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ボクの願いは――大辻 翔(享年11歳)

3.里都子 3

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翔は同学年の子たちと比べると成長が遅くってね。10歳でも背丈は130センチなかったわね。健康な8歳ぐらいの子とそう変わらなかったわ。だからいつまでも子供扱いしちゃって、たまにむくれるときもあったわね。
でもね、身体のほうはゆっくりでも、心のほうはしっかりしてきてたのよ。こんなことがあったの。
入院したての小さい子が薬嫌だ、飲まないって、ダダをこねたときがあったのね。若いママさんも必死に言い聞かせようとするんだけど、癇癪を起こして手がつけられなくなって。そんなとき、翔が「ボク薬飲んだらこれで遊ぶんだ」って、棚に置いてた恐竜の人形を手にしたの。小さい子って人が他人が持ってるもの羨ましがったりするでしょ。その子もそんなタイプだったのね。翔が薬を飲んで見せて人形で遊び始めたの。ガォーとか言って。その子ぐずりながらじっと人形を見てて、一緒に遊ぶって大急ぎで薬を飲んで、翔のベッドに寄ってきたのよ。二人すっかり仲良くなってね。
その子が無事に退院したとき、寂しがるかなって思ってたら、「退院できてほんとに良かった」って。自分のことのように喜んでいたのよ。お母さんも翔の成長が見られて嬉しかったわ。いつか翔もその子みたいに無事に退院できればいいなって思いながら。
だけどね、身体がわずかづつでも大きくなると、心臓に負担がかかり始めて、院内学級に通えない日が徐々に増えていったの。
ベッドから離れられなくても、体調が安定していたら院内学級の先生が個人的に勉強を教えにきてくれたり、他の患者さんたちが話しにきてくれたりもしたけど、横になったまま起き上がれない日もあったりして。食欲はないのにお薬の量は増えて、とてもつらそうだった。
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