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第二話 遠野眞子 ~初期衝動~
音大時代
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音大の入学式に、なぜかカメラが入っていた。
テレビ局や雑誌社の腕章をつけていた。
大澤香の取材だと、式が進むとわかった。
新入生代表として、彼女が壇上に上がると、会場は羨望の溜め息とシャッター音で満たされた。
クラシック音楽をやっていれば、世界的ピアニスト大澤響子の一人娘の存在を知らない人はいない。
物心つく前から一流の音楽に触れ、ピアノの英才教育を施されてきた大澤香が、どうして日本の音楽大学に通うのか。
彼女ほどの人であれば海外の有名音大に行けるだろうに。
実際彼女は高校まで海外で過ごし、日本の学校には通っていない。
流暢な日本語で新入生代表の挨拶をする大澤香の姿は気品に溢れていた。
頭が小さくて、手足は長く、ピアノを弾く体力があるのかと心配になるほど、今にも折れそうな華奢な身体。
姿勢がとてもきれいだった。
彫が深く鼻の高い日本人離れした顔に色素の薄い肌。
対象的に人工的な感じのない黒髪。
ハーフなのかクオーターなのかは知らない。
東洋人っぽさと西洋人っぽさの両方を併せ持つ、不思議な魅力のある女性だった。
わたしたちと同じようなグレーのリクルートスーツを着ているのに、華やかさがまるで違った。
彼女はよくモテた。
異性だけではなく、同性からも、年齢問わず話しかけられ、いつも誰かがそばにいた。
最初こそ有名人を前にしての興味本位がほとんどだっただろうけど、どれだけの月日が流れても一人でいる姿を見かけなかった。まるで何かからみんなで守っているかのようだった。
その鉄壁の鎧にわたしは近づけず、彼女と話す機会はなかった。
同じ学内にいても、わたしの人生に関わりのない人、どこか遠い世界にいる人のように感じていた。
大学での授業は大変だけれど、楽しいものだった。
教授から出された課題のレッスン、音楽基礎理論、アナリーゼ、音楽史、ソルフェージュ、作曲法、伴奏法、副科はピアノに専念したかったため別の楽器は選ばず、声楽をとった。一般教養、英語と第二言語のイタリア語などなど。
自宅からなんとか通える距離の私大に受かり、学費は両親が出してくれている。
楽譜代、コンクールの参加費用、衣装代等々まで両親に頼るわけにはいかない。
わたしはアルバイトを始めた。
アイスクリープショップ、カフェ、ファミレス、居酒屋。居酒屋は時給が良かったのと夜も働けるからと思って行ったものの、性格に合わなくて一週間で辞めてしまった。それからケーキ屋、アクセサリー、服の販売。四年間でいろいろ経験した。
アルバイトを転々としたのは、コンクール前になるとシフトに入れず迷惑そうな顔をされるから辞める。
わたしの生活は、ピアノ優先で動いていた。
毎日が過ぎるのが早くてくたくたになりつつも、充実していた。
最大のチャンスが訪れたのは、三年生の秋だった。
連弾の授業で、ありえないことが起こった。大澤香がわたしと弾きたいと誘ってきたのだ。
彼女は入学当初から成績トップ。
学年ごとに優秀な成績を収めた生徒にはご褒美として、大学が開催する年度末のコンサートに参加できる。
このコンサートはエンタメ業界からの注目を集めていて、プロに繋がる道と言われている。
ピアノ科からは大澤香が二年連続で選ばれていた。
対するわたしの成績は伸び悩んでいた。
コンクールでの本選出場まではいけても入賞ができない。
考え込んでしまう性格のため、譜読みに時間がかかってしまう。
表現力をもっと磨くようにと言われて困惑した。
大澤香からの誘いは青天の霹靂というやつで、わたしはなにかの詐欺かと訝しんだ。
この出来事は、『大澤香、ご乱心』と、学内で騒がれた。
返事に窮したものの、これはチャンスだと受け取り、承諾した。
それからわたしはアルバイトを辞め、大澤香の相手としてふさわしい演奏ができるように死に物狂いでレッスンを受け、練習を重ね、彼女と話し合いをして曲のイメージをすりあわせた。
