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23. ケーキ屋デート
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未来を考えて悩んだ末に決断した私は、母に報告し、高村歯科医院にも連絡をすませた。
それから、小野さんにメッセージを送った。
『本のお礼をしたいので、夜の営業をしているケーキ屋さんに行きませんか』と。
美鈴さんが教えてくれたお店で、イートインもできるケーキ屋さん。朝が苦手だという美鈴さんの先輩がオーナーパティシエで、14時~21時の営業をしていた。
夜なら小野さんが外出できるし、お店で食べられるなら、ケーキや本の感想を話せる時間が過ごせるかもと期待した。
小野さんからの返事が届いたのは、三時間後だった。
迷惑だったかな、メッセージを削除しようか、と悩みかけていたタイミングだった。
どきどきしながら、震える指先で小野さんのメッセージを開く。
『返信が遅くなってすみません。お礼は気にしなくていいですが、すてきなケーキ屋さんに興味があります。ぜひ一緒に行きましょう』
「やった!」
スマホを放り出して、クッションを強く抱きしめた。
デートだよね。デートのOKをもらえたんだよね。
しばらく喜びに浸ったあと、返事を送って、日時を決めた。
デートの日を迎え、私はおしゃれをして出勤した。
全体は落ち着いたピンク色のワンピースで、襟と袖が色。襟は大きいのがレトロでかわいい。胸の下で茶色のベルトを締めて、下はフレアスカートになっている。
くつは茶色のショートブーツを合わせた。
この日のために忙しい那美ちゃんに付き合ってもらって、服屋さんをはしごした。
朝、美鈴さんからも、かわいいと言ってもらえた。
今日の空はくもり。快晴じゃなくて良かったと、ほっとしている。
待ち合わせの時間は18時。掃除や後片付けを終え、着替えて喫茶店の扉を開けると、小野さんがすでに待っていた。
「こんばんは」
小野さんが白い息を吐いて、ぴょんと頭を下げた。
「こんばんは。お待たせしました」
「いえ、今来たところです」
挨拶を交わし合う。今日は傘がない。傘を持つ姿を見慣れているせいか、青色がないのが少し寂しく思える。
戸締り中の美鈴さんが、「忘れ物をしたから、先に行って」と言って喫茶店に戻ってしまった。
美鈴さんが気を使ってくれたのだとわかったので、私たちは行きましょうかと足を動かした。
目的のお店は五駅先。夕食はとらずに、ケーキ屋さんに直行する。
小野さんとどうしようかとなった時、ケーキが目的なので、ご飯はいらない、とすぐに結論がでた。
お店はマンションの一階部分にあった。Bonne soiree(ボンヌ ソワレ)という店名で、フランス語で『良い夜を』を意味する挨拶なんだと、小野さんが調べて教えてくれた。
以前はコンビニでもあったのか、前面ガラス張りで、店内がよく見える。
入ってすぐにショーケースがあって、ケーキセット3種プレートを注文して、ケーキを選んでから席に案内された。
「悩んじゃいました」
「僕もです。この時間なのに種類が豊富で。夜しか外出できない僕にはとても嬉しいことです」
小野さんは照れたような笑みを見せた。
おまたせいたしましたの声とともに、ケーキプレートが届く。
私は感嘆の声を上げた。
3種のケーキが乗るお皿に、クリスマスが溢れていた。
緑のチョコペンでメリークリスマスと書いてあり、お皿のふちにはチョコで描かれた雪の結晶。
チョコプレートにはソリを引くサンタの姿。
「かわいい。写真撮っていいですか? インスタに上げてもいいですか?」
紅茶の準備をしてくれている店員さんから許可を得て、私は角度を変えた写真を何枚か撮る。
「滝川さんは、インスタグラムされてるんですね」
話しかけられて、小野さんを置き去りにしていたことに気がついた。
「ごめんなさい。つい夢中になっちゃって」
慌ててスマホから顔を上げる。
「いえ。ステキなプレートですから、気持ちはわかります。僕も資料用に一枚撮りましたから」
小野さんが、画面を私に向けて、撮影した画像を見せてくれた。
「とてもかわいいですよね。こんな風に描けたらなあって憧れます。食べちゃうのがもったいないです」
かわいくて、ついぼーっとお皿を見つめていると、
「僕はいただきますよ」
小野さんが手を合わせていた。
「もちろん、私もいただきます」
私も手を合わせて、フォークを取った。
私たちは同じ商品を注文していた。ドリンクは紅茶。
私が選んだケーキは、イチゴのタルト・雪だるまのレアチーズケーキ・キャラメルロールケーキ。
小野さんはガトーショコラ・生クリームのロールケーキ・イチゴのミルフィーユ。
フォークとスプーンを使って迷いなくミルフィーユをそっと倒したのを見て、(勇者だ!)と思ったのは秘密。
私はミルフィーユ大好きだけど、外では食べない。特に小野さんとの初めてのデートで、汚い食べ方になったら恥ずかしいもん。
次回⇒24. デート後半戦
それから、小野さんにメッセージを送った。
『本のお礼をしたいので、夜の営業をしているケーキ屋さんに行きませんか』と。
美鈴さんが教えてくれたお店で、イートインもできるケーキ屋さん。朝が苦手だという美鈴さんの先輩がオーナーパティシエで、14時~21時の営業をしていた。
夜なら小野さんが外出できるし、お店で食べられるなら、ケーキや本の感想を話せる時間が過ごせるかもと期待した。
小野さんからの返事が届いたのは、三時間後だった。
迷惑だったかな、メッセージを削除しようか、と悩みかけていたタイミングだった。
どきどきしながら、震える指先で小野さんのメッセージを開く。
『返信が遅くなってすみません。お礼は気にしなくていいですが、すてきなケーキ屋さんに興味があります。ぜひ一緒に行きましょう』
「やった!」
スマホを放り出して、クッションを強く抱きしめた。
デートだよね。デートのOKをもらえたんだよね。
しばらく喜びに浸ったあと、返事を送って、日時を決めた。
デートの日を迎え、私はおしゃれをして出勤した。
全体は落ち着いたピンク色のワンピースで、襟と袖が色。襟は大きいのがレトロでかわいい。胸の下で茶色のベルトを締めて、下はフレアスカートになっている。
くつは茶色のショートブーツを合わせた。
この日のために忙しい那美ちゃんに付き合ってもらって、服屋さんをはしごした。
朝、美鈴さんからも、かわいいと言ってもらえた。
今日の空はくもり。快晴じゃなくて良かったと、ほっとしている。
待ち合わせの時間は18時。掃除や後片付けを終え、着替えて喫茶店の扉を開けると、小野さんがすでに待っていた。
「こんばんは」
小野さんが白い息を吐いて、ぴょんと頭を下げた。
「こんばんは。お待たせしました」
「いえ、今来たところです」
挨拶を交わし合う。今日は傘がない。傘を持つ姿を見慣れているせいか、青色がないのが少し寂しく思える。
戸締り中の美鈴さんが、「忘れ物をしたから、先に行って」と言って喫茶店に戻ってしまった。
美鈴さんが気を使ってくれたのだとわかったので、私たちは行きましょうかと足を動かした。
目的のお店は五駅先。夕食はとらずに、ケーキ屋さんに直行する。
小野さんとどうしようかとなった時、ケーキが目的なので、ご飯はいらない、とすぐに結論がでた。
お店はマンションの一階部分にあった。Bonne soiree(ボンヌ ソワレ)という店名で、フランス語で『良い夜を』を意味する挨拶なんだと、小野さんが調べて教えてくれた。
以前はコンビニでもあったのか、前面ガラス張りで、店内がよく見える。
入ってすぐにショーケースがあって、ケーキセット3種プレートを注文して、ケーキを選んでから席に案内された。
「悩んじゃいました」
「僕もです。この時間なのに種類が豊富で。夜しか外出できない僕にはとても嬉しいことです」
小野さんは照れたような笑みを見せた。
おまたせいたしましたの声とともに、ケーキプレートが届く。
私は感嘆の声を上げた。
3種のケーキが乗るお皿に、クリスマスが溢れていた。
緑のチョコペンでメリークリスマスと書いてあり、お皿のふちにはチョコで描かれた雪の結晶。
チョコプレートにはソリを引くサンタの姿。
「かわいい。写真撮っていいですか? インスタに上げてもいいですか?」
紅茶の準備をしてくれている店員さんから許可を得て、私は角度を変えた写真を何枚か撮る。
「滝川さんは、インスタグラムされてるんですね」
話しかけられて、小野さんを置き去りにしていたことに気がついた。
「ごめんなさい。つい夢中になっちゃって」
慌ててスマホから顔を上げる。
「いえ。ステキなプレートですから、気持ちはわかります。僕も資料用に一枚撮りましたから」
小野さんが、画面を私に向けて、撮影した画像を見せてくれた。
「とてもかわいいですよね。こんな風に描けたらなあって憧れます。食べちゃうのがもったいないです」
かわいくて、ついぼーっとお皿を見つめていると、
「僕はいただきますよ」
小野さんが手を合わせていた。
「もちろん、私もいただきます」
私も手を合わせて、フォークを取った。
私たちは同じ商品を注文していた。ドリンクは紅茶。
私が選んだケーキは、イチゴのタルト・雪だるまのレアチーズケーキ・キャラメルロールケーキ。
小野さんはガトーショコラ・生クリームのロールケーキ・イチゴのミルフィーユ。
フォークとスプーンを使って迷いなくミルフィーユをそっと倒したのを見て、(勇者だ!)と思ったのは秘密。
私はミルフィーユ大好きだけど、外では食べない。特に小野さんとの初めてのデートで、汚い食べ方になったら恥ずかしいもん。
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