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34. 小野さんの告白
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「滝川さんが植物園からいなくなって、新しい人が来ました。今までと変わりない日常が続くものと思っていましたが、あなたと本の話や、お菓子の話をするのが楽しい時間だったのだと気がつきました」
「私にとっても、大切な時間でした。植物園は辞めたくなかったです」
「ご自身の未来を考えたんですよね」
私は頷いた。
製菓学校に通いたいと考えた時、植物園で働きながらでも可能だとは思った。
18時で終業して、残業はない。忙しい時間はほとんどないし、お菓子に近い場所にいられる。
なにより、小野さんに会える。
だけど、そんな甘えた環境でいいのかなとも考えた。母は大学に行かなかった分の貯蓄はあると言ってくれたけど、社会人なのに、しかも片親なのに、まだ親に出してもらうの? と叱る声が自分の中から湧き上がった。
足りない分は援助してもらったけど、生活費を母に渡した。これからも、実家にいるなら渡すつもりをしている。
「今のまま、なんとなくで仕事をしていては、自活できないと思いました。母に頼ってばかりじゃいけないなと思って。未来を考えるきっかけになったのは、前職からの誘いでしたけど、小野さんの言葉にも影響を受けています」
「僕、何か言いました?」
小野さんはきょとんと、目を丸くした。
「いずれ家を出ようと思っていると言ってました」
「ああ、あれですか。あれは、滝川さんに向けた言ったわけではないのですけど」
なぜか恥ずかしそうにして、頬をかく。
「もちろん、わかっています。でも、私もいずれ実家を出ないといけないかなって。結婚まではいようと思ってましたけど、結婚だっていつできるかわかりませんし、できないかもしれません。いつかは年を取った母の面倒を見に、実家に戻る可能性もありますけど、それまでは実家を出ようかなと。そのためには、ちゃんと仕事をしないといけない、と考えました」
「そんな気がしていました。僕の言葉のせいだったとは、思ってなかったですけど。そんな時に、僕がいては邪魔になると判断したんです。その判断は間違っていなかったと思います」
「私もそう思います。告白をしてしまったのは、なりゆきで勢い任せだったので、自分でもびっくりしました。だけど、小野さんが誠意を持ってフッてくれて、自分の見る目に自信を持ちました。実際、とても忙しかったので、恋愛に時間も心も割く余裕は、なかったです」
「僕はあの両親の影響で、縁を信じています。縁があれば、手を離してもまた再会できる。できなければ、縁がなかったんだと。これも縁だと思うんですが、滝川さんはどう思われますか?」
「偶然と捉えるか、縁だと捉えるか、ということでしょうか? そうですね、信じたい気持ちはあります。でも縁だけがすべてじゃないとも思います」
「そうですね。縁があっても、自分が繋ごうと思わないと、繋がらない。僕もそう思います。滝川さん」
「は‥‥‥はい」
私は無意識で背筋を伸ばした。
何度も名前を呼んでもらっているのに、いつもと違っていた。ただ名を呼んだだけじゃなくて、声に込められた思いが届いた気がして。
「僕はあなたのことをもっと知りたいと思っています。言葉が丁寧で、落ち着いているのに、時々テンパる姿が好感を持てて。表情がくるくると代わるのが、楽しくて。とてもかわいらしい方だと思います」
そんな風に見ててくれたんだと、嬉しくもあり恥ずかしくあった。
けれど私は目をそらさずに、小野さんの目をまっすぐ見つめた。
小野さんも見つめ返してくれる。
「こんな僕を好きだと言ってくれる。あなたがまだ僕のことを好きでいてくださるのなら、彩綺さん、僕とお付き合いをしていただけないでしょうか」
願ってもない言葉に、涙腺が緩みそうになった。
でも、まだ。まだ泣いちゃダメ。
私も彼への変わらない気持ちを伝えたい。
もう一度告白を。返事はそれから。
