【完結】二度目のお別れまであと・・・

衿乃 光希

文字の大きさ
29 / 59
第二部 海野汐里

29 実習2 調理

しおりを挟む
 手を洗い。冷蔵庫からキュウリを取り出し、料理用バットに載せる。
「キュウリはイボイボがありますね。触るとチクチクしているのは新鮮な証です。でも、食べるときは塩ずりをして、トゲを取りましょう」

「手でするんですか? 痛くないですか」
「それなら、板ずりにしましょう。その前に、湯を沸かします」

 お鍋に水を汲もうとして、先生に止められる。
「キュウリを切る前に熱湯で茹でるので、フライパンに入れましょう」
「‥‥‥あ、はい」

 切る前に茹でる? 初めて聞いたので、少し戸惑う。
 フライパンにキュウリが浸かる程度の水を張り、火にかける。

「塩もみしたきゅうりを茹でると、食感が良くなるんです。色も映えますし、雑菌も取り除けます」

「キュウリを茹でるなんてしたことなかったです」
「食感が良くなりますよ」
「そうなんですね。楽しみにしておきます」

 お湯が沸く頃に、キュウリを洗って塩を振り、まな板の上でころころと数回転がした。
 沸いたお湯に入れ、1分ほど茹でて取り出す。

「野菜の繊維は、根から始まり、茎、葉に向かって走っています。繊維に沿って切るのと、断ち切るのでは、食感や味の入り方が変わってきます。キュウリの繊維は縦ですね」

 キュウリの切断面を思い出して頷く。

「しゃきしゃきした食感が欲しい場合は縦に千切りに、サラダなど柔らかめの触感が欲しい時は斜め切りがいいでしょう。今日は和え物なので、繊維を断ち切って、輪切りにします」

 まな板に置いて、端を切り落とす。
 厚みを揃えて均一に切ることを意識してくださいと、注意を受けながら、慣れない押さえ型で包丁を持って、ゆっくりと切っていく。

 途中で切ったキュウリが刃について、邪魔に思えてきた。しかも転がって、まな板から落ちていく。
 いったん切るのを止めて、キュウリを落とす。

 手間だなと思っていると、
「包丁を少しだけ右に倒して切ってみてください」
 
 先生からもらったアドバイス通りに切ってみると、キュウリが刃から自然に落ちていくし、転がりにくくなった。
 プロの技ってすごい、と心の中で拍手する。

 切り終えて、ボウルに入れる。
「キュウリの水分を抜くために、塩水に15分ほどつけておきます」

「塩水につけるんですか」

「たて塩と言います。貝の砂抜きをする時に使いますね。今回は、500mlの水に大さじ1の塩を入れてください」

 言われるがまま、水を量ってボウルに入れ、塩を加えてから、キュウリを入れる。キッチンタイマーを15分にセットした。

「キュウリに塩をかけて、出てきた水分を流して、という方法もあるのですが、たて塩の方が、均一に塩がまわります」

「水分を抜くのは、なぜですか」
「キュウリは95%が水分です。あとから水分が出て、調味料が薄くなるので、美味しくなくなってしまいます」

「それは大事ですね」
 せっかく丁度いい味付けができても、つけている間に薄くなってしまっては、かなり残念。

「少しの手間で美味しく仕上がりますよ。次は生わかめを洗いましょう」
 冷蔵庫からパックされた生わかめを取り出して、ボウルにあける。

「茎と葉を切り分けてください。今日は葉のみを使いますね。茎は煮付けや味噌汁などに使えます」

 切り分けている間に、先生がお湯を沸かしてくれていた。
「ここにも塩を入れてくださいね」

 沸騰すると、火力を中火にし、わかめを入れた。
「もういいですよ」

 5秒ほどさっとゆがくと、茶色だったわかめが、緑色に変わった。
 お水で洗うと、緑色がもっと鮮やかになった。

 一口サイズにカットする。
 キッチンタイマーが鳴って、キュウリの水分抜きが終わったことを告げた。
 キュウリを手で絞る。

「調味料を合わせていきます。三杯酢はわかりますか」
「ええっと、酢としょう油と砂糖?」

「みりんですね。でもお砂糖でもかまいませんよ。砂糖の場合はしっかり溶かしましょう。今日はみりんで作ります。酢・しょう油・みりんを同量合わせてください」

「大さじ1ずつで足りますか?」

「作ってみて、味が物足り、量が少ないと感じたら足せばいいんです」
 私はそれが苦手なのに、と思ったけれど、何も言わずに調味料を量って合わせる。

「味見をしてみてください。器を使うか、手の甲に落としてください」
 スプーンで少しすくって、手の甲に落とし、ぺろっと舐める。

「どうですか」
「よく、わかりません」

「まずは、基本を覚えておきましょう。同じ物でも使うメーカーによって、味が違います。食材も生で食べられる物は食べてみると、甘味や水分の違いがわかるようになります。どの素材と調味料を合わせると、美味しくできるのかわかってきますよ」

「味覚って、鍛えられるんですか」
「鍛えられます。特に君たちは若いですから。良い物、高い物だけではいけませんし、ジャンクフードだけでもいけません。五味や風味を意識しながら、五感を活用して食事をしましょう」

 教科書に書いてあった。五味とは甘い・辛い・酸っぱい・苦い・うま味。
 五感は視覚・嗅覚・味覚・触覚・聴覚。

「先生、食事に聴覚は関係ありますか」
「ありますよ。音でも味わえるでしょう? ぽりぽり、ぱりぱり、ぷちぷち」

「そっか、そうですね。包丁がまな板に当たる音や、焼く音で、食事の時間を楽しみに、姉妹で待っていました」
「良い思い出ですね。音は、作る時にも重要です。これから学んでいきますからね」

 三杯酢ときゅうりとわかめを合わせて、混ぜる。

「出来上がりです。食べてみましょう」
 少量を小鉢に取って、食べてみる。
 ぽりぽりと小気味良い食感。控え目な味。

「薄く感じます」

「普段食べている物が濃い目だと、基本は薄く感じるでしょう。それに、これから味が染みますから、また違う味わいになってきます。今日はタッパに入れて、持ち帰っていいですよ。ご両親さんと味わってください」

「はい。楽しみです」
「では、後は片付けと、包丁の手入れの仕方を伝えます」

 まな板の消毒の仕方、包丁の研ぎ方などを教わり、器具の荒い物を終えて、この日の実習は終了した。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...