【完結】想いはピアノの調べに乗せて

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第一話 冴木 柚羽 ~目覚め~

掃除の時間

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 一・二年生の間はやらなくてよかった校内清掃が、三年生になってからは放課後のお仕事になった。
 先生によって三班にグループが決められて、週二回順番が回ってくる。

 机とイスを教室の後ろに下げてからほうきで掃き、半分が終わると今度は教卓側に移動させて後ろを掃く。
 動かした机とイスを元に戻すと、次は黒板や窓拭き、廊下と分かれて担当をする。

 ユズは小西颯斗そうたくんとバケツに水を汲んできて、廊下側の窓を拭いていた。
 まだ帰らない生徒たちが校庭で遊んでいる声を聞きながら。

 掃除は面倒臭いと文句を言うクラスメイトもいるけれど、ユズは嫌いじゃない。
 毎日使うところが汚れていたら気になるし、きれいになると気持ちがいいから。

 ユズの班にはさぼる子はいない。六人で分担を決めて進めていく。
 乃愛ちゃんの班は男子が遊びがちで、もうひとつの班は女の子がおしゃべりをしているせいか、時間がかかるらしい。

 教室側の窓を拭いていると、「冴木さん!」と校庭側の窓を拭いていた小西くんに呼ばれた。
 振り返るとガシャンと音がした。
 水が入っていたバケツが、足元をころころと転がっていく。
 ぶち撒かれた中身は廊下とともに、ユズの足も濡らしていた。

 ユズがバケツを蹴ったのかなと思った。でも足に当たった感触はなかった。
 なによりバケツは離れたところに置いていた。振り返ったぐらいでひっかかるはずがない。

「間に合わなかった。濡れちゃったね」
 近くにきてくれた小西くんが「大丈夫?」と尋ねてくれる。

「大丈夫だけど……」
 びしょぬれで冷たいけれど、それだけ。痛みがあるわけでもない。
 汚れた水だったのが気分的に嫌だったけど。

 それより、どうしてこうなったのかがわからなくてぼんやりしていると、小西くんが「ボールが飛んできて」と言って顔を向けた。
 つられて目をやると、廊下を走って行く小川くんの背中が見えた。

 掃除後、学童に行くと、裸足で上靴を履いたユズの足元を小川くんは一瞬だけ見て、その日は目や顔を合わせなかった。
 翌日からの数日間は口真似をされなかった。

 もうやめてくれるかな。期待していたのに、意地悪は終わらなかった。
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読みに来てくださり、ありがとうございます。ほっこりじんわり大賞用の現代恋愛を28日から開始する予定です。初恋のドキドキを読みにきていていただけると、嬉しいです。
感想 1

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