「小野さん、私は雨の日にだけ会えるあなたに、恋をしていました。晴れの日が残念で、雨になるとどきどきするなんて、初めての経験でした。植物園の入園料をいただく小窓から、青い傘が見えたら嬉しくて、通り過ぎてしまうと違ったってへこんで」
小窓から、見える淡い青い傘。彼だったらいいな、と願ってどきどきしていたあの頃を思い出す。
「会えない時間が愛を育むってどこかで聞いたことがあって、どういう意味なんだろうって思ってたんです。身をもって体験しました。SNSを見てたり、本を読んでいるのに、突然上の空になって、小野さんのことを考えたりして。その時間がすごく楽しいんですよね。私のことをどう思ってるかな。少しでも好意を持ってくれていたら嬉しいな。期待してクッションを抱きしめたりして、ひとりでキャッキャウフフしてました。あ、気持ち悪くてすみません」
余計な言葉まで伝えてしまった気もするけど、私の飾らない素直な気持ちを、小野さんは優しいまなざしで受け入れてくれる。続きを話して、と。
「告白した時、フラれるなってわかって。あの楽しかった時間を自分で終わらせてしまって、バカだなって思いました。もっと時間をかけて、私のことを知ってもらったほうが良かったんじゃないかなとか、考えました。でも後悔はしませんでした。三年が経って、思いがけない場所であなたの姿を見て、心臓が大変なことになりました」
昨日のばくばくした心臓を思い出して、私は胸の真ん中に両手を当てる。今だって、すごくどきどきしている。
彼を好きになってから、私の心臓は忙しい。大きく跳ねたり、激しく高鳴ったり。
情緒も大きく乱された。
彼を受け入れると、今まで感じたことのない感情も芽生えるのかもしれない。
嫉妬や、苛立ち、怯え、落胆、寂しいなどのマイナスの。
でも、嬉しさや、楽しさ、愛おしさ、高揚感を教えてもらった。
これから、もっとたくさんの感情を教えてもらえるだろう。幸せや、喜びを、一緒に。
「時が経っていても、私はやっぱり小野さんが好きです」
もう一度、好きだと言えた。伝えられるタイミングが訪れたことに、いっぱい感謝したい。
「ずっと、小野さんの近くにいたいです。雨の日だけじゃなくて、晴れの日も、くもりの日も。何があっても、ずっと」
これが私の本心だった。天気に左右されるのなら、左右されない距離にいたい。
小野さんは、そっと瞼を閉じた。私の言葉をかみしめてくれているかのように見えた。
ゆっくりと瞼を開く。血色の良い唇が、言葉をつづる。
「小野俊介にとって、滝川彩綺さんは失いたくない人です。ずっと僕のそばにいてください。そして時がきたら、あなたと家族になりたい」
胸がきゅうと締め付けられた。耐え切れなくて、私の涙腺が崩壊する。
「はい。私も、そう、思っています。心から」
必死で瞼を開き、彼の姿をぼやけた目で捉えようとした。けれど、視界から彼の姿が消えた。
ハンカチを取り出そうとカバンに手をかけた時、頬に柔らかい布の感触がして手を止めた。微かにフローラルな香りが鼻に届く。
隣に人の気配を感じる。
頬を伝う涙と、目元を撫でるように布が当たる。
私はされるがまま、瞼を閉じていた。
布が離れると、指先に温もりを感じた。
彼が私の左手を取っている。
「この手に、また触れられた。触れさせてくれて、ありがとう」
穏かで、落ち着いた声。私は彼の声がとても好き。
重ねられた手は、優しい。
触れたら壊れてしまいそうなものを扱っているかのように、私の左手を包みこむ。
「以前、手に触れてくれた時は、手袋越しでした」
イルミネーションを観に行った時、小野さんの姿を見失った私の手を取ってくれた。
「そうでしたね。あの時は、勇気がいりました。突然触れて、気持ち悪がられたらと」
「小野さんは、一言断ってくれました。突然じゃなかったです」
私は空いている右手を、彼の手に重ねた。
彼の体温を感じる。
「とても嬉しかったんです」
瞼を開き、隣にいる彼を見つめた。
ミステリアスだと思っていた人は、熱いまなざしを私に送ってくれていた。
私のどきどきと、体温の上昇が止まらない。
