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第二部 海野汐里
29 実習2 調理
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手を洗い。冷蔵庫からキュウリを取り出し、料理用バットに載せる。
「キュウリはイボイボがありますね。触るとチクチクしているのは新鮮な証です。でも、食べるときは塩ずりをして、トゲを取りましょう」
「手でするんですか? 痛くないですか」
「それなら、板ずりにしましょう。その前に、湯を沸かします」
お鍋に水を汲もうとして、先生に止められる。
「キュウリを切る前に熱湯で茹でるので、フライパンに入れましょう」
「‥‥‥あ、はい」
切る前に茹でる? 初めて聞いたので、少し戸惑う。
フライパンにキュウリが浸かる程度の水を張り、火にかける。
「塩もみしたきゅうりを茹でると、食感が良くなるんです。色も映えますし、雑菌も取り除けます」
「キュウリを茹でるなんてしたことなかったです」
「食感が良くなりますよ」
「そうなんですね。楽しみにしておきます」
お湯が沸く頃に、キュウリを洗って塩を振り、まな板の上でころころと数回転がした。
沸いたお湯に入れ、1分ほど茹でて取り出す。
「野菜の繊維は、根から始まり、茎、葉に向かって走っています。繊維に沿って切るのと、断ち切るのでは、食感や味の入り方が変わってきます。キュウリの繊維は縦ですね」
キュウリの切断面を思い出して頷く。
「しゃきしゃきした食感が欲しい場合は縦に千切りに、サラダなど柔らかめの触感が欲しい時は斜め切りがいいでしょう。今日は和え物なので、繊維を断ち切って、輪切りにします」
まな板に置いて、端を切り落とす。
厚みを揃えて均一に切ることを意識してくださいと、注意を受けながら、慣れない押さえ型で包丁を持って、ゆっくりと切っていく。
途中で切ったキュウリが刃について、邪魔に思えてきた。しかも転がって、まな板から落ちていく。
いったん切るのを止めて、キュウリを落とす。
手間だなと思っていると、
「包丁を少しだけ右に倒して切ってみてください」
先生からもらったアドバイス通りに切ってみると、キュウリが刃から自然に落ちていくし、転がりにくくなった。
プロの技ってすごい、と心の中で拍手する。
切り終えて、ボウルに入れる。
「キュウリの水分を抜くために、塩水に15分ほどつけておきます」
「塩水につけるんですか」
「たて塩と言います。貝の砂抜きをする時に使いますね。今回は、500mlの水に大さじ1の塩を入れてください」
言われるがまま、水を量ってボウルに入れ、塩を加えてから、キュウリを入れる。キッチンタイマーを15分にセットした。
「キュウリに塩をかけて、出てきた水分を流して、という方法もあるのですが、たて塩の方が、均一に塩がまわります」
「水分を抜くのは、なぜですか」
「キュウリは95%が水分です。あとから水分が出て、調味料が薄くなるので、美味しくなくなってしまいます」
「それは大事ですね」
せっかく丁度いい味付けができても、つけている間に薄くなってしまっては、かなり残念。
「少しの手間で美味しく仕上がりますよ。次は生わかめを洗いましょう」
冷蔵庫からパックされた生わかめを取り出して、ボウルにあける。
「茎と葉を切り分けてください。今日は葉のみを使いますね。茎は煮付けや味噌汁などに使えます」
切り分けている間に、先生がお湯を沸かしてくれていた。
「ここにも塩を入れてくださいね」
沸騰すると、火力を中火にし、わかめを入れた。
「もういいですよ」
5秒ほどさっとゆがくと、茶色だったわかめが、緑色に変わった。
お水で洗うと、緑色がもっと鮮やかになった。
一口サイズにカットする。
キッチンタイマーが鳴って、キュウリの水分抜きが終わったことを告げた。
キュウリを手で絞る。
「調味料を合わせていきます。三杯酢はわかりますか」
「ええっと、酢としょう油と砂糖?」
