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18. オススメの本
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リビングに戻ってきた小野さんは、手に数冊の本を持っていた。
てっきり文庫だと思い込んでいたけれど、写真集のような大きな本もあった。
「滝川さんに、小さい頃の俊介を見ていただこうと思ったの」
「誰も得しないから、見せなくていいよ」
「可愛いい姿を見て喜ばない人はいないわよ」
「喜ぶのは父さんと母さんだけだから。ご迷惑ですよね。すみません」
後半に私に向けられた。
見たいです! と思っていても言えないので、私は曖昧に微笑む。
夫人は「仕方ないわね」と諦めてしまった。
私も残念。
「それで、滝川さんにお薦めする、良い本は見つかったの?」
「あまり読まないとおっしゃっていたので、読みやすいものをと思ってショートショート集と、短編集、大人も楽しめる児童書、それと写真集を持ってきました」
小野さんが、本をローテーブルに並べていく。文庫が2冊ともう少し大きな本が1冊、大きな本は写真集だった。
「写真集は読書に入れていいんですか?」
不思議に思って訊ねる。
「読書というより鑑賞に当たるかと思いますが、入口はなんでもいいと僕は思っているんです。これは北海道の景色。美しくて幻想的だと思いませんか?」
写真集のページを開いて見せてくれる。
白銀の世界に佇む林。
紫色のラベンダーが一面に咲く丘。
「とてもきれいです」
「こんな美しい景色が日本にあるんですよ。見ているだけでも楽しいと思いませんか?」
小野さんの口調が、熱を帯びる。彼の好きが伝わってくる。
「癒やされますね」
「これで北海道に興味を持つと、旅行記や北海道を舞台にした小説を読みたいと思うかもしれません。北海道出身の作家を読んでみるのもいいですね」
「小野さんの考え方は興味深いです。私、関連付けて考えたことがなかったので。読み終わったらそれで終わらせていました」
「作家読みや、同じジャンルで検索すると、オススメ10選みたいなサイトもあるので、お気に入りが見つかったら、ぜひ探してみてください。図書館にあるかもしれませんし、うちにもあるかもです」
「それも楽しそうです。じゃあ先にこちらお借りして読んでみます。早く読めないかもですけど」
「滝川さんのペースでかまいません。読書の時間を楽しんでください」
小野さん笑顔が活き活きしている。本が好きなんだというのが、伝わってきた。
本をきっかけにあなたとの距離も縮まるといいなあと思うのは、下心がありすぎかな。
「小野さんが書いた本も読んでみたいんですが」
気になっていたから、踏み込んでみる。作家さんなら喜んでくれるかも。と思ったんだけれど、小野さんは困ったような顔をした。
どうして? 地雷踏んだ!?
「顔見知りに読まれるのは恥ずかしいので、遠慮します」
ええ! 恥ずかしがるような内容なの?
「俊介は、私たちにもペンネームを教えてくれないのよ。本名でないことはたしかだけど、近いペンネームなのかも教えてくれないの」
夫人が子供のように唇を尖らせた。
両親にも秘密にしているなんて。
「小野さんが書かれた本を、読みたいです」
おねだりしてみたけれど、
「すみません」
謝られてしまった。
両親にも教えてないなら、私に教えてくれるわけがない。
「わかりました」
私はおとなしく引き下がることにした。
次回⇒19. 彼の人柄
てっきり文庫だと思い込んでいたけれど、写真集のような大きな本もあった。
「滝川さんに、小さい頃の俊介を見ていただこうと思ったの」
「誰も得しないから、見せなくていいよ」
「可愛いい姿を見て喜ばない人はいないわよ」
「喜ぶのは父さんと母さんだけだから。ご迷惑ですよね。すみません」
後半に私に向けられた。
見たいです! と思っていても言えないので、私は曖昧に微笑む。
夫人は「仕方ないわね」と諦めてしまった。
私も残念。
「それで、滝川さんにお薦めする、良い本は見つかったの?」
「あまり読まないとおっしゃっていたので、読みやすいものをと思ってショートショート集と、短編集、大人も楽しめる児童書、それと写真集を持ってきました」
小野さんが、本をローテーブルに並べていく。文庫が2冊ともう少し大きな本が1冊、大きな本は写真集だった。
「写真集は読書に入れていいんですか?」
不思議に思って訊ねる。
「読書というより鑑賞に当たるかと思いますが、入口はなんでもいいと僕は思っているんです。これは北海道の景色。美しくて幻想的だと思いませんか?」
写真集のページを開いて見せてくれる。
白銀の世界に佇む林。
紫色のラベンダーが一面に咲く丘。
「とてもきれいです」
「こんな美しい景色が日本にあるんですよ。見ているだけでも楽しいと思いませんか?」
小野さんの口調が、熱を帯びる。彼の好きが伝わってくる。
「癒やされますね」
「これで北海道に興味を持つと、旅行記や北海道を舞台にした小説を読みたいと思うかもしれません。北海道出身の作家を読んでみるのもいいですね」
「小野さんの考え方は興味深いです。私、関連付けて考えたことがなかったので。読み終わったらそれで終わらせていました」
「作家読みや、同じジャンルで検索すると、オススメ10選みたいなサイトもあるので、お気に入りが見つかったら、ぜひ探してみてください。図書館にあるかもしれませんし、うちにもあるかもです」
「それも楽しそうです。じゃあ先にこちらお借りして読んでみます。早く読めないかもですけど」
「滝川さんのペースでかまいません。読書の時間を楽しんでください」
小野さん笑顔が活き活きしている。本が好きなんだというのが、伝わってきた。
本をきっかけにあなたとの距離も縮まるといいなあと思うのは、下心がありすぎかな。
「小野さんが書いた本も読んでみたいんですが」
気になっていたから、踏み込んでみる。作家さんなら喜んでくれるかも。と思ったんだけれど、小野さんは困ったような顔をした。
どうして? 地雷踏んだ!?
「顔見知りに読まれるのは恥ずかしいので、遠慮します」
ええ! 恥ずかしがるような内容なの?
「俊介は、私たちにもペンネームを教えてくれないのよ。本名でないことはたしかだけど、近いペンネームなのかも教えてくれないの」
夫人が子供のように唇を尖らせた。
両親にも秘密にしているなんて。
「小野さんが書かれた本を、読みたいです」
おねだりしてみたけれど、
「すみません」
謝られてしまった。
両親にも教えてないなら、私に教えてくれるわけがない。
「わかりました」
私はおとなしく引き下がることにした。
次回⇒19. 彼の人柄
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