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第二部 海野汐里
22 初詣
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2学期が終わった。
麻帆ができていた教科に関しては少し上の点数で終え、看護教科に関しては点数を取り過ぎないように手を抜かないといけなかった。
私は4年生まで進級していたから、一般教科より看護教科の方に知識が偏っている。
点数を取り過ぎて転科が認めてもらえなくなるといけない、いい案配のところを目指した。
クラスで麻帆が別人になったと疑われることもなく、なんとか馴染んでこれたと思う。
木戸さんには少し落ち着いた? と言われたけど、いろいろあってとごまかすと、追求はされなかった。
毎日語りかけているけれど、麻帆はまだ眠ったまま。
このまま目覚めなかったらどうしようという不安と、真帆ならきっと目覚めるはずだと祈りにも似た気持ちを抱えながら、私は麻帆として過ごしていた。
二度目の体育祭、文化祭、終業式を終えて、クリスマスが過ぎると、あっという間に大晦日になった。
「初詣に行かないか」
短い誘い文句で、麻帆のスマホにメッセージを送ってきたのは、航くんだった。
同じマンションに住んでいた2歳年下の彼は、私たちが引っ越しをするまで毎日のように遊んでいた。テレビゲームをしたり、公園に行ったり、まるできょうだいのように育った。
三が日ぐらいはゆっくりしようと、リビングのこたつでぼんやりと正月番組を見ていた。
せっかくの誘いだし、久しぶりだし、「行く」と返事をしてから、気がついた。航くんに変に思われないように、今までより慎重に麻帆らしく振る舞わないこといけないことに。
麻帆のクローゼットから、タートルネックとジーンズを選んで着る。上着はダッフルコートにした。
私の好みではないけれど、疑念を抱かれないように、まずは麻帆らしさを取り入れた。
待ち合わせの神社に行くと、航くんは鳥居の下で寒そうにコートのポケットに手を突っ込み、肩を縮めていた。
「航、お待たせ」
くん付けをしないように気をつける。呼び捨てにしたことがないから、なんだか違和感がある。
「いや、今来たところ。久しぶりだな。体調崩して入院したってきいたけど、もう大丈夫なのか」
私と航くんが会うのはずいぶん久しぶりだけど、麻帆はいつぶりなんだろう。
「なんとか戻った。航は夏休み帰ってきてたの?」
「盆だけな。うちも法事があったからさ。それ以外は学校で勉強してた」
足並みを揃えて、鳥居をくぐって参道を歩く。
「受験間近だもんね。センター試験受けるんでしょう」
「ああ」
元旦の昼間なだけあって、込み合っている。
着物を着るほど気合を入れた人はいない。近所の神社にふらりと立ち寄った感じの人ばかりだった。
「人混み来て大丈夫なの? 風邪引かないようにしないと」
「初詣だけ行ったら、帰るよ。神様にお願いしとこうと思ってさ」
「それで呼んだの? 私にも祈れって」
「おう。祈ってくれよ」
「了解」
麻帆を呼んだ理由は、きっと顔を見たかっただけだろう。
子供の頃から、航は麻帆を見ていたから。
今、中が麻帆でないなんて、思いもしていないはず。実際は、汐里の方で申し訳ない。
「麻帆は勉強どうなんだよ。まだ先だけど、国家試験あるんだろ」
「実はさ、看護科は辞めて、調理科か普通科に移ろうと思ってるんだ」
「え? 辞めんのか?」
軽く足を止めて、麻帆の顔を見てくる。
「ちょっとついていけなくて」
「そうなのか。GWに合った時、つらそうだったからな。他に行ける道があるなら、無理はしなくてもいいのかもな」
二人はGWにも会ってたんだ。
「調理科は定員に空きが出ないといけないんだけど、普通科に行くことになったら、卒業後調理の専門学校に行こうと思ってるんだ」
「麻帆も、ちゃんと考えてんだな。どんな道でも、麻帆が選んだなら、俺は応援するよ」
「ありがとう。応援嬉しいよ」
絶対麻帆に伝えるからね。心の中で勝手に固い約束をする。
参拝を終えて、社務所に寄る。航くんは合格祈願のお守り、私は学業成就のお守り、それから二人ともおみくじと絵馬を買った。
「おみくじ、どうして二つ買ったんだ」