「みりんですね。でもお砂糖でもかまいませんよ。砂糖の場合はしっかり溶かしましょう。今日はみりんで作ります。酢・しょう油・みりんを同量合わせてください」
「大さじ1ずつで足りますか?」
「作ってみて、味が物足り、量が少ないと感じたら足せばいいんです」
私はそれが苦手なのに、と思ったけれど、何も言わずに調味料を量って合わせる。
「味見をしてみてください。器を使うか、手の甲に落としてください」
スプーンで少しすくって、手の甲に落とし、ぺろっと舐める。
「どうですか」
「よく、わかりません」
「まずは、基本を覚えておきましょう。同じ物でも使うメーカーによって、味が違います。食材も生で食べられる物は食べてみると、甘味や水分の違いがわかるようになります。どの素材と調味料を合わせると、美味しくできるのかわかってきますよ」
「味覚って、鍛えられるんですか」
「鍛えられます。特に君たちは若いですから。良い物、高い物だけではいけませんし、ジャンクフードだけでもいけません。五味や風味を意識しながら、五感を活用して食事をしましょう」
教科書に書いてあった。五味とは甘い・辛い・酸っぱい・苦い・うま味。
五感は視覚・嗅覚・味覚・触覚・聴覚。
「先生、食事に聴覚は関係ありますか」
「ありますよ。音でも味わえるでしょう? ぽりぽり、ぱりぱり、ぷちぷち」
「そっか、そうですね。包丁がまな板に当たる音や、焼く音で、食事の時間を楽しみに、姉妹で待っていました」
「良い思い出ですね。音は、作る時にも重要です。これから学んでいきますからね」
三杯酢ときゅうりとわかめを合わせて、混ぜる。
「出来上がりです。食べてみましょう」
少量を小鉢に取って、食べてみる。
ぽりぽりと小気味良い食感。控え目な味。
「薄く感じます」
「普段食べている物が濃い目だと、基本は薄く感じるでしょう。それに、これから味が染みますから、また違う味わいになってきます。今日はタッパに入れて、持ち帰っていいですよ。ご両親さんと味わってください」
「はい。楽しみです」
「では、後は片付けと、包丁の手入れの仕方を伝えます」
まな板の消毒の仕方、包丁の研ぎ方などを教わり、器具の荒い物を終えて、この日の実習は終了した。
「キュウリはイボイボがありますね。触るとチクチクしているのは新鮮な証です。でも、食べるときは塩ずりをして、トゲを取りましょう」
「手でするんですか? 痛くないですか」
「それなら、板ずりにしましょう。その前に、湯を沸かします」
お鍋に水を汲もうとして、先生に止められる。
「キュウリを切る前に熱湯で茹でるので、フライパンに入れましょう」
「‥‥‥あ、はい」
切る前に茹でる? 初めて聞いたので、少し戸惑う。
フライパンにキュウリが浸かる程度の水を張り、火にかける。
「塩もみしたきゅうりを茹でると、食感が良くなるんです。色も映えますし、雑菌も取り除けます」
「キュウリを茹でるなんてしたことなかったです」
「食感が良くなりますよ」
「そうなんですね。楽しみにしておきます」
お湯が沸く頃に、キュウリを洗って塩を振り、まな板の上でころころと数回転がした。
沸いたお湯に入れ、1分ほど茹でて取り出す。
「野菜の繊維は、根から始まり、茎、葉に向かって走っています。繊維に沿って切るのと、断ち切るのでは、食感や味の入り方が変わってきます。キュウリの繊維は縦ですね」
キュウリの切断面を思い出して頷く。
「しゃきしゃきした食感が欲しい場合は縦に千切りに、サラダなど柔らかめの触感が欲しい時は斜め切りがいいでしょう。今日は和え物なので、繊維を断ち切って、輪切りにします」
まな板に置いて、端を切り落とす。
厚みを揃えて均一に切ることを意識してくださいと、注意を受けながら、慣れない押さえ型で包丁を持って、ゆっくりと切っていく。
途中で切ったキュウリが刃について、邪魔に思えてきた。しかも転がって、まな板から落ちていく。
いったん切るのを止めて、キュウリを落とす。
手間だなと思っていると、
「包丁を少しだけ右に倒して切ってみてください」
先生からもらったアドバイス通りに切ってみると、キュウリが刃から自然に落ちていくし、転がりにくくなった。
