【完結】二度目のお別れまであと・・・

衿乃 光希

文字の大きさ
13 / 59
第一部 海野麻帆

13 初めてのケンカ

しおりを挟む
 二階の自室に戻ると、悔しさと怒りと情けなさとで、感情がぐちゃぐちゃになった。
 どんとベッドに座り込む。机に背を向けて。
 明日から夏休み。宿題や課題がたくさん出た。でも今は教科書も見たくないし、シャーペンを触るのも嫌だった。

「転科なんて簡単にできないって。また受験かもなんて、聞いてないよ」
「ごめん。お姉ちゃんもそこまで知らなかった」

 あたしと一緒に部屋に上がってきたお姉ちゃんが、おろおろしている。
 ママに言わせると、お姉ちゃんの言葉を鵜呑みにしたあたしが悪いんだって。
 お姉ちゃんが言うんだから、信じるに決まってる。

「どうしたらいいの? 続けるしかないのかな。自信ないよ」
 弱音と溜め息しか出てこない。

「自信がないなら、無理はしない方がいいよ。だって人様の命がかかってるんだから。パパが言ったように、焦らなくてもいいと思う」

 お姉ちゃんの言葉に、カチンときた。
「もしかして、お姉ちゃん、あたしが看護師になるのが反対で、転科しろって言ったんじゃないよね」
「え!? 違う、そうじゃないよ」

「あたしみたいな不出来な人間が、命を預かる仕事なんてできるわけないって思ってるんでしょ」
「不出来だなんて思ったことないよ。麻帆は可愛い妹だから、苦しんでいるのが見ていられなくて」

「そうやって、甘やかすから、あたしはダメな人間になったんだよ」
「ダメじゃないよ」

「優秀な人にはわからないんだよ、バカな人間のことなんて」
「麻帆はバカじゃないから」

 お姉ちゃんの言い訳なんて、ぜんぜん頭に入ってこない。
 どんな言葉も信じられなかった。
 心から信用していたのに。裏切られたとしか思えなかった。

「なんで、あたしなんかを助けたのよ」
 怒りの気持ちは、去年に向かった。
 あの時に命を落としていたのはきっとあたしだった。
 姉が助けにきたのは、何かの間違いだったんだ。

「お姉ちゃんが生きるべきだったんだよ。汐里ちゃんは優しいね。賢いね。みんなに優しいね。素晴らしい人ね。褒められるのはお姉ちゃんだけ。お荷物なのはあたしの方。だったらあたしが死ねば良かったんだよ! きっと、みんな一瞬でも思ったはずだよ! どうして不出来な妹の方が残ったんだって!」

「麻帆やめて!」
 姉の手が、あたしの顔をすり抜ける。音はしない。空気の揺れも感じない。
 でも、頬を張られたのはわかった。

「今、手出したよね。優秀な人が暴力に訴えるなんて。それがお姉ちゃんの本質なんだよ。いつもは上手く隠してるんだろうけど、最後には見放すんだよ!」
「ごめんなさい。どうしたらいいかわからなくなって。でも、お姉ちゃんは麻帆の味方だよ。何があっても麻帆を守るから」

 おろおろしているくせに、口だけは守る守る。
 言ってることと、やってることがちぐはぐなんだよ!

「お姉ちゃんなんて、大嫌い」

 同じ空間にいたくなくて、あたしは部屋を飛び出した。
 荒々しく階段を下りて、玄関に向かう。
 壁に掛けている自転車のキーをつかみ取る。

「麻帆?」
「こんな時間にどこに行くんだ?」

 リビングからパパとママは出て来て、背中に声がかかる。
 無視して、玄関ドアを開けた。
 自転車にキーを差し、門扉を開けてまたがった。

「麻帆!」

 姉の声も無視して、真っ暗な中、猛スピードで自転車を漕いだ。

 行き先は決まってる。
 この一年、一度も行かなかった、行けなかった、
 姉でなく、あたしがいなくなるはずだった、
 あの海へ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

失礼ながら殿下……私の目の前に姿を現すな!!

星野日菜
ファンタジー
転生したら……え?  前世で読んだ少女漫画のなか? しかもヒロイン? ……あの王子変態すぎて嫌いだったんだけど……? 転生令嬢と国の第二王子のクエスチョンラブコメです。 本編完結済み

氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ
恋愛
彼とは長年付き合っていた。もうすぐ薬指に指輪をはめると思っていたけれど、久しぶりに呼び出された寒い日、思いもしないことを言われ、季節外れの寒波の中、帰途につく。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

処理中です...