「私の分と、ま……お姉ちゃんの分だよ。何が出るかな」
つい麻帆の分と言いかけてしまった。気を引き締めないと。
「やった大吉! もう一枚は小吉」
「どっちがどっち?」
「え? うーんと……真ん中を取って二人とも中吉」
麻帆ならこういうかな。
「なんだそれ。相変わらず仲良いな」
航くんが屈託のなさそうな笑顔になった。
「航はどうだった?」
「俺は末吉だ」
「微妙だね」
「勉学、為せば成る。だそうだ」
おみくじの紙を広げて、航が読み上げる。
「実力勝負ってことだね」
「だな。でも神頼みもしておくよ」
絵馬に『志望校に合格できますように』とメッセージを書き、吊り下げた。
「合格したら、また来なきゃね。お礼を良いに」
「ああ、そうだな」
おみくじも木に結んでから、帰路に着く。
「なあ、麻帆? 料理してないって言ってたけど、調理科に行くなら始めてるのか?」
ぎくっとした。調理科に転科するかもしれないのに、全然作ってない。
「赤点取ったら転科できないから、必死で勉強してるんだ」
嘘じゃない。必死は誇張だけど。
「赤点は転科できねえのか。それは頑張らないとな」
「うん」
「何か作ってくんねえかなって思ったんだけどさ、また今度にしとくわ」
「ごめんね。うん、また今度」
「家まで送る」
「大丈夫。本屋寄りたいし、ここで別れよう」
「そっか。じゃ、無理すんなよ」
「航は、無理しないといけないかもだけど、体調には気をつけるんだよ」
「さすが看護科。言うことが今までと違うな。まじで気をつけるわ」
「じゃあね」
分かれ道で航くんと別れ、後ろ姿を少しの間見つめる。
背中、広くなったな。身長も高くなってる。
ずっと私の方が高かったのに。
航くんになら、安心して麻帆を任せられるんだけど、肝心の麻帆がなあ。
恋愛に興味があるように思えない。
航くんの気持ちにも気づいてないんだろうなあ。
お姉ちゃんが、キューピットもしてあげないとダメかな。
恋愛成就もお願いしておかないといけなかったんじゃないの、航くん。
こそっと背中に語りかけると、航くんがくるっと振り返った。
「受験、頑張れー」
大声で応援すると、航くんから「おー、任せろ」と返ってきて、手を振り合った。
麻帆ができていた教科に関しては少し上の点数で終え、看護教科に関しては点数を取り過ぎないように手を抜かないといけなかった。
私は4年生まで進級していたから、一般教科より看護教科の方に知識が偏っている。
点数を取り過ぎて転科が認めてもらえなくなるといけない、いい案配のところを目指した。
クラスで麻帆が別人になったと疑われることもなく、なんとか馴染んでこれたと思う。
木戸さんには少し落ち着いた? と言われたけど、いろいろあってとごまかすと、追求はされなかった。
毎日語りかけているけれど、麻帆はまだ眠ったまま。
このまま目覚めなかったらどうしようという不安と、真帆ならきっと目覚めるはずだと祈りにも似た気持ちを抱えながら、私は麻帆として過ごしていた。
二度目の体育祭、文化祭、終業式を終えて、クリスマスが過ぎると、あっという間に大晦日になった。
「初詣に行かないか」
短い誘い文句で、麻帆のスマホにメッセージを送ってきたのは、航くんだった。
同じマンションに住んでいた2歳年下の彼は、私たちが引っ越しをするまで毎日のように遊んでいた。テレビゲームをしたり、公園に行ったり、まるできょうだいのように育った。
三が日ぐらいはゆっくりしようと、リビングのこたつでぼんやりと正月番組を見ていた。
せっかくの誘いだし、久しぶりだし、「行く」と返事をしてから、気がついた。航くんに変に思われないように、今までより慎重に麻帆らしく振る舞わないこといけないことに。
麻帆のクローゼットから、タートルネックとジーンズを選んで着る。上着はダッフルコートにした。
私の好みではないけれど、疑念を抱かれないように、まずは麻帆らしさを取り入れた。
待ち合わせの神社に行くと、航くんは鳥居の下で寒そうにコートのポケットに手を突っ込み、肩を縮めていた。
「航、お待たせ」
くん付けをしないように気をつける。呼び捨てにしたことがないから、なんだか違和感がある。
「いや、今来たところ。久しぶりだな。体調崩して入院したってきいたけど、もう大丈夫なのか」
私と航くんが会うのはずいぶん久しぶりだけど、麻帆はいつぶりなんだろう。
