【完結】雨の日に会えるあなたに恋をした。 第7回ほっこりじんわり大賞奨励賞受賞

衿乃 光希

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40. 私は天然の人たらし?

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「あれ? 滝川さん。こんにちは」
 仕事に向かう電車で声をかけられ、私はスマホから顔を上げる。
 見知った顔の大学生が、にこにこと微笑んでいた。

「瀬戸さん。こんにちは」
 販売部のアルバイト、瀬戸せと有紗ありささんが吊り革に掴まっていた。
 私の右隣に座っていた女性が、席をずれてくれたので、お礼を言って瀬戸さんが隣に座る。

「滝川さん、同じ路線だったんですね」
「瀬戸さんはどこの駅?」

 さっき電車が止まったばかりの駅名から乗ってきていた。家と大学の途中にお店があるんだと教えてくれる。

 瀬戸さんは最近、販売部のアルバイトで入ったばかり。大学が終わってから来ているので接点はあまりなかったけれど、今日は日曜日で、お互い遅番のシフトだったため、電車が同じになった。

「滝川さん、欲しいアクセサリーあるんですか?」
 スマホを指差されて、画面をつけたままにしていたのを思い出す。

「もうじき誕生日なんです。おねだりしていいって言ってもらったから、何を買ってもらおうかなあって、探してました」
「彼氏さんですか? 指輪はどうですか?」

 相談に乗ってくれるのか、瀬戸さんはノリノリで会話をしてくれる。

「指輪はまだ早いかなあって」

 すてきだな思うけれど、私は仕事柄、指輪をつけない。仕事の時に外せばいいだけだし、つけるのはプライベートの時だけにすればいいんだけど、まだ欲しいという気持ちにならない。
 それに、母に良い顔をされなさそうな気がした。

「付き合って、どれくらい経つんですか?」
「まだ二週間」

「くっついたとこじゃないですか。いいなー、楽しそう。一緒に買いに行くんですか? ネックレスなんてどうですか?」
「ネックレスか。うん。良さそうですね」

 一緒に買い物に行って選んでもらいなと思うけど、この時期は紫外線量が多いからムリだよね。じゃ、おねだりするのは難しそう?

「彼氏さんの写真ないんですか」
「まだ撮ってないんです」

「撮ったらぜひ見せてください」
「ええー。恥ずかしいです」

「いいじゃないですかぁ。私ぜんぜん見せられますよ。今彼です」
 スマホの画面を見せてくれる。有紗さんと男性が顔をくっつけて、指でハートを作っていた。

 瀬戸さんと話すのは今日が初めてくらいの感じなのに、ぐいぐい話してくれる。
 詳しい話は逸らしつつ、話せる範囲で俊介さんの話をする。
 それが嫌じゃなくて、那美ちゃん意外の人にも彼氏の話ができることが、嬉しかった。

 仕事が終わってから、改めて何が欲しいかを考えた。

 そして私が俊介さんにお願いしたのは、
「俊介さんと写真が撮りたいです」
 スマホの向こうの俊介さんを見て伝える。

『写真ですか? いつでも撮りますよ。自撮りでもスクショでも』
「欲しいです。ください」

 食い気味で言うと、俊介さんは笑いながら自撮りして送ってくれた。
 忘れずに保存。

「今度会った時に、一緒に撮りましょうね」
 後でフォルダを作っておこうと私の胸がルンルンと弾む。

『願いはひとつ叶えましたけど、これが誕プレなのは、さすがにないですよ。なんでも言ってください。一緒に買いに行けないのは、申し訳ないですけど』

 そうだよね。やっぱり。わかってはいたから気落ちはしないし、顔にも出さない。冬になったら行きたいな。

「でしたら、デビュー作の小説が欲しいです」
『僕のデビュー作ですか? うちにあるのでいいですよ。営業用にもらった初版本があったはずです』

「ほんとですか。良かった。他の本は買えたんですけど、デビュー作だけが買えなくって」
『わざわざ買ってくださったんですか? うちにあるのに』

「買いたかったんです。もらうってなんか違うし、買って読みたいなって」
『お買い上げ、ありがとうございます。それだと僕がプレゼントもらったみたいじゃないですか。物欲あまりないですか?』

「そうなのかも。夢が叶って幸せなんですよ、今の私。だから物欲にいかないのかもです」
 いろいろ検索したり、考えたりしてみたけど、欲しいなと思えるものがなかった。心が満たされているから。

『パティスリーで働いているのが幸せなんですね。彩綺さんの頑張っている姿が見えるようです』

 もちろん、毎日ケーキに囲まれてお仕事をさせてもらうのは、楽しい。でも、仕事だから楽しいだけじゃない。

 今、私の心を満たしてくれているのは、
「それだけじゃないですよ。俊介さんとお付き合いできているからです」
 うふふとつい笑みが溢れてしまう。

 顔を思い浮かべるだけで幸せなのに、こうして毎日のように電話してくれる。
 優しい口調と笑顔で、私の心は満たされる。

『彩綺さんは、天然の人たらしって言われたことがないですか?』
「え? ないですよ」
 天然の人たらしって何だろう?

『そうですか。じゃ、その才能は僕のためだけに発揮してください』
「私、天然だと思ったことないし、言われたこともないですよ。のんびりしてるとはよく言われますけど」

 俊介さんの言うことがよくわからない。私は首を傾けて考えてみたけれど、 
『いいんです。あなたはそのままでいてください』
 褒められたのかどうか理解できないまま、曖昧に納得した。
 そのままでいいってことは、褒めれたんだよね?

『欲しい物がないなら、うちでパーティをしませんか。お母様も一緒に』
「パーティですか? そんな大それたこと」

『大それたことですよ。彩綺さんが生まれた日なんですから。そうしましょう。うちの父の日程が合うなら、会ってください。父も会いたがっていますので』

 今度はお父様!? 緊張しちゃうけど、でも一度会っておくと、今後お家にお邪魔しやすくなりそう? だったら挨拶をしておこうかな。

「わかりました。母の予定を聞いてみます」

 四人の予定をなんとか合わせたGWの日曜日、私の早番が終わってから母と小野家に伺うことになった。


   次回⇒41. 俊介さんの父親
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