この突然の大抜擢に非難されたり、あからさまな陰口を叩かれたりした。
わたしは歯を食いしばって耐え、力に代えようとした。
大澤香の演奏は何度か耳にしている。でも隣で聴き、彼女に合わせる、わたしに合わせてもらう演奏は練習ですら素晴らしい経験だった。
教授への発表の日、レッスン室の周囲の廊下はやじ馬で溢れかえっていた。
レッスン室の小窓は小さくてせいぜい二人が覗き込める程度。
防音になっているので、漏れ聞こえてくる音はわずか。
わかっていながらも来るのは、それだけ注目されているということ。
自分が試されているのだと思うと、ただの授業なのにまるでコンクールに出場するかのように緊張した。
曲はチャイコフスキーの交響曲第六番「悲愴」第四楽章。オケ用の曲を、ピアノ編曲したものだ。
高音域を担当するプリモはわたし、低音域のセコンドは大澤香。
彼女の弾く低音は重苦しく切なく、悲しい。
生の先にある確実にやってくる死に向かって、ゆっくりと進んでいく。
抗うのではなく、粛々と受け入れる。
やがて、消え入るようにその存在を消す。
教授から最高の判定をもらい、わたしと大澤香のアンサンブルはこれで終わったものだと思っていた。
ところが、この曲で年度末のコンサートへの出場が決まった。
大澤香はソロでの出演も決まっていた。
コンサートはおおむね好評だった。
なかには重すぎるという意見もあった。わたしもそう思っていた。
華やかな大澤香の中にも、重さを表現できる経験があるのかと驚いた。
コンサート終了直後、大澤香に尋ねた。連弾の相手になぜわたしを選んだのかと。
彼女はこう言った。
「あなたはピアノを背負って弾いているみたいだったから、重さをうまく表現できると思って」
意味がよくわからなかった。そんなに姿勢が悪いのかとか、音が重々しいのか、と考え込んでしまった。
この言葉は呪いのようにわたしの胸に刺さり、ピアノを弾く度に思い出した。
今日久しぶりにピアノを弾いて、足りなかったものがやっとわかった。
わたしは十六年間ひたむきにピアノに向き合ってきた。
時間のあるときはピアノを弾き、移動時間は譜読みをして作曲家の指示を覚え、譜面通り完璧に弾こう弾こうとしていた。
わたしは機械だったのだ。
楽譜通りにピアノを弾く、自動演奏だったんだ。
感情のこもった、聴く人の心に訴えかける演奏ができていなかったんだ。
唯一できたのが連弾だった。
大澤香に引き出してもらったのに、わたしは気づけなかった。
年度末コンサート後の大澤香には、オケとの共演やプロピアニストのコンサートへのゲスト出演などの誘いがきて華々しい活躍をしていたのに、わたしには皆無で、学生からの伴奏すら声がかからなかった。
大澤香のおまけ。そこから抜け出ることができなかった。
残り一年の学生生活はもがき続けたまま答えが出ずに終わった。
同級生たちは音楽教師、音楽雑誌の編集者、レコード会社、音楽教室の先生、留学、プロオケ。ストリートピアノを弾くユーチューバー。さまざまなところに飛び出していった。
全員が音楽の仕事に就けるわけじゃない。
まったく関連のない会社に就職をした人がたくさんいる。
わたしもその一人。しかもわたしは在学中の就職活動をしなかった。
プロになれると簡単に考えていたわけではないけれど、現実に目を向けてこなかった。
目も頭もピアノにしか向けてこなかったツケは、音大卒業後にフリーターという形になって回ってきた。
ピアノは辞めよう。現実的に生きていく。
そう決めて夢中になれる仕事を探してもがいてきた。
社会に出て四年半。
今の仕事に正社員として採用してもらえたものの、心は浮き沈みを繰り返す。覚悟が決まらない。
わたしは自分の人生に革命を起こしたい。
大々的なものじゃなくていい。世間に称賛してもらおうなんてもう思わない。
自分自身が、これで生きていけると確信を持てるようになりたい。
仕事に疲れ、人に疲れた無味乾燥な毎日を、彩り豊かな日々にしたい。
うまくいかなくて湧き上がる怒りを悔しさを、エネルギーに変えていきたい。
テレビ局や雑誌社の腕章をつけていた。