「なんとか戻った。航は夏休み帰ってきてたの?」
「盆だけな。うちも法事があったからさ。それ以外は学校で勉強してた」
足並みを揃えて、鳥居をくぐって参道を歩く。
「受験間近だもんね。センター試験受けるんでしょう」
「ああ」
元旦の昼間なだけあって、込み合っている。
着物を着るほど気合を入れた人はいない。近所の神社にふらりと立ち寄った感じの人ばかりだった。
「人混み来て大丈夫なの? 風邪引かないようにしないと」
「初詣だけ行ったら、帰るよ。神様にお願いしとこうと思ってさ」
「それで呼んだの? 私にも祈れって」
「おう。祈ってくれよ」
「了解」
麻帆を呼んだ理由は、きっと顔を見たかっただけだろう。
子供の頃から、航は麻帆を見ていたから。
今、中が麻帆でないなんて、思いもしていないはず。実際は、汐里の方で申し訳ない。
「麻帆は勉強どうなんだよ。まだ先だけど、国家試験あるんだろ」
「実はさ、看護科は辞めて、調理科か普通科に移ろうと思ってるんだ」
「え? 辞めんのか?」
軽く足を止めて、麻帆の顔を見てくる。
「ちょっとついていけなくて」
「そうなのか。GWに合った時、つらそうだったからな。他に行ける道があるなら、無理はしなくてもいいのかもな」
二人はGWにも会ってたんだ。
「調理科は定員に空きが出ないといけないんだけど、普通科に行くことになったら、卒業後調理の専門学校に行こうと思ってるんだ」
「麻帆も、ちゃんと考えてんだな。どんな道でも、麻帆が選んだなら、俺は応援するよ」
「ありがとう。応援嬉しいよ」
絶対麻帆に伝えるからね。心の中で勝手に固い約束をする。
参拝を終えて、社務所に寄る。航くんは合格祈願のお守り、私は学業成就のお守り、それから二人ともおみくじと絵馬を買った。
「おみくじ、どうして二つ買ったんだ」
「私の分と、ま……お姉ちゃんの分だよ。何が出るかな」
つい麻帆の分と言いかけてしまった。気を引き締めないと。
「やった大吉! もう一枚は小吉」
「どっちがどっち?」
「え? うーんと……真ん中を取って二人とも中吉」
麻帆ならこういうかな。
「なんだそれ。相変わらず仲良いな」
航くんが屈託のなさそうな笑顔になった。
「航はどうだった?」
「俺は末吉だ」
「微妙だね」
「勉学、為せば成る。だそうだ」
おみくじの紙を広げて、航が読み上げる。
「実力勝負ってことだね」
「だな。でも神頼みもしておくよ」
絵馬に『志望校に合格できますように』とメッセージを書き、吊り下げた。
「合格したら、また来なきゃね。お礼を良いに」
「ああ、そうだな」
おみくじも木に結んでから、帰路に着く。
「なあ、麻帆? 料理してないって言ってたけど、調理科に行くなら始めてるのか?」
ぎくっとした。調理科に転科するかもしれないのに、全然作ってない。
「赤点取ったら転科できないから、必死で勉強してるんだ」
嘘じゃない。必死は誇張だけど。
「赤点は転科できねえのか。それは頑張らないとな」
「うん」
「何か作ってくんねえかなって思ったんだけどさ、また今度にしとくわ」
「ごめんね。うん、また今度」
「家まで送る」
「大丈夫。本屋寄りたいし、ここで別れよう」
「そっか。じゃ、無理すんなよ」
「航は、無理しないといけないかもだけど、体調には気をつけるんだよ」
「さすが看護科。言うことが今までと違うな。まじで気をつけるわ」
「じゃあね」
分かれ道で航くんと別れ、後ろ姿を少しの間見つめる。
背中、広くなったな。身長も高くなってる。
ずっと私の方が高かったのに。
航くんになら、安心して麻帆を任せられるんだけど、肝心の麻帆がなあ。
恋愛に興味があるように思えない。
航くんの気持ちにも気づいてないんだろうなあ。
お姉ちゃんが、キューピットもしてあげないとダメかな。
恋愛成就もお願いしておかないといけなかったんじゃないの、航くん。
こそっと背中に語りかけると、航くんがくるっと振り返った。
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大声で応援すると、航くんから「おー、任せろ」と返ってきて、手を振り合った。
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