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56. 結婚の報告
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三井さんの件が一応は目途がついた。
慰謝料等の支払いはまだだけど、お金は求めていないから、三井さんの誠意を信じて待っている。
俊介さんの体調も無事回復し、一人暮らしの自宅に戻った。
合鍵をもらった私は、休みの日には遊びに行き、一緒にご飯を作ったり映画を観たりと、楽しくて幸せな休日を過ごしている。
事故のあとから私たちの距離はより近くなった。
結婚の報告を親にしたいね、いつしようか、と俊介さんと話し合う。
俊介さんのお母様の誕生日が10月だと知り、誕生日会をして報告をしましょうと決めた。
母とも日程を合わせて、私の誕生日以来のパーティをすることにした。
その前日の夕食後。俊介さんとの結婚を決めた、明日あちらのお父様にも報告をする、と母に伝えると、
「そう。決めたのね。おめでとう」
母はあっさり、おめでとうと言ってくれた。
「反対しないの?」
「事故のあとから、彩綺が楽しそうにしてるんだもん、嬉しいことがあったんだなってわかってた。プロポーズされたの?」
母はなんだか楽しそう。喜んでもらえてるみたいで、安心した。
「私からしたの」
「え?! 彩綺から? そう。意外に、肉食女子だったのね。あたしたちは、やっぱり母娘ね」
「プロポーズもお母さんからだったんだ」
「そうよ。懐かしい。彩綺、お父さんに報告しよっか」
私と母は、和室にいる父のお仏壇で手を合わせる。
「正樹。彩綺の結婚が決まりました」
「お父さん、今まで見守ってくれてありがとう」
写真の中のお父さんが、笑顔でおめでとうと言ってくれているのが伝わってきた気がする。
「おめでたいことだけど、寂しくなっちゃうな」
「お母さん、バージンロード一緒に歩く?」
「え? お母さんが? 父親の役目でしょう」
「お母さんは父親でもあったんだから」
父親と一緒にバージンロードを歩き、新郎にバトンタッチするのが一般的。でもうちは一般的じゃない。母と歩きたい。
「んー、やめておく。俊介さんと一緒に歩きなさい」
「え? いいの?」
「うん、いいの。だって泣いて歩けそうにないんだもの」
泣きだした母に抱きつかれ、私ももらい泣きしてしまった。
パーティ当日、前日に作っておいたホールケーキを持参して、私と母は俊介さんの実家を訪問した。
今回のケータリングは和食。陽気なお父様とお話しながら、会席料理とお酒を楽しんだ。
旬のフルーツをたくさん乗せたホールケーキをお母様にお供えしてから、俊介さんが用意してくれた紅茶と一緒に頂いた。
それから、俊介さんが「お母様」と切りだしてくれた。
「彩綺さんとの結婚を考えています。不安定な仕事ですが、僕は家にいるので家事をできるようにします。二人で協力しあって、温かい家庭を築きます。お嬢さんを、僕にください」
こんなにきっちりした挨拶をしてくれると思ってなかった。
私は内心で動揺しつつ、俊介さんにならって頭を下げた。
「パティスリーの仕事との両立となると大変です。でも、心配はしていません。俊介さんは頼りになる方ですから。彩綺のこと、よろしくお願いします」
母は今日は泣かなかった。昨日、二人でいっぱい泣いたから。
「お任せください。二人で幸せになります」
私はお父様に体を向けた。
「未熟なところがたくさんあると思いますが、よろしくお願いします」
「小野家の嫁なんていう堅苦しい意識はなくていいですよ。俊介をよろしく頼みます」
お父様はとても優しい笑みを浮かべて、歓迎してくれた。
「俊介に今まで言ってこなかったことがあってね。今がそのタイミングだと思うんだ」
席を離れたお父様が、B5の白封筒を持って戻ってきた。
「ここに、俊介のご両親についての情報が入っている。見るかどうかは、俊介に任せる」
俊介さんは、テーブルに置かれた白封筒を見つめる。迷っているのかな。
踏み込めることではないから、私は黙っていた。
しばらくして、俊介さんは封筒を手に取って開いた。
用紙に目を通してから、私に渡してくれた。
「見てもいいの?」
「うん。彩綺さんにも知って欲しい」
用紙には、俊介さんのご両親のプロフィールと写真がプリントされていた。
夏に撮影したのか二人とも浴衣姿で、うちわを片手に縁側に座っている。
「俊介さん、お母様に似てる」
ほっそりしたきれいな人。後頭部でまとめた髪が、一筋首にかかり色っぽい。
お父様はカメラから視線を外し、どこか物憂げな雰囲気を漂わせている。
「雰囲気はお父様似だね」
「成長してどんどんお二人に似てくるから、血はすごいなと家内とも話していたんだよ」
小野のお父様が、俊介さんに視線をやる。寂しそうな、でも誇らしいような、複雑な表情で。
「お二人は、すでに鬼籍入りされておられるけど、親戚の連絡先ならわかるよ。もし二人のことを訊きたいなら、連絡をしてみようか」