「僕を好きになってくれてありがとう。あなたを好きにならせてくれてありがとう」
そんな甘い言葉を呟かれたら。
ああ、もう。幸せ過ぎて、失神しそう。
次回⇒35. 始まりの日
「私にとっても、大切な時間でした。植物園は辞めたくなかったです」
「ご自身の未来を考えたんですよね」
私は頷いた。
製菓学校に通いたいと考えた時、植物園で働きながらでも可能だとは思った。
18時で終業して、残業はない。忙しい時間はほとんどないし、お菓子に近い場所にいられる。
なにより、小野さんに会える。
だけど、そんな甘えた環境でいいのかなとも考えた。母は大学に行かなかった分の貯蓄はあると言ってくれたけど、社会人なのに、しかも片親なのに、まだ親に出してもらうの? と叱る声が自分の中から湧き上がった。
足りない分は援助してもらったけど、生活費を母に渡した。これからも、実家にいるなら渡すつもりをしている。
「今のまま、なんとなくで仕事をしていては、自活できないと思いました。母に頼ってばかりじゃいけないなと思って。未来を考えるきっかけになったのは、前職からの誘いでしたけど、小野さんの言葉にも影響を受けています」
「僕、何か言いました?」
小野さんはきょとんと、目を丸くした。
「いずれ家を出ようと思っていると言ってました」
「ああ、あれですか。あれは、滝川さんに向けた言ったわけではないのですけど」
なぜか恥ずかしそうにして、頬をかく。
「もちろん、わかっています。でも、私もいずれ実家を出ないといけないかなって。結婚まではいようと思ってましたけど、結婚だっていつできるかわかりませんし、できないかもしれません。いつかは年を取った母の面倒を見に、実家に戻る可能性もありますけど、それまでは実家を出ようかなと。そのためには、ちゃんと仕事をしないといけない、と考えました」
「そんな気がしていました。僕の言葉のせいだったとは、思ってなかったですけど。そんな時に、僕がいては邪魔になると判断したんです。その判断は間違っていなかったと思います」
「私もそう思います。告白をしてしまったのは、なりゆきで勢い任せだったので、自分でもびっくりしました。だけど、小野さんが誠意を持ってフッてくれて、自分の見る目に自信を持ちました。実際、とても忙しかったので、恋愛に時間も心も割く余裕は、なかったです」
「僕はあの両親の影響で、縁を信じています。縁があれば、手を離してもまた再会できる。できなければ、縁がなかったんだと。これも縁だと思うんですが、滝川さんはどう思われますか?」
「偶然と捉えるか、縁だと捉えるか、ということでしょうか? そうですね、信じたい気持ちはあります。でも縁だけがすべてじゃないとも思います」
「そうですね。縁があっても、自分が繋ごうと思わないと、繋がらない。僕もそう思います。滝川さん」
「は‥‥‥はい」
私は無意識で背筋を伸ばした。
何度も名前を呼んでもらっているのに、いつもと違っていた。ただ名を呼んだだけじゃなくて、声に込められた思いが届いた気がして。
「僕はあなたのことをもっと知りたいと思っています。言葉が丁寧で、落ち着いているのに、時々テンパる姿が好感を持てて。表情がくるくると代わるのが、楽しくて。とてもかわいらしい方だと思います」
そんな風に見ててくれたんだと、嬉しくもあり恥ずかしくあった。
けれど私は目をそらさずに、小野さんの目をまっすぐ見つめた。
小野さんも見つめ返してくれる。
「こんな僕を好きだと言ってくれる。あなたがまだ僕のことを好きでいてくださるのなら、彩綺さん、僕とお付き合いをしていただけないでしょうか」
願ってもない言葉に、涙腺が緩みそうになった。
でも、まだ。まだ泣いちゃダメ。
私も彼への変わらない気持ちを伝えたい。
もう一度告白を。返事はそれから。
「小野さん、私は雨の日にだけ会えるあなたに、恋をしていました。晴れの日が残念で、雨になるとどきどきするなんて、初めての経験でした。植物園の入園料をいただく小窓から、青い傘が見えたら嬉しくて、通り過ぎてしまうと違ったってへこんで」
小窓から、見える淡い青い傘。彼だったらいいな、と願ってどきどきしていたあの頃を思い出す。
「会えない時間が愛を育むってどこかで聞いたことがあって、どういう意味なんだろうって思ってたんです。身をもって体験しました。SNSを見てたり、本を読んでいるのに、突然上の空になって、小野さんのことを考えたりして。その時間がすごく楽しいんですよね。私のことをどう思ってるかな。少しでも好意を持ってくれていたら嬉しいな。期待してクッションを抱きしめたりして、ひとりでキャッキャウフフしてました。あ、気持ち悪くてすみません」
余計な言葉まで伝えてしまった気もするけど、私の飾らない素直な気持ちを、小野さんは優しいまなざしで受け入れてくれる。続きを話して、と。
「告白した時、フラれるなってわかって。あの楽しかった時間を自分で終わらせてしまって、バカだなって思いました。もっと時間をかけて、私のことを知ってもらったほうが良かったんじゃないかなとか、考えました。でも後悔はしませんでした。三年が経って、思いがけない場所であなたの姿を見て、心臓が大変なことになりました」
昨日のばくばくした心臓を思い出して、私は胸の真ん中に両手を当てる。今だって、すごくどきどきしている。
彼を好きになってから、私の心臓は忙しい。大きく跳ねたり、激しく高鳴ったり。
情緒も大きく乱された。
彼を受け入れると、今まで感じたことのない感情も芽生えるのかもしれない。
嫉妬や、苛立ち、怯え、落胆、寂しいなどのマイナスの。
でも、嬉しさや、楽しさ、愛おしさ、高揚感を教えてもらった。
これから、もっとたくさんの感情を教えてもらえるだろう。幸せや、喜びを、一緒に。
「時が経っていても、私はやっぱり小野さんが好きです」
もう一度、好きだと言えた。伝えられるタイミングが訪れたことに、いっぱい感謝したい。
「ずっと、小野さんの近くにいたいです。雨の日だけじゃなくて、晴れの日も、くもりの日も。何があっても、ずっと」
これが私の本心だった。天気に左右されるのなら、左右されない距離にいたい。
小野さんは、そっと瞼を閉じた。私の言葉をかみしめてくれているかのように見えた。
ゆっくりと瞼を開く。血色の良い唇が、言葉をつづる。
「小野俊介にとって、滝川彩綺さんは失いたくない人です。ずっと僕のそばにいてください。そして時がきたら、あなたと家族になりたい」
胸がきゅうと締め付けられた。耐え切れなくて、私の涙腺が崩壊する。
「はい。私も、そう、思っています。心から」
必死で瞼を開き、彼の姿をぼやけた目で捉えようとした。けれど、視界から彼の姿が消えた。
ハンカチを取り出そうとカバンに手をかけた時、頬に柔らかい布の感触がして手を止めた。微かにフローラルな香りが鼻に届く。
隣に人の気配を感じる。
頬を伝う涙と、目元を撫でるように布が当たる。
私はされるがまま、瞼を閉じていた。
布が離れると、指先に温もりを感じた。
彼が私の左手を取っている。
「この手に、また触れられた。触れさせてくれて、ありがとう」
穏かで、落ち着いた声。私は彼の声がとても好き。
重ねられた手は、優しい。
触れたら壊れてしまいそうなものを扱っているかのように、私の左手を包みこむ。
「以前、手に触れてくれた時は、手袋越しでした」
イルミネーションを観に行った時、小野さんの姿を見失った私の手を取ってくれた。
「そうでしたね。あの時は、勇気がいりました。突然触れて、気持ち悪がられたらと」
「小野さんは、一言断ってくれました。突然じゃなかったです」
私は空いている右手を、彼の手に重ねた。
彼の体温を感じる。
「とても嬉しかったんです」
瞼を開き、隣にいる彼を見つめた。
ミステリアスだと思っていた人は、熱いまなざしを私に送ってくれていた。
私のどきどきと、体温の上昇が止まらない。
「僕を好きになってくれてありがとう。あなたを好きにならせてくれてありがとう」
そんな甘い言葉を呟かれたら。
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