大澤香の取材だと、式が進むとわかった。
新入生代表として、彼女が壇上に上がると、会場は羨望の溜め息とシャッター音で満たされた。
クラシック音楽をやっていれば、世界的ピアニスト大澤響子の一人娘の存在を知らない人はいない。
物心つく前から一流の音楽に触れ、ピアノの英才教育を施されてきた大澤香が、どうして日本の音楽大学に通うのか。
彼女ほどの人であれば海外の有名音大に行けるだろうに。
実際彼女は高校まで海外で過ごし、日本の学校には通っていない。
流暢な日本語で新入生代表の挨拶をする大澤香の姿は気品に溢れていた。
頭が小さくて、手足は長く、ピアノを弾く体力があるのかと心配になるほど、今にも折れそうな華奢な身体。
姿勢がとてもきれいだった。
彫が深く鼻の高い日本人離れした顔に色素の薄い肌。
対象的に人工的な感じのない黒髪。
ハーフなのかクオーターなのかは知らない。
東洋人っぽさと西洋人っぽさの両方を併せ持つ、不思議な魅力のある女性だった。
わたしたちと同じようなグレーのリクルートスーツを着ているのに、華やかさがまるで違った。
彼女はよくモテた。
異性だけではなく、同性からも、年齢問わず話しかけられ、いつも誰かがそばにいた。
最初こそ有名人を前にしての興味本位がほとんどだっただろうけど、どれだけの月日が流れても一人でいる姿を見かけなかった。まるで何かからみんなで守っているかのようだった。
その鉄壁の鎧にわたしは近づけず、彼女と話す機会はなかった。
同じ学内にいても、わたしの人生に関わりのない人、どこか遠い世界にいる人のように感じていた。
大学での授業は大変だけれど、楽しいものだった。
教授から出された課題のレッスン、音楽基礎理論、アナリーゼ、音楽史、ソルフェージュ、作曲法、伴奏法、副科はピアノに専念したかったため別の楽器は選ばず、声楽をとった。一般教養、英語と第二言語のイタリア語などなど。
自宅からなんとか通える距離の私大に受かり、学費は両親が出してくれている。
楽譜代、コンクールの参加費用、衣装代等々まで両親に頼るわけにはいかない。
わたしはアルバイトを始めた。
アイスクリープショップ、カフェ、ファミレス、居酒屋。居酒屋は時給が良かったのと夜も働けるからと思って行ったものの、性格に合わなくて一週間で辞めてしまった。それからケーキ屋、アクセサリー、服の販売。四年間でいろいろ経験した。
アルバイトを転々としたのは、コンクール前になるとシフトに入れず迷惑そうな顔をされるから辞める。
わたしの生活は、ピアノ優先で動いていた。
毎日が過ぎるのが早くてくたくたになりつつも、充実していた。
最大のチャンスが訪れたのは、三年生の秋だった。
連弾の授業で、ありえないことが起こった。大澤香がわたしと弾きたいと誘ってきたのだ。
彼女は入学当初から成績トップ。
学年ごとに優秀な成績を収めた生徒にはご褒美として、大学が開催する年度末のコンサートに参加できる。
このコンサートはエンタメ業界からの注目を集めていて、プロに繋がる道と言われている。
ピアノ科からは大澤香が二年連続で選ばれていた。
対するわたしの成績は伸び悩んでいた。
コンクールでの本選出場まではいけても入賞ができない。
考え込んでしまう性格のため、譜読みに時間がかかってしまう。
表現力をもっと磨くようにと言われて困惑した。
大澤香からの誘いは青天の霹靂というやつで、わたしはなにかの詐欺かと訝しんだ。
この出来事は、『大澤香、ご乱心』と、学内で騒がれた。
返事に窮したものの、これはチャンスだと受け取り、承諾した。
それからわたしはアルバイトを辞め、大澤香の相手としてふさわしい演奏ができるように死に物狂いでレッスンを受け、練習を重ね、彼女と話し合いをして曲のイメージをすりあわせた。
この突然の大抜擢に非難されたり、あからさまな陰口を叩かれたりした。
わたしは歯を食いしばって耐え、力に代えようとした。
大澤香の演奏は何度か耳にしている。でも隣で聴き、彼女に合わせる、わたしに合わせてもらう演奏は練習ですら素晴らしい経験だった。
教授への発表の日、レッスン室の周囲の廊下はやじ馬で溢れかえっていた。