写真を見つめて考えていた俊介さんは、話を訊こうかなと、頷いた。
次回⇒57. 産みのご両親のこと
慰謝料等の支払いはまだだけど、お金は求めていないから、三井さんの誠意を信じて待っている。
俊介さんの体調も無事回復し、一人暮らしの自宅に戻った。
合鍵をもらった私は、休みの日には遊びに行き、一緒にご飯を作ったり映画を観たりと、楽しくて幸せな休日を過ごしている。
事故のあとから私たちの距離はより近くなった。
結婚の報告を親にしたいね、いつしようか、と俊介さんと話し合う。
俊介さんのお母様の誕生日が10月だと知り、誕生日会をして報告をしましょうと決めた。
母とも日程を合わせて、私の誕生日以来のパーティをすることにした。
その前日の夕食後。俊介さんとの結婚を決めた、明日あちらのお父様にも報告をする、と母に伝えると、
「そう。決めたのね。おめでとう」
母はあっさり、おめでとうと言ってくれた。
「反対しないの?」
「事故のあとから、彩綺が楽しそうにしてるんだもん、嬉しいことがあったんだなってわかってた。プロポーズされたの?」
母はなんだか楽しそう。喜んでもらえてるみたいで、安心した。
「私からしたの」
「え?! 彩綺から? そう。意外に、肉食女子だったのね。あたしたちは、やっぱり母娘ね」
「プロポーズもお母さんからだったんだ」
「そうよ。懐かしい。彩綺、お父さんに報告しよっか」
私と母は、和室にいる父のお仏壇で手を合わせる。
「正樹。彩綺の結婚が決まりました」
「お父さん、今まで見守ってくれてありがとう」
写真の中のお父さんが、笑顔でおめでとうと言ってくれているのが伝わってきた気がする。
「おめでたいことだけど、寂しくなっちゃうな」
「お母さん、バージンロード一緒に歩く?」
「え? お母さんが? 父親の役目でしょう」
「お母さんは父親でもあったんだから」
父親と一緒にバージンロードを歩き、新郎にバトンタッチするのが一般的。でもうちは一般的じゃない。母と歩きたい。
「んー、やめておく。俊介さんと一緒に歩きなさい」
「え? いいの?」
「うん、いいの。だって泣いて歩けそうにないんだもの」
泣きだした母に抱きつかれ、私ももらい泣きしてしまった。
パーティ当日、前日に作っておいたホールケーキを持参して、私と母は俊介さんの実家を訪問した。
今回のケータリングは和食。陽気なお父様とお話しながら、会席料理とお酒を楽しんだ。
旬のフルーツをたくさん乗せたホールケーキをお母様にお供えしてから、俊介さんが用意してくれた紅茶と一緒に頂いた。
それから、俊介さんが「お母様」と切りだしてくれた。
「彩綺さんとの結婚を考えています。不安定な仕事ですが、僕は家にいるので家事をできるようにします。二人で協力しあって、温かい家庭を築きます。お嬢さんを、僕にください」
こんなにきっちりした挨拶をしてくれると思ってなかった。
私は内心で動揺しつつ、俊介さんにならって頭を下げた。
「パティスリーの仕事との両立となると大変です。でも、心配はしていません。俊介さんは頼りになる方ですから。彩綺のこと、よろしくお願いします」
母は今日は泣かなかった。昨日、二人でいっぱい泣いたから。
「お任せください。二人で幸せになります」
私はお父様に体を向けた。
「未熟なところがたくさんあると思いますが、よろしくお願いします」
「小野家の嫁なんていう堅苦しい意識はなくていいですよ。俊介をよろしく頼みます」
お父様はとても優しい笑みを浮かべて、歓迎してくれた。
「俊介に今まで言ってこなかったことがあってね。今がそのタイミングだと思うんだ」
席を離れたお父様が、B5の白封筒を持って戻ってきた。
「ここに、俊介のご両親についての情報が入っている。見るかどうかは、俊介に任せる」
俊介さんは、テーブルに置かれた白封筒を見つめる。迷っているのかな。
踏み込めることではないから、私は黙っていた。
しばらくして、俊介さんは封筒を手に取って開いた。
用紙に目を通してから、私に渡してくれた。
「見てもいいの?」
「うん。彩綺さんにも知って欲しい」
用紙には、俊介さんのご両親のプロフィールと写真がプリントされていた。
夏に撮影したのか二人とも浴衣姿で、うちわを片手に縁側に座っている。
「俊介さん、お母様に似てる」
ほっそりしたきれいな人。後頭部でまとめた髪が、一筋首にかかり色っぽい。
お父様はカメラから視線を外し、どこか物憂げな雰囲気を漂わせている。
「雰囲気はお父様似だね」
「成長してどんどんお二人に似てくるから、血はすごいなと家内とも話していたんだよ」
小野のお父様が、俊介さんに視線をやる。寂しそうな、でも誇らしいような、複雑な表情で。
「お二人は、すでに鬼籍入りされておられるけど、親戚の連絡先ならわかるよ。もし二人のことを訊きたいなら、連絡をしてみようか」
写真を見つめて考えていた俊介さんは、話を訊こうかなと、頷いた。
次回⇒57. 産みのご両親のこと
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