プロの技ってすごい、と心の中で拍手する。
切り終えて、ボウルに入れる。
「キュウリの水分を抜くために、塩水に15分ほどつけておきます」
「塩水につけるんですか」
「たて塩と言います。貝の砂抜きをする時に使いますね。今回は、500mlの水に大さじ1の塩を入れてください」
言われるがまま、水を量ってボウルに入れ、塩を加えてから、キュウリを入れる。キッチンタイマーを15分にセットした。
「キュウリに塩をかけて、出てきた水分を流して、という方法もあるのですが、たて塩の方が、均一に塩がまわります」
「水分を抜くのは、なぜですか」
「キュウリは95%が水分です。あとから水分が出て、調味料が薄くなるので、美味しくなくなってしまいます」
「それは大事ですね」
せっかく丁度いい味付けができても、つけている間に薄くなってしまっては、かなり残念。
「少しの手間で美味しく仕上がりますよ。次は生わかめを洗いましょう」
冷蔵庫からパックされた生わかめを取り出して、ボウルにあける。
「茎と葉を切り分けてください。今日は葉のみを使いますね。茎は煮付けや味噌汁などに使えます」
切り分けている間に、先生がお湯を沸かしてくれていた。
「ここにも塩を入れてくださいね」
沸騰すると、火力を中火にし、わかめを入れた。
「もういいですよ」
5秒ほどさっとゆがくと、茶色だったわかめが、緑色に変わった。
お水で洗うと、緑色がもっと鮮やかになった。
一口サイズにカットする。
キッチンタイマーが鳴って、キュウリの水分抜きが終わったことを告げた。
キュウリを手で絞る。
「調味料を合わせていきます。三杯酢はわかりますか」
「ええっと、酢としょう油と砂糖?」
「みりんですね。でもお砂糖でもかまいませんよ。砂糖の場合はしっかり溶かしましょう。今日はみりんで作ります。酢・しょう油・みりんを同量合わせてください」
「大さじ1ずつで足りますか?」
「作ってみて、味が物足り、量が少ないと感じたら足せばいいんです」
私はそれが苦手なのに、と思ったけれど、何も言わずに調味料を量って合わせる。
「味見をしてみてください。器を使うか、手の甲に落としてください」
スプーンで少しすくって、手の甲に落とし、ぺろっと舐める。
「どうですか」
「よく、わかりません」
「まずは、基本を覚えておきましょう。同じ物でも使うメーカーによって、味が違います。食材も生で食べられる物は食べてみると、甘味や水分の違いがわかるようになります。どの素材と調味料を合わせると、美味しくできるのかわかってきますよ」
「味覚って、鍛えられるんですか」
「鍛えられます。特に君たちは若いですから。良い物、高い物だけではいけませんし、ジャンクフードだけでもいけません。五味や風味を意識しながら、五感を活用して食事をしましょう」
教科書に書いてあった。五味とは甘い・辛い・酸っぱい・苦い・うま味。
五感は視覚・嗅覚・味覚・触覚・聴覚。
「先生、食事に聴覚は関係ありますか」
「ありますよ。音でも味わえるでしょう? ぽりぽり、ぱりぱり、ぷちぷち」
「そっか、そうですね。包丁がまな板に当たる音や、焼く音で、食事の時間を楽しみに、姉妹で待っていました」
「良い思い出ですね。音は、作る時にも重要です。これから学んでいきますからね」
三杯酢ときゅうりとわかめを合わせて、混ぜる。
「出来上がりです。食べてみましょう」
少量を小鉢に取って、食べてみる。
ぽりぽりと小気味良い食感。控え目な味。
「薄く感じます」
「普段食べている物が濃い目だと、基本は薄く感じるでしょう。それに、これから味が染みますから、また違う味わいになってきます。今日はタッパに入れて、持ち帰っていいですよ。ご両親さんと味わってください」
「はい。楽しみです」
「では、後は片付けと、包丁の手入れの仕方を伝えます」
まな板の消毒の仕方、包丁の研ぎ方などを教わり、器具の荒い物を終えて、この日の実習は終了した。
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