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24. デート後半戦

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「ごちそうさまでした」
 美味しいケーキとプレートのデコレーションを堪能した私たち。会話はあまりしなかったけれど、間が持たない、話をしなければ、と思わなかった。ケーキに熱中する姿は、私たちには正解だと思った。

 周りを見渡すと、女性客やカップル客が話に花を咲かせていて、店内は賑やかだった。

「少し失礼します」
 小野さんが席を立った。

 私は紅茶を飲みながら、幸せに浸っていた。美味しかったケーキと、小野さんと一緒に時間を過ごせていることに。

「お待たせしました」
 しばらくして戻ってきた小野さんは、紙袋を持っていた。ご両親へのお土産かな。
 微笑ましい気持ちになった。私もお母さんに買って帰ろう。

「私も、すみません」
「はい。どうぞ」

 席を離れて、母用のケーキを2種類、プリンとフルーツタルトを箱に入れてもらう。
 ふと思い立って、小野さんへのお土産を追加した。キャラメルパウンドケーキがとても美味しそうだったから。

 席に戻ろうとして、会計を一緒にすればよかったと思った。今日はお礼をするのだから、私が全部出すつもりだった。でも男性が女性におごられるのは恥ずかしいかもしれないと考えて、こっそり会計をしようと思っていた。

 レジに戻って、着席していたテーブルの料金を払いたいと伝えると、顔を上げたスタッフさんから告げられた言葉に驚いて、慌てて席に戻った。

「あの、小野さん、お会計‥‥‥」
「先に済ませました」

「お礼をしたかったので、私が払おうと思ってたんです」
「お礼はいいですと、メッセージに送りました。本は僕が貸したくてお貸ししているんですから、気にしないでください」

「でも‥‥‥」
「夜の営業をしている美味しいケーキ屋さんに連れてきてもらったお礼です。受け取っていただけると、嬉しいのですが」

 そう言われてしまっては、いつまでも遠慮しているのも気が引けて、
「ごちそうさまでした」
 私は素直にお礼の言葉を伝えて、ごちそうになった。

「荷物になりますけど、こちらお持ちになってください。皆さんで食べてもらえたらと思って。キャラメルパウンドケーキです」

 レジで入れてもらった紙袋を差し出すと、小野さんは目を丸くしてきょとんとした顔をした

「え? なにか?」
「実は、僕も」

 と言いながら、さっき手にしていた紙袋を私に差し出してくる。

「キャラメルパウンドケーキが美味しそうだったので、滝川さんへのお土産にと思って買ったんです」

 私たちは驚いて見つめ合ったあと、どちらからともなく、くすくすと笑った。

 その後、中身は同じ物だけど、と言いながら互いの紙袋を交換した。
 コートを着て、マフラーと手袋をして、お店を出る。
 駅に向かう前に、私は小野さんに寄り道をしませんかと提案した。

「近くの公園でイルミネーションをしているらしいんです。せっかくだから、観に行きませんか?」
「イルミネーションですか。いいですね。滝川さんのお時間が大丈夫でしたら、行きましょう」

 私たちは来た道とは違う方に向かう。

 野球のグラウンドの手前にある遊歩道からイルミネーションはスタートしていた。
 白い電飾が遊歩道に沿って設置されていて、まるで川のように見える。
 樹々を彩る青い電飾、ところどころにトナカイや雪だるまが置いてあり、ほのぼのとした雰囲気が漂っている。
 一番の見せ場は、ツリーの電飾だった。ゴールドが眩しく光り輝き、頂点には星が燦然と輝いている。

 観客から「わー」と感嘆と溜め息が零れている。
 私もツリーの美しさに、しばらく見惚れていた。

「写真は、撮らないんですか?」
 小野さんに訊かれて、

「これは、心にしまっておきます」
 私はそう答えた。

 公園の出口に向かうと、先は住宅街になっていて、通りの左右にある住宅でも、電飾の飾り付けがされていた。
 小野さんと私は、自然に通りに足を向けていた。

「各家の個性が出ていて、おもしろいですね」

 二階のベランダから小さなサンタがはしごを登っていたり、たくさんの雪だるまが庭に並んでいたり、家全体が電飾に覆われて派手だったり。まるでテーマパークに来たみたい。

「僕、イルミネーションを見に来たことがないんです。おもしろいですね」
「私も、実は初めてなんです」

「そうでしたか。お互い良い初体験になりましたね」
「とても楽しい思い出になりそうです」

 うふふと笑い合う。小野さんの顔は見えないけれど、声が楽しそう。
 私だってうきうきしている。

 イルミネーションの家々はその通りだけで、他は普通の住宅街らしく、暗闇に覆われている。

 来た道を引き返そうと、振り返って、
「あ、ごめんなさい」
 人とぶつかりそうになった。

 一方通行じゃないから、気をつけないといけなかった。

 ぶつかりかけた人に道を譲ると、小野さんの姿を見失った。
 暗くてよく見えない中、私より背が高くて、めがねをかけていて、と小野さんらしい特徴を捜していると、

「手を、失礼します」
 耳の近くで声が聞こえて、

「あ‥‥‥」
 手袋をした右手に、人の手の感触。

「迷子になりそうなので、失礼を承知で手を取りました。大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫、です」

 内心どきどきしている。とても。
 心臓がばくばくと音を立てて、高鳴っている。
 激しい脈動が手から伝わってしまわないか、とてもとても気になった。



   次回⇒25. 告白
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