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35. 始まりの日
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閉店時間を知らせるアナウンスが、屋上庭園にも流れる。
アナウンスに合わせて蛍の光の曲も。
帰らないといけない気持ちになってしまう不思議な曲。
離れがたい気持ちを抱えながら、私たちはどちらかともなく手を離した。
ガゼボを出ると、淡い青色の傘を開いて、小野さんが待っていてくれる。
私は自然と傘の下に入った。
エレベータホールに向かうまでの、相合傘。
「小野さん、私、憧れていることがあるんです」
「憧れていること、ですか?」
「お付き合いをする方には、名前で呼んでもらいたんです。『彩綺』と」
恥ずかしかったけれど、思い切ってお願いをしてみる。
少し間があって、
「それなら、僕も名前で呼んで欲しいです」
そう言った小野さんの耳が朱に染まっていた。
「それなら‥‥‥」
いたずら心を起こした私は、
「荘兼さん」
と読んでみた。
小野さんがぷっと噴き出す。
「そっちですか。軽く緊張していたのに、どっかいっちゃいましたよ」
「大成功」
意表をつけたみたい。
小野さんの表情がくしゃっと笑み崩れた瞬間が見られて、私は嬉しくなる。
「冗談はよしてください。彩綺さん」
「あ‥‥‥」
ふいを突かれた名前呼び。私はびっくりして、足を止めてしまった。
好きな人に名前を呼んでもらえて、嬉しいけれど、恥ずかしい。
どうしよう、軽くパニックになった。
「濡れますよ」
一歩だけ先に進んでいた彼が、すっと傘を戻してくれる。
私は傘の下にある彼の顔を見上げる。
好きな人に想いが届いて、両想いになれた。こんな夢のようなすてきな未来が現実に起こって、胸がいっぱいになる。
「小野さん、じゃなくて‥‥‥しゅ、俊介さん」
彼の名前を呼べる日がくるなんて。
「はい。彩綺さん」
私にだけ向けてくれる優しい微笑みと温かいまなざし。
「これから、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ。
こうして、私たちの交際が始まった。
次回⇒36. 4月 久しぶりに会えて
アナウンスに合わせて蛍の光の曲も。
帰らないといけない気持ちになってしまう不思議な曲。
離れがたい気持ちを抱えながら、私たちはどちらかともなく手を離した。
ガゼボを出ると、淡い青色の傘を開いて、小野さんが待っていてくれる。
私は自然と傘の下に入った。
エレベータホールに向かうまでの、相合傘。
「小野さん、私、憧れていることがあるんです」
「憧れていること、ですか?」
「お付き合いをする方には、名前で呼んでもらいたんです。『彩綺』と」
恥ずかしかったけれど、思い切ってお願いをしてみる。
少し間があって、
「それなら、僕も名前で呼んで欲しいです」
そう言った小野さんの耳が朱に染まっていた。
「それなら‥‥‥」
いたずら心を起こした私は、
「荘兼さん」
と読んでみた。
小野さんがぷっと噴き出す。
「そっちですか。軽く緊張していたのに、どっかいっちゃいましたよ」
「大成功」
意表をつけたみたい。
小野さんの表情がくしゃっと笑み崩れた瞬間が見られて、私は嬉しくなる。
「冗談はよしてください。彩綺さん」
「あ‥‥‥」
ふいを突かれた名前呼び。私はびっくりして、足を止めてしまった。
好きな人に名前を呼んでもらえて、嬉しいけれど、恥ずかしい。
どうしよう、軽くパニックになった。
「濡れますよ」
一歩だけ先に進んでいた彼が、すっと傘を戻してくれる。
私は傘の下にある彼の顔を見上げる。
好きな人に想いが届いて、両想いになれた。こんな夢のようなすてきな未来が現実に起こって、胸がいっぱいになる。
「小野さん、じゃなくて‥‥‥しゅ、俊介さん」
彼の名前を呼べる日がくるなんて。
「はい。彩綺さん」
私にだけ向けてくれる優しい微笑みと温かいまなざし。
「これから、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ。
こうして、私たちの交際が始まった。
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