【完結】二度目のお別れまであと・・・

衿乃 光希

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第三部 仲良し姉妹

52 無断欠勤

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 短大生になっても休みはあっという間に終わってしまう。
 9月半ばになり、後期がスタートした。
 前期と変わらず、学校とバイトと家を往復する毎日。でも、少しずつ慣れてきているのか、帰宅してソファに倒れ込むことはなくなった。

 航にも褒められたし、関口さんや先輩たちからの注意も減った。お給料が振り込まれると、頑張ったご褒美なんだと嬉しくなる。頑張らなくてももらえるものではあるんだけど、ご褒美と思った方が、仕事が楽しく感じられた。

 土曜日は朝から夕方までのシフトに入っていた。厨房の掃除と除菌を終えて、仕込みの手伝いをしていると、ホール担当の男性社員、佐藤さんから声をかけられた。

「立野くんが出勤してこないんだけど、海野さん仲良かったよね。何か知らない?」
「え?! 知らないです。連絡ないんですか?」
 航に限って無断欠勤なんて、ありえない。

「ないし、電話に出ないんだよ。どうしたんだろう」
「あの、あたし、かけてみましょうか。実家の番号もわかります」
「お願いしてもいいかな? 関口くん、海野さん借りてもいいかな?」
「了解です」

 キャベツの千切りをしていた関口さんが、一瞬手を止めて顔を上げて頷いた。
 後を任せて手を洗い、女子更衣室に行く。
 鞄からスマホを取り出して、航のスマホにかけた。出ない。
 航の実家にかけたけど、誰も出なかった。

「どうしよう。お姉ちゃん」
 返答がない。また寝てるみたい。こんな時にのんきに寝てないでよ。
 お姉ちゃんにぷりぷり怒ったところで、本人には伝わらない。
 次に何ができるのか考え、ママの仕事先の歯医者に電話をかけた。

 運良くママは手が空いていて、電話を代わってもらえた。
 シフトに入っている航と連絡がつかないことを焦る口調で伝え、ママから航のお母さんに電話をしてもらった。

 連絡を待つ時間がもどかしい。出勤途中で事故にでも遭ったのかな。それとも、具合が悪くなって寝込んでいるのかも。
 いますぐにでも飛び出して行って、航が一人暮らしをするマンションに向かいたい。
 スマホを握りしめたまま、睨むように見つめる。

 ママから折り返しの電話がかかってきた。
「どうだった?!」
「航くん、体調を崩して、病院に運ばれたそうよ。出勤途中で倒れて、救急車で運ばれたところだって」
「ああ‥‥‥」
 言葉にならず、唇をかみしめる。胸がぎゅっと締めつけられて、痛い。

「これからお店に連絡を入れるって言っていたから、麻帆はちゃんと仕事をしなさい。ご迷惑をおかけしたらダメよ」
 ママも忙しいんだろう、あたしが返事をする前に通話が切れた。

「航‥‥‥」
 夏休みに会った時は、元気そうだった。もりもり食べていたし、笑顔を見せていた。顔色が悪い印象はなかった。
「どうしたんだろう」
 心配心配で、仕方がなかった。

 震える手でスマホを握りしめ、お店に戻ると、佐藤さんは事務所に入ったと聞いた。
 事務所の扉をノックして、佐藤さんの返事を聞いてから入ると、履歴書を見ていた。

「今、お母さんから連絡をもらった。救急車で運ばれたみたいだな。家に行こうと思ってたんだけど、その必要はなくなった。代わりに入ってくれる人が見つかったら、僕と店長で病院に行ってくるから、海野さんは仕事に戻って」

「あたしも行きたいです」
 心配のあまり、佐藤さんにお願いしていた。だけど、却下された。
「詳しい事がわかったら、僕から連絡を入れるから、きちんと仕事をして。任せたよ」

「でも‥‥‥」
 食い下がろうとしたけど、佐藤さんは連絡帳を見ながら電話をかけ始めた。
 諦めて厨房に戻った。持ち込み禁止のスマホをポケットにそっと忍ばせた。

 店長たちは、昼のピークの時間帯に戻ってきた。気になっていたけど、忙しくて聞きに行く時間もなかった。
「海野さん、またブロッコリー忘れてる!」
「あ! すみません」

 慌てて盛り付けると、航の代わりにバイトに来た日高さんにチッと舌打ちされた。
 日高さんが苛立つのもわかる。今日はミスばかりしている。

 航の体調が気がかりで、今すぐにでも病院に行きたい。せめて、帰ってきた店長か佐藤さんから容体を聞きたい。
 気持ちが落ち着かなくて、集中できなかった。

 昼のピークがやっと落ち着いた頃を見計らって、関口さんに航の容体を聞きに行かせて欲しいと頼んだ。
 いいよと返事をもらい、事務所に向かった。

 事務所には、店長だけがいた。
 航の様子を訊ねると、店長は教えてくれた。

 ♢

 4時でバイトが終わると、大急ぎで着替えて、裏口から飛び出した。
 自転車にまたがり、病院まで全力疾走。
 航のお母さんから、あたしに伝えて欲しいと言われていて、店長は病室を教えてくれた。

 病院では走ってはいけないと自制し、早足で航の病室に向かう。
 激しく肩で息をつきながら、病室をノックした。
 女性の声で返事があった。きっとおばさんだ。

「こんにちは」
「麻帆ちゃん、ありがとうね。心配かけてごめんね。昼過ぎに久美子さんも来てくれたの」
 ママも仕事が終わってからお見舞いに来たんだ。

「航はどう?」
「まだ寝てる。無理してたのね。麻帆ちゃん、ここに座って」

 航の顔がよく見えるイスを譲られて、あたしはちょこんと座った。航は落ち着いた寝息を立てているけど、腕に点滴の管が繋がっていた。

「過労だって。まだ21になったばかりなのに。どれだけ頑張ってたんだろうって思うと、泣けてきちゃう。一人暮らしはまだ早かったのかしらね」

 おばさんの口調には、心配と後悔が滲んでいた。

 航のバイトは土日だけだけど、平日は朝早くから夜遅くまで勉強漬けだったらしい。食事も抜きがちだったんだろう。出勤途中で貧血を起こし、道端に倒れこんだところを、通りがかった人が助けてくれたそうだ。
 運ばれた病院に航の受診記録があって、そのお陰でおばさんと連絡がついた。

「おばさんね、自宅でドライフラワーの教室をしているの。航が寮に入ったタイミングで始めたんだけど、大学からこっちに帰ってきたから、貸し教室を探さないとって思ってたら一人暮らししたいからそのままでいいよって言ってくれて。風邪を引いていても旅行先で面倒を見てあげられない酷い親なのに、この子はいつも優しくて。甘えていたのよね」

「バイト先でも、みんなに頼りにされてるんだよ。フロアのバイトリーダーだからってだけじゃなくて、面倒見がよくて、優しくて、穏やかで。ミスをフォローしてくれて、嫌な顔をぜんぜんしない。あたしもいっぱい助けてもらった」

「そんなに出来の良い子だったなんて。トンビがタカを産んじゃったかな」
 おばさんは愛おしそうに、航の頭を優しく撫でた。

「麻帆ちゃん、おばさん少しだけ外してもいいかしら」
「大丈夫。あたし見とくから」
「お願いね」

 おばさんは鞄を持って、病室を出て行った。
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