レッスン室の小窓は小さくてせいぜい二人が覗き込める程度。
防音になっているので、漏れ聞こえてくる音はわずか。
わかっていながらも来るのは、それだけ注目されているということ。
自分が試されているのだと思うと、ただの授業なのにまるでコンクールに出場するかのように緊張した。
曲はチャイコフスキーの交響曲第六番「悲愴」第四楽章。オケ用の曲を、ピアノ編曲したものだ。
高音域を担当するプリモはわたし、低音域のセコンドは大澤香。
彼女の弾く低音は重苦しく切なく、悲しい。
生の先にある確実にやってくる死に向かって、ゆっくりと進んでいく。
抗うのではなく、粛々と受け入れる。
やがて、消え入るようにその存在を消す。
教授から最高の判定をもらい、わたしと大澤香のアンサンブルはこれで終わったものだと思っていた。
ところが、この曲で年度末のコンサートへの出場が決まった。
大澤香はソロでの出演も決まっていた。
コンサートはおおむね好評だった。
なかには重すぎるという意見もあった。わたしもそう思っていた。
華やかな大澤香の中にも、重さを表現できる経験があるのかと驚いた。
コンサート終了直後、大澤香に尋ねた。連弾の相手になぜわたしを選んだのかと。
彼女はこう言った。
「あなたはピアノを背負って弾いているみたいだったから、重さをうまく表現できると思って」
意味がよくわからなかった。そんなに姿勢が悪いのかとか、音が重々しいのか、と考え込んでしまった。
この言葉は呪いのようにわたしの胸に刺さり、ピアノを弾く度に思い出した。
今日久しぶりにピアノを弾いて、足りなかったものがやっとわかった。
わたしは十六年間ひたむきにピアノに向き合ってきた。
時間のあるときはピアノを弾き、移動時間は譜読みをして作曲家の指示を覚え、譜面通り完璧に弾こう弾こうとしていた。
わたしは機械だったのだ。
楽譜通りにピアノを弾く、自動演奏だったんだ。
感情のこもった、聴く人の心に訴えかける演奏ができていなかったんだ。
唯一できたのが連弾だった。
大澤香に引き出してもらったのに、わたしは気づけなかった。
年度末コンサート後の大澤香には、オケとの共演やプロピアニストのコンサートへのゲスト出演などの誘いがきて華々しい活躍をしていたのに、わたしには皆無で、学生からの伴奏すら声がかからなかった。
大澤香のおまけ。そこから抜け出ることができなかった。
残り一年の学生生活はもがき続けたまま答えが出ずに終わった。
同級生たちは音楽教師、音楽雑誌の編集者、レコード会社、音楽教室の先生、留学、プロオケ。ストリートピアノを弾くユーチューバー。さまざまなところに飛び出していった。
全員が音楽の仕事に就けるわけじゃない。
まったく関連のない会社に就職をした人がたくさんいる。
わたしもその一人。しかもわたしは在学中の就職活動をしなかった。
プロになれると簡単に考えていたわけではないけれど、現実に目を向けてこなかった。
目も頭もピアノにしか向けてこなかったツケは、音大卒業後にフリーターという形になって回ってきた。
ピアノは辞めよう。現実的に生きていく。
そう決めて夢中になれる仕事を探してもがいてきた。
社会に出て四年半。
今の仕事に正社員として採用してもらえたものの、心は浮き沈みを繰り返す。覚悟が決まらない。
わたしは自分の人生に革命を起こしたい。
大々的なものじゃなくていい。世間に称賛してもらおうなんてもう思わない。
自分自身が、これで生きていけると確信を持てるようになりたい。
仕事に疲れ、人に疲れた無味乾燥な毎日を、彩り豊かな日々にしたい。
うまくいかなくて湧き上がる怒りを悔しさを、エネルギーに変えていきたい。
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読みに来てくださり、ありがとうございます。ほっこりじんわり大賞用の現代恋愛を28日から開始する予定です。初恋のドキドキを読みにきていていただけると、嬉しいです。
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