【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第一部

40 憧れ

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 この間、早くて三ヶ月ほど。

 リュートの製作工程は大変細かい作業が続き、集中力と根気のいる仕事だった。

 演奏ができればいいというディーノは、製作過程には興味がなく、工房に立ち入ってリノの作業を見たり手伝ったりということは普段あまりない。

 起床後、外の昨夜の片付けを手伝い、いつもであれば農作業をしているところだが、ロドヴィーゴが工房にいると聞きつけて、今日は意味もなく工房にいた。リノも何も言わないので、そのまま居座って作業を見つめる。

 リノは今、ぺグの製作をしているところだった。ペグはただの細い木の棒を作って出来あがりではなく、それ自体がまるで芸術品であるかのように一部分を細くしたり、丸く削ったりと手の込んだ作業だった。

 二人に見られていても気にならないのか、リノは黙々と細かい作業を続けている。

 見ているロドヴィーゴも話しかけない。

 ディーノはというと、心臓を高鳴らせながら、リュート奏者をちらちらと盗み見ていた。

 昨夜、彼のようなリュート演奏家になれないだろうか。とふと考えたときから、今までただ憧れていただけだったのが、ロドヴィーゴと自身を比べるようになってしまった。

 彼の演奏はまだ聴いていないので自分のレベルがどれほどなのかわからない。

 体格は彼のように大柄なほうがいいのか。大酒飲みでないといけないのか。過去に奴隷であっても夢は叶うのか。貴族相手の仕事であるならば、だんまりを通したほうがいいのか。聞けもしないことを延々と考えてしまって、どきどきしたり落ち込んだり。

 一人で勝手にあれこれ考えこんで、妄想に一喜一憂して。夢の中でも考えていたような気がして、眠ったのか寝ていないのか、自身でもよくわからなかった。

 ロドヴィーゴはリノの手つきを熱心に見つめている。ときおり頷いたり、声にはださないがほぉーと驚嘆の表情を見せたり、リノの細かい作業に目を丸くしている。リュート製作に深く興味があるのだろう。

 リノが数本のペグを作り終えるとロドヴィーゴが話しかけた。質問でもしているのだろう。リノの答えに頷いてはまた訊ねている。注文をするにあたっての質問や要望を伝えているようだった。

 開いた木窓から見える空は、寒々しい灰色をしていた。もうじきに日が暮れるだろう。ディーノはランプの用意をして、そろそろ木窓を閉めておこうと思いそっと場を離れた。
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