっしゃい」
声をかけられて、僕は足を止めた。振り返って、
「無理しすぎんなよな」
それだけを伝えて、家を出た。
僕は病院を目指し、円花さんは先行して、谷恭也の姿を捜しに行く。
「いたよ」
戻ってきた円花さんに、恭也の居場所を聞き、円花さんは自分の体を捜しに行った。
恭也は病院の前の通りをうろうろしている。何をやっているのか最初わからなかったけど、病院に出る二本の道を覗いているんだとわかった。
さて、どうやって、恭也の気を逸らせるか。
前回みたいに、円花さんに別ルートで帰ってもらえば今日は解決する。だけど、接触を阻止するのは今回を最後にしようと円花さんに言われている。
諦めさせる方法はないかな。
男がいたら諦める? 円花さんの知り合いに頼むとか?
僕がいるじゃん。
思いついた方法に、公私混同してないかとどぎまぎした。
この頃の僕らは出会ってないけど、円花さんが体に戻れば可能だ。
「ユージくん、私、この道から来てるよ。ユージくん?」
少し興奮してしまって、反応ができなかった。
円花さんに今思いついた方法を話してみると、
「いいよ、やってみよう」
円花さんはわくわくした顔でのってくれた。
自分の体に入った円花さんが目の前にいる。
僕は隣に並んで、一緒に歩く。
円花さんが透けていない。
僕も透けていない。
感無量で、言葉が出てこない。
「ユージくん、自然に。自然に」
円花さんが笑顔で、僕と手を繋いだ。
想像していたよりもずっと柔らかかくて、ふっくらしていて、小さい円花さんの手。
過去で願いを叶えられるなんて。
だめだー。緊張するー。僕はなんて方法を思いついてしまったんだ。
いや、これは芝居だから。谷恭也に諦めるさせるための、ひと芝居だから。
でもな、僕らは相思相愛になったんだよ。
円花さんはずっと僕をヒーローだと慕ってくれていて、僕は一途な円花さんがかわいくて、好きになった。
冷静でなんて、いられるわけないじゃないか。
頭が興奮した状態で歩いていき、僕と円花さんは恭也がいる通りに出た。
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