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第四話 大澤香 ~迷いのち覚悟~
ピアノ
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道行く人々の耳目を集め、心を揺さぶる、高い演奏力。深く込められた感情。
生まれ持った才能や環境が大きな影響を与えてきただろうが、香さん自身の努力がないと辿り着けないものだ。
迷い、悩み、葛藤し、苦しみ。そして続けることの大切さを知り、己を信じ、決断し、覚悟を決めた。
華やかな見た目、奔放な性格だが、彼女は迷いながらしっかりと考えている。
よりよくするためには、どうすればいいのだろうかと。
ベートーヴェン悲愴第二楽章と第三楽章を弾き終えた香さんは、すっきりした面持ちをしていた。
蓮音くんも含め湧き上がった拍手に何度か頭を下げ、席を立つ。
「あ、今日予約入ってるみたい。十一時からだって」
香さんが予約の書かれた看板に目を止めた。
「ほんとだ。誰か来るのかな。僕の取材の時も看板が立っていましたよ」
「あと一時間くらいだし、お茶してから戻って来ようよ。お祖父ちゃんたちとの約束にも間に合うだろうし」
「僕は時間あるので、一人でも戻ってきますよ」
「せっかくだし蓮音くんも来てよ。久しぶり過ぎて、お祖父ちゃんたちと何を話せばいいのかわかんないし。結婚するんだったらきちんと挨拶に来いだなんて面倒なこと言い出して」
「お相手の話をすればいいんですよ。友達のお墓参りに行った響子さんも、戻って来るんでしょう」
「その予定だけどさ――」
香さんと蓮音くんは、話をしながら地下街に向かって行った。
生まれ持った才能や環境が大きな影響を与えてきただろうが、香さん自身の努力がないと辿り着けないものだ。
迷い、悩み、葛藤し、苦しみ。そして続けることの大切さを知り、己を信じ、決断し、覚悟を決めた。
華やかな見た目、奔放な性格だが、彼女は迷いながらしっかりと考えている。
よりよくするためには、どうすればいいのだろうかと。
ベートーヴェン悲愴第二楽章と第三楽章を弾き終えた香さんは、すっきりした面持ちをしていた。
蓮音くんも含め湧き上がった拍手に何度か頭を下げ、席を立つ。
「あ、今日予約入ってるみたい。十一時からだって」
香さんが予約の書かれた看板に目を止めた。
「ほんとだ。誰か来るのかな。僕の取材の時も看板が立っていましたよ」
「あと一時間くらいだし、お茶してから戻って来ようよ。お祖父ちゃんたちとの約束にも間に合うだろうし」
「僕は時間あるので、一人でも戻ってきますよ」
「せっかくだし蓮音くんも来てよ。久しぶり過ぎて、お祖父ちゃんたちと何を話せばいいのかわかんないし。結婚するんだったらきちんと挨拶に来いだなんて面倒なこと言い出して」
「お相手の話をすればいいんですよ。友達のお墓参りに行った響子さんも、戻って来るんでしょう」
「その予定だけどさ――」
香さんと蓮音くんは、話をしながら地下街に向かって行った。
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読みに来てくださり、ありがとうございます。ほっこりじんわり大賞用の現代恋愛を28日から開始する予定です。初恋のドキドキを読みにきていていただけると、嬉しいです。
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