【完結】御食事処 晧月へようこそ 第5回ほっこり・じんわり大賞奨励賞受賞

衿乃 光希

文字の大きさ
42 / 51

41.生まれた病院

しおりを挟む
 ずっと母、麻衣子の手だと思ってきたほくろのある腕。
 祖母から、麻衣子の腕にほくろはないと言い切られた。
 だから汚れなのだろうと、アルバムを見返してそう思った。それなのに、千里の左腕にほくろがあった。求めていたものと同じなのかはわからないけど、たしかに存在していた。

 理解できなくて、軽いパニック状態で一穂は病院を出た。
 どういうこと? たまたま同じところにあった? どうして今まで気づかなかった?
 疑いもしなかった。あの写真が母ではない可能性なんて。

 もしかすると千里がお見舞いに来ていて、生まれたばかりの一穂を抱いたのかもしれない。
 でも待って。あの袖はパジャマのような柄だった。
 それに、母ではない他人が抱いている写真をアルバムの一枚目に貼りつける?
 そういえば、妊娠中の母の写真は一枚も見ていない。

 疑いだすと、きりがなくなっていく。
 疑惑は一穂の中でどんどんふくらんでいき、あの写真の人物は、千里以外に考えられなくなっていた。
 もしかして、でもまさか、という思いに囚われる。

 晧月に戻ると、自室の押し入れの棚に保管している両親の荷物をすべて出した。母のアクセサリー、父の時計、二人のアルバムと写真データが残っている携帯電話と充電器。
 やはり母の妊娠期の写真がない。それに母子手帳も。
 片付けの最中に紛失した可能性もあるけれど、すべて無くなるとは考えにくい。

 千里には怪我の治療に専念してもらいたから、訊ねることはできない。
 出先から晧月に戻ってきた源三郎に訊ねてみたが、複数人で片付けたのでわからないとのこと。

「あたしの生まれた産婦人科ってどこか知ってる?」
「産婦人科は知らんなあ。それがどうしたのか?」
 ほくろのことを言うべきか迷ったが、一穂は嘘をついた。

「学校でさ、自分のルーツを辿るって課題があって、調べなくちゃいけなくて。お祖父ちゃんたちが生きてたら教えてもらたのかな」
「佑介たちが十五年前に住んでいたところは足立区だ。近辺の病院を当たれば見つかるかもしれんぞ」
「足立区か。ネットで調べたらわかるかな」
「電話帳という手段もあるぞ」
「電話帳って何? そんなのあるの?」
「俺の住んでる所には毎年新しい電話帳が届くんだが、この辺もあるんじゃないかな」
「探してみる」

 リビングを見渡し、置いてありそうな場所の検討をつける。
 二人でテレビ台と食器台を見てみたけれど、電話帳は見当たらない。
 千里の自室にあるのなら探しにはいけない。一緒に暮らしているとはいえ、千里の私室に無断で入るのは気が引ける。

 一穂はお店にあるのではとひらめいて、一階に降りた。
 主不在の晧月は一穂と源三郎の出入り以外に今は使っていない。
 窓から入る外の明かりがうっすらと差し込んでいるがそれでも暗く、少し不気味だった。いつもはお客で賑やかなお店に人がいないのは、とても寂しかった。

 電気をつけて、厨房の後ろにある電話台の下の扉を開ける。
「これかな?」
 冊子を見つけてぱらぱらと捲ってみると、病院や会社の広告とともに、会社名と電話番号だけが掲載されているのを見つけた。

 地域毎やジャンル別になっているので、ネットで調べつつ電話帳でもチェックしてみることにした。
 書き出して一覧にまとめ、翌日から電話をかけていく。
 自分の身分を明かして事情を説明し、須田麻衣子・もしくは上月千里という名前の妊婦が15年前の1月14日女の赤ちゃんを出産していないかと訊ねる。
 日曜日であってもスタッフはいて、電話応対してくれた。

 十五年も前の出産だから調べられない、個人情報なので教えられない、と断られる事もあったが、一穂の真剣な声と言葉に耳を傾けて、調べてくれるという病院もあった。

 数日後、該当患者が見つかったという葛飾にある産婦人科が連絡をくれた。学校が終わった後か、土日ならいつでもいいので伺いたいとお願いした。学校帰りだと千葉に戻るのに夜が遅くなるからと気遣われ、土曜日昼一時にどうぞと時間を取ってもらえた。

 一週間を、一穂はそわそわした気持ちで過ぎるのを待った。
 その間に千里は骨折の再手術を受け、容体が落ち着いたことから一般の病室に移った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

見上げた空は、今日もアオハルなり

木立 花音
青春
 ──私の想いは届かない。私には、気持ちを伝えるための”声”がないから。  幼馴染だった三人の少年少女。広瀬慎吾(ひろせしんご)。渡辺美也(わたなべみや)。阿久津斗哉(あくつとおや)。そして、重度の聴覚障害を抱え他人と上手くうち解けられない少女、桐原悠里(きりはらゆうり)。  四人の恋心が激しく交錯するなか、文化祭の出し物として決まったのは、演劇ロミオとジュリエット。  ところが、文化祭の準備が滞りなく進んでいたある日。突然、ジュリエット役の桐原悠里が学校を休んでしまう。それは、言葉を発しない彼女が出した、初めてのSOSだった。閉ざされた悠里の心の扉をひらくため、今、三人が立ち上がる!  これは──時にはぶつかり時には涙しながらも、卒業までを駆け抜けた四人の青春群像劇。 ※バレンタイン・デイ(ズ)の姉妹作品です。相互にネタバレ要素を含むので、了承願います。 ※表紙画像は、ミカスケ様にリクエストして描いて頂いたフリーイラスト。イメージは、主人公の一人悠里です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

神楽坂gimmick

涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。 侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり…… 若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...