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49. 信頼を得てから

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「一カ月ほど前に、編集部に届いたそうです。勝手に処分するのを躊躇った編集さんが、連絡をくれて、転送してもらいました。できれば、彩綺さんには見せたくなかったんですが、すでに巻き込まれているので、見てもらったほうがいいと思います」

 俊介さんに促されて、周防荘兼宛ての封筒を開いた。

〈周防先生が交際している滝川という女性は、ホスト狂い〉

「なんですか? これ?」
 私のことを書いているのだとわかるけど、あまりにも現実から離れすぎていて、思わず笑ってしまった。

「私、ホストクラブに行ったことがありませんし、行きたいと思ったこともありません。ホストの知り合いもいませんよ」

「そうだろうと思ってスルーしていたんです。まさか彩綺さんの自宅を突き止めているなんて。怖いですね。警察に相談したほうがいいかもしれません」

「警察ですか」
「気が進みませんか?」

「自宅がバレているのは怖いですけど、まだ何かされたわけではないですし」
「何かされてからでは遅いです。とはいえ、警察も事件性がないと動いてはくれませんからね。ただ、相談をしたという事実はあってもいいかもしれません。相手がどこの誰かわかりません。僕たちをどこかで見張っているなら、警察に行ったことを知ってやめる可能性もあると思うんです」

「大事になりそうだからやめておこうとなるかもしれない、っていうことですね」
「望みは薄いかもしれませんけど」

「母は、大丈夫でしょうか?」
 家にひとりでいる母が気にかかった。

「帰りますか? 送りますよ」
 俊介さんは立ち上がった。

 けれど、私は動かなかった。
「心配ですけど。でも、今日は帰りません。私は怒っています。私が信頼している人を信頼してくれないから」

「彩綺さん、お母様は僕を信頼していないんじゃなくて、あなたが心配なんだと思いますよ
「私が心配?」

 俊介さんが座り直す。

「お父様の代わりも長年してこられたんです。大切に育ててきた娘の彼氏が、紫外線アレルギーのせいで制限があって、仕事はフリーランス。心配されないわけがないです」

「そんな。紫外線アレルギーは仕方のないことです。お仕事だって、実績があるじゃないですか」

「実は、この家の審査が下りるのに時間がかかったんです。僕がフリーランスだから。ダメだったら父に借りてもらおうと思ったぐらいなんです。安定した収入がないということは、それだけ信頼が低いんです。お母様は仕事柄、よくご存知なんです」

 俊介さんを守るためのケンカだったのに、俊介さんが母の味方をするなんて。変な感じ。

「僕が不甲斐ないせいで、大切なお母様と仲たがいをさせてしまって、すみません。近いうちに、お母様と話をしましょう。彩綺さんも、ずっとこのままでいいとは、思っていませんよね」

 このままでいいとは、思ってない。私はこくんと頷いた。

「良い子ですね。それじゃ、今日は寝ましょう。彩綺さんは僕のベッドを使ってください。僕は別の部屋で寝ますから」

「ダメです。押しかけてきた方がベッドを使うなんて。私こそ、どこでもいいです」

「そんなわけにはいきません。シーツの交換をしてくるので、彩綺さんはお風呂に入ってください。明日仕事ですよね」
「はい。早番なので、7時から仕事です」

「早く寝ないと差し支えますよ。案内します」
 立ち上がり、出口に向かう彼を「あの、俊介さん」と私は呼び止めた。

「はい」

「一緒に、寝てもいいですか?」
 どきどきしながら勇気を出して言ったのに、俊介さんは一瞬固まったあと、

「ダメです」
 断った。どうして?

「お母様の信頼が得られてからにしましょう。ね」
「私って、魅力ないんですか?」

「違います。彩綺さんはとても魅力的です。僕が理性で抑えていることを、わかってください」

 頭をぽんと撫でられた。



   次回⇒50. ふわとろ
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