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32. 見守られて
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思ってもみなかった人物が、フライパン片手に飛び込んできた。
その姿は勇ましやら思白いやら。恐怖で強張っていた体から、いい感じに力が抜けた。
三人で逃げる。千里の行為が、一穂の心を奮い立たせた。
千里がフライパンを振りまわす。
男たちが笑いながら避ける。
包囲から逃れようと動くけど、男たちは近づいてきたり離れたり。猟犬に追い込まれた羊の気分になってくる。
隙があるようで、ない。
「あっ!」
隙をつかれたのは千里の方だった。
唯一の武器が、ピアスの男の手に渡っていた。
男はフライパンで自分の肩をぽんぽんと叩いた後、持ち替えた。
何をするのだろうと見ていたら、ぎゅぎゅっとフライパンを曲げてしまった。
「わたしの商売道具」
千里が小さくぼやくのが聞こえて、そこじゃないでしょ、と突っ込みそうになった。
ピアスの男は曲がったフライパンを放り投げた。道の端まで滑っていく。
「さあ、どうしようか。おばさん」
武器を失っては、三人にどうすることもできない。
石でも投げようか、と道に目をやった一穂の耳に、
「俺たちの町で好きに暴れてくれてんな」
「その子らに手出したら、どうなるか。身をもって知ってもらおうか」
頼もしい男性たちの声が聞こえて、顔を上げた。
一穂たちを包囲していた男たちをさらに包囲する、二十人ほどの筋骨隆々の男性たち。真っ黒に日焼けし、ぽきぽきと指を鳴らしている。
その中には金田もいた。
十分ほど歩けば海に出る。港にいた漁師たちが助けるために駆け付けてくれた。
ピアスや銀髪たちの間に動揺が広がる。
警察が来る可能性は頭にあったかもしれないが、まさか漁師たちが来るとは思っていなかっただろう。しかもみんな腕を出した服を着ている。なかには上半身裸の漁師もいた。
毎日の力仕事で鍛え上げれたその肉体は、ピアスや銀髪の体を上回っていた。
それでもピアスや銀髪たちは逃げ出そうとしなかった。
睨みあう険悪な雰囲気が漂い、何がきっかけだったのか、両者がぶつかった。
激しい怒号と、殴り合う音がする中、二人の漁師に守られながら、一穂たち三人は無事に脱出を果たした。
その姿は勇ましやら思白いやら。恐怖で強張っていた体から、いい感じに力が抜けた。
三人で逃げる。千里の行為が、一穂の心を奮い立たせた。
千里がフライパンを振りまわす。
男たちが笑いながら避ける。
包囲から逃れようと動くけど、男たちは近づいてきたり離れたり。猟犬に追い込まれた羊の気分になってくる。
隙があるようで、ない。
「あっ!」
隙をつかれたのは千里の方だった。
唯一の武器が、ピアスの男の手に渡っていた。
男はフライパンで自分の肩をぽんぽんと叩いた後、持ち替えた。
何をするのだろうと見ていたら、ぎゅぎゅっとフライパンを曲げてしまった。
「わたしの商売道具」
千里が小さくぼやくのが聞こえて、そこじゃないでしょ、と突っ込みそうになった。
ピアスの男は曲がったフライパンを放り投げた。道の端まで滑っていく。
「さあ、どうしようか。おばさん」
武器を失っては、三人にどうすることもできない。
石でも投げようか、と道に目をやった一穂の耳に、
「俺たちの町で好きに暴れてくれてんな」
「その子らに手出したら、どうなるか。身をもって知ってもらおうか」
頼もしい男性たちの声が聞こえて、顔を上げた。
一穂たちを包囲していた男たちをさらに包囲する、二十人ほどの筋骨隆々の男性たち。真っ黒に日焼けし、ぽきぽきと指を鳴らしている。
その中には金田もいた。
十分ほど歩けば海に出る。港にいた漁師たちが助けるために駆け付けてくれた。
ピアスや銀髪たちの間に動揺が広がる。
警察が来る可能性は頭にあったかもしれないが、まさか漁師たちが来るとは思っていなかっただろう。しかもみんな腕を出した服を着ている。なかには上半身裸の漁師もいた。
毎日の力仕事で鍛え上げれたその肉体は、ピアスや銀髪の体を上回っていた。
それでもピアスや銀髪たちは逃げ出そうとしなかった。
睨みあう険悪な雰囲気が漂い、何がきっかけだったのか、両者がぶつかった。
激しい怒号と、殴り合う音がする中、二人の漁師に守られながら、一穂たち三人は無事に脱出を果たした。
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