【完結】雨の日に会えるあなたに恋をした。 第7回ほっこりじんわり大賞奨励賞受賞

衿乃 光希

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3. 8月 お菓子作り

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 残暑厳しい8月下旬。

 エアコンを稼働させた快適なキッチンで、私は鼻歌を歌う。ミディアムショートをゴムでひとつにくくりながら。

 今日は母の誕生日。好物のラムレーズンサンドを手作りしようと思っていた。

 まずはクッキー生地作りから。
 室温に戻したバターをゴムベラで練り、グラニュー糖と塩を加えて混ぜる。
 ゴムベラから泡立て器に持ち替えて、白っぽくなるまで練ってから、卵黄を投入。
 しっかり混ぜて乳化させてから、アーモンドプードル・ふるっておいた薄力粉を加える。

 粉っぽさがなくなるまで、切るように混ぜて、
「最後は、手で押さえる」
 のが私のやり方。
 まとまったら、ラップで挟んで、冷蔵庫へ。一時間冷やし固める。

 クッキー生地を作る時に分けておいた卵白をボウルに入れて、ラップを張り、これも冷蔵庫へ。

 お菓子作りは趣味で、失敗をしながらもいろいろと作ってきた。
 クッキー、ロールケーキ、プリン、シフォンケーキなどなど。

 ラムレーズンサンドを作るのは初めて。数日前から様々なレシピサイトを見て、勉強をした。

 お菓子を作っている時が、一番楽しい。うまくできるかなあと期待が膨らむ。
 食べてくれた人が美味しい顔で頬張ってくれるのが、なにより楽しい瞬間。
 怒っていても、悲しいことがあっても、お菓子はみんなを笑顔にする。美味しい物は正義だ。

 紅茶を飲みながら、お菓子作りの動画を見て時間を待ち、冷やしたクッキー生地を取り出す。
 アクリルルーラーを使って、めん棒で伸ばして、生地の厚みを均一にする。もう一度冷蔵庫へ。

 お菓子作りは手間と時間がかかるし、後片付けもしないといけない。
 だからなのか手作りお菓子をあげると、ほとんどの人からすごいねと言われる。
 私はそんなにすごいことだと思わない。ただの趣味で気軽に作っているだけから。

 でも、プロはすごいと思う。何十種類もあるケーキを作って店頭に並べて、お客さんの目と舌を楽しませている。
 表からは見えない努力と苦労で技術を習得し、美味しいものが出来上がる。
 私はパティシエたちを心から尊敬している。
 憧れるけれど、私は趣味で、満足かな。

 固まった生地に包丁を入れて、長方形にカット。これを天板に移して予熱をしたオーブンで焼き上げる。
「15分くらいかな」
 焼き上がったら、冷めるのを待つ。熱いと、これから作るクリームを挟めない。

 その間に、バタークリーム作り。
 お鍋に水とグラニュー糖を入れて煮詰めて、シロップを作る。
 冷蔵庫から卵白を取り出し、メレンゲ作り。

 ハンドミキサーを低速で混ぜて、白っぽくなったらさっき作ったシロップを少しずつ投入。
 メレンゲが温まって、ツノが立ったら、メレンゲの完成。

 常温に戻した無塩バターにメレンゲ加えて混ぜて、50度のお湯で融かしたホワイトチョコと塩をひとつまみ。
 最後にラムレーズンの汁気をとって投入。

 ラムレーズンは昨日のうちに仕込んでおいた。
 水とグラニュー糖を沸騰させて、レーズンを入れて煮詰めてから、ラム酒を加えたものを冷蔵庫の奥に。
 たぶん母には見つかっていないはず。

 出来上がったバタークリームは、冷蔵庫で冷やしておく。
 クッキーが冷めたのを確認して、バタークリームを冷蔵庫から取り出した。
 
 クッキーにバタークリームをのせて、もう一枚のクッキーでサンド。
 8個作って、再び冷蔵庫へ。

 少し固まった頃に冷蔵庫から取り出し、バタークリームをスプーンの裏できれいに整えて、
「完成」
 見た目から美味しそうなラムレーズンサンドが出来上がった。

 バターとラム酒のいい香りが、部屋中に漂っている。
 透明袋に入れて、シーラーで閉じて、再び冷蔵庫へ。

 出来上がりをすぐに食べられるのが手作りの一番の楽しみで、味見もしたい。
 だけど、これは母にプレゼントするものだから。
 私は食べたい気持ちを堪えて、母の帰宅を待った。



   次回⇒4.バリキャリ母
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