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13. ミステリアス?
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数日後の雨の日の夕方、小野様は来園された。
植物園を見学の後、喫茶にやってくる。
今日は何を注文するんだろう。
注文を取りに行く美鈴さんとのやり取りに、耳をそばだてる。
「スフレチーズケーキのセットと、カフェオレをお願いします」
この間オススメしたケーキを覚えていてくれたんだ。
感激してちらりと小野様を見ると、彼も私に視線をくれていた。
目が合って、互いに軽く頭を下げる。
もちろん、私の心臓はばくばくしている。
美鈴さんが給仕をしたスフレチーズケーキを食べた小野様は、口角を上げた。
スフレチーズケーキは口の中で泡のようにしゅわしゅわと溶ける。その食感を好まれる方が多く、リピーターがついている商品。
小野様も満足したらしく、一口一口を大切そうにゆっくりと食べていた。
食べ終わって少ししてから、私が片付けに向かうと、
「オススメのケーキ、とても美味しかったです」
と声を掛けてくれた。
「お口に合って良かったです。オーナーのレシピだそうですよ」
「オーナーさんの? ここの土地は松原さんの邸宅があったと思うのですが」
「オーナーは松原不動産の会長夫人です」
「ああ、おばあさんが土地を相続なさったんですね。すごく上品な方ですけど、深窓の令嬢のような雰囲気をお持ちだから、料理をされるイメージはなかったな」
「お知り合いなんですか?」
「顔を知っている程度ですけどね。僕の家は近くにあるので、子どもの頃からここの前を通っているんです。十年ぐらい前まで、立派な日本家屋が建っていたんですよ」
「お屋敷が建っていたんだろうなと思っていたんですが、日本家屋があったんですね」
「住んでいた松原さんが亡くなられて、何年か無人だったんです。取り壊された時は少し残念に思いましたが、人が住まないと家屋は傷みますからね」
「日本家屋がお好きなんですか」
「建物が好きというより、雰囲気がすごく良かったんですよ。味があったというか。入母屋造の瓦屋根、濡れ縁の前には庭があって、とても趣のあるお屋敷だったんです」
いりも……? ぬれえん‥‥‥? 庭しかわからなくて、私の頭にハテナが浮かぶ。
顔にも出してしまっていたようで、
「すみません、わかりませんよね」
小野様を謝らせてしまった。
「あ、いえ。詳しいんですね」
「仕事柄、調べる癖がついているだけです。お仕事中に引き留めてしまってすみません」
「いいえ。私こそ、小野様のお時間を使ってしまって。今日は何の本なんですか?」
「サスペンスです」
「ハラハラしそうですね。ごゆっくりお楽しみください」
カフェオレの入ったカップ以外を片付けてキッチンに持って行くと、
「雨の君といつの間に仲良くなったの?」
目を丸くした美鈴さんに訊ねられた。
「美鈴さんが早く上がられた日です。和菓子セットを注文されて、どら焼きを気に入ってくれて、オススメを訊かれたんです」
「それで、今日はケーキセットの注文だったのね。初めてだったから、びっくりしたのよ」
「甘い物が好きだけど、食べ過ぎないように気をつけてるって、おっしゃっていました」
「そうなんだ。ミステリアスな仮面が少し剥がれたね」
「以外にミステリアスじゃないのかもしれませんよ」
「まあそうね。お客さんのことは私たちが知りようないもんね。高級住宅街だから、資産家っぽい人ばかりで、みんなミステリアスよね」
美鈴さんはひとりでふむふむと納得している。
でも、小野様には雨の日にしか来園しないという、他の人にはない謎があった。
次回⇒14. 本と飲み物
植物園を見学の後、喫茶にやってくる。
今日は何を注文するんだろう。
注文を取りに行く美鈴さんとのやり取りに、耳をそばだてる。
「スフレチーズケーキのセットと、カフェオレをお願いします」
この間オススメしたケーキを覚えていてくれたんだ。
感激してちらりと小野様を見ると、彼も私に視線をくれていた。
目が合って、互いに軽く頭を下げる。
もちろん、私の心臓はばくばくしている。
美鈴さんが給仕をしたスフレチーズケーキを食べた小野様は、口角を上げた。
スフレチーズケーキは口の中で泡のようにしゅわしゅわと溶ける。その食感を好まれる方が多く、リピーターがついている商品。
小野様も満足したらしく、一口一口を大切そうにゆっくりと食べていた。
食べ終わって少ししてから、私が片付けに向かうと、
「オススメのケーキ、とても美味しかったです」
と声を掛けてくれた。
「お口に合って良かったです。オーナーのレシピだそうですよ」
「オーナーさんの? ここの土地は松原さんの邸宅があったと思うのですが」
「オーナーは松原不動産の会長夫人です」
「ああ、おばあさんが土地を相続なさったんですね。すごく上品な方ですけど、深窓の令嬢のような雰囲気をお持ちだから、料理をされるイメージはなかったな」
「お知り合いなんですか?」
「顔を知っている程度ですけどね。僕の家は近くにあるので、子どもの頃からここの前を通っているんです。十年ぐらい前まで、立派な日本家屋が建っていたんですよ」
「お屋敷が建っていたんだろうなと思っていたんですが、日本家屋があったんですね」
「住んでいた松原さんが亡くなられて、何年か無人だったんです。取り壊された時は少し残念に思いましたが、人が住まないと家屋は傷みますからね」
「日本家屋がお好きなんですか」
「建物が好きというより、雰囲気がすごく良かったんですよ。味があったというか。入母屋造の瓦屋根、濡れ縁の前には庭があって、とても趣のあるお屋敷だったんです」
いりも……? ぬれえん‥‥‥? 庭しかわからなくて、私の頭にハテナが浮かぶ。
顔にも出してしまっていたようで、
「すみません、わかりませんよね」
小野様を謝らせてしまった。
「あ、いえ。詳しいんですね」
「仕事柄、調べる癖がついているだけです。お仕事中に引き留めてしまってすみません」
「いいえ。私こそ、小野様のお時間を使ってしまって。今日は何の本なんですか?」
「サスペンスです」
「ハラハラしそうですね。ごゆっくりお楽しみください」
カフェオレの入ったカップ以外を片付けてキッチンに持って行くと、
「雨の君といつの間に仲良くなったの?」
目を丸くした美鈴さんに訊ねられた。
「美鈴さんが早く上がられた日です。和菓子セットを注文されて、どら焼きを気に入ってくれて、オススメを訊かれたんです」
「それで、今日はケーキセットの注文だったのね。初めてだったから、びっくりしたのよ」
「甘い物が好きだけど、食べ過ぎないように気をつけてるって、おっしゃっていました」
「そうなんだ。ミステリアスな仮面が少し剥がれたね」
「以外にミステリアスじゃないのかもしれませんよ」
「まあそうね。お客さんのことは私たちが知りようないもんね。高級住宅街だから、資産家っぽい人ばかりで、みんなミステリアスよね」
美鈴さんはひとりでふむふむと納得している。
でも、小野様には雨の日にしか来園しないという、他の人にはない謎があった。
次回⇒14. 本と